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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
9章 教皇選挙(前編)
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報告の朝

 七人の死神(デュアルヘヴン)の全員が死神デスの区画に集合したのは日付が変わった翌朝であった。

「随分と長く作業をしてたみたいだな」

「ああ……」

 朝になってようやく解放されたモルテにアルフレッドがその事について問う。

「だけど、そんなにも大変だったのか?」

「見つけたものが他愛もないものならよかったのだがな。向こうが言うには貴重なものもあったようだ。そんなもの私が仕分けずともいいと思わんか?」

 朝まで続いた作業にげっそりしたモルテがぼやく。


 モルテが見つけた教皇室の机の隠しスペースには歴代教皇が記した記載や手記が隠されていたのだが、その中には歴史の偉人達の名が記された手紙が入っていた。

 これが他愛もない小さなやり取りであるならよかったのだが人物が人物であり、場所が場所である為に到底そんなことは誰も思えることではなかった。

 中を読み漁ると歴代教皇個人とやり取りする手紙も含まれていたが殆どは歴史的においても重要な記述やこれまで続いてきたロード教の発展と衰退に関わる出来事の一端が記されていたのだ。

 これにはさすがに予想以上の物であった為に大司祭を含め、そこから経由して枢機卿がすっ飛んでわざわざ確認に来た程の慌て振りである。

 そこからエクレシア大聖堂側で時代、人物、重要なものであるかどうかの仕分け作業が行われることになり、それが朝まで続いたのである。


 しかしこの作業、ヴァビルカ教皇の冥福を祈りに訪れる参拝者の対応や教皇選挙の準備の為に無理矢理人手を集め、さらにはまだ明かすことが出来ないからと少数で行った作業であることに加えて仕分け作業が朝までと決められていたことで夜を徹して行われたのである。

 これに参加される羽目となった助祭や司祭は入ることはないだろうと思っていた教皇室に入ることとなった時は僅かにだが緊張感を目に浮かべているのをモルテは見ていた。


 なお、何故モルテがそれに付き合わされることになったかと言うと、やはり机の隠しスペースを見つけた張本人であることと、人手が足りないからと無理矢理手伝わされたからである。

 人手が足りないのならエクレシア大聖堂側でさらに無理矢理にでも集めろと言うのがモルテの気持ちであるのだが、隠しスペースを見つけて今に至るのはとばっちりよりも見つけてしまった業によるものであり、完全にモルテの自業自得が大きいのである。



 そうして、仕分け作業から解放されたモルテは自分がいなかった間のことを尋ねる。

「それで、そちらはどうだったのだ?」

「色々と分かったことがあるんだ」

 アルフレッドはそう言うと説明をファビオとヤードに任せると視線を送る。

「ヴァビルカ教皇の半年間の行動が分かったんだ」

「ほう」

 自信ありげに言うファビオに確信を持ってのことなのだとモルテは思う。


 ヴァビルカ教皇の半年間の行動はこうだ。

 エクレシア大聖堂内においての公務。この場合は行事や来客やエクレシア大聖堂から出て直に参拝者と触れ合う等である。

 公務自体の数はかなりあったのだが、それら殆どは厳重な体制で前もって不審な人物であるか、所持品の確認もされてからの謁見である為に呪をかけるとなると場所も合間って不可能に近い。

 エクレシア大聖堂内公務での呪はないというのがファビオとヤードの考えその1である。


 エクレシア大聖堂外の公務は全3回。二ヶ月に一度のペースで各地に赴いて行われていた。

 しかし、その公務も早くて一ヶ月前に予定が組まれ、そこから警備や色々な段取りが組まれているために工夫、もしくは前もって予定等を知らされなければ呪をかけることは出来ない。

 そして、ヴァビルカ教皇が訪れた場所は殆どが教会や福祉施設、その地の中心となっている役場といったところでそれ以外の一般人と触れ合う機会は少ないのだ。

 そんな場所で呪をかけるとなるといくら工夫をしても目立つ為にやるには困難で強行手段を用いても死神や天眷者に防がれる為にこれも不可能とする見方その2である。

 半年間とはいえこれらから考えられることは、ヴァビルカ教皇に直接呪をかけるのは不可能であるのだ。



 その報告にモルテはやはりと内心で思ったが、すぐにあることに気がついた。

「そういえば指輪はどうだった?」

「ああ、この指輪はどうやら結婚指輪みたいなんだ」

「は?」

 モルテの何を行っているんだ?と言う目にアルフレッドは説明をするつもりだからと隠さずに教える。

「指輪の内側に文字が彫られていたんだ。『キャメロン・ロクサーとニーナ・ナグアの愛の証し』って」

「ロクサー?」

 出てきた姓にモルテは心当たりがあった。

「この二人がヴァビルカ教皇とどんな関係かは分からないけど……」

「何を言っている。ロクサーはヴァビルカ教皇の姓だぞ」

「は!?」

「えっ!?」

「はい?」

 モルテから驚きの真実に場は驚いて騒然とする。


「ヴァビルカ教皇の本名はクリスファー・ロクサーだ。ヴァビルカとは教皇時に改名した名だ」

「……クリスファー・ロクサー?」

「やっぱりそうだったんだ」

 ヴァビルカ教皇の本当の名前に戸惑いの様子を見せる七人の死神(デュアルヘヴン)であるが、モルテ以外で唯一オティエノだけが納得した様子で落ち着いていた。

「オティエノ、知ってたのか?」

「昨日ダーンからの手紙で。キャメロン・ロクサーはヴァビルカ教皇の双子の弟だってことが」

「弟!?」

 予想していなかった方向からの真実にまた場が騒然となった。

「どうして教えなかったんだ!」

「これが終わったら教えるつもりだったんだ。その手紙がこれだ」

 ハロルドが怒鳴るも予定していたことが狂ったのだから仕方ないだろうと言ってオティエノは見せる予定であった手紙を見せる。

「中身を見てもよろしいですか?」

「もちろん」

 手紙をヤードに渡して、ヤードは手紙を開いて僅かに中身を確認して、間が出来た。

「……出だしは愚直ですね」

 ヤードの言う通り出だしはダーンからオティエノに対する追加の調べごとを日に日に増やすなという抗議とヴァビルカ教皇のことについて調べたくないという罵倒から始まっていた。

「飛ばそう」

 ハロルドの一言でそれは言わなくていいと意見が一致して、ようやく読み始めた。


「読みます。『キャメロンはあいつの双子の弟、クリスファーの弟だ。クリスファーっつうのはクソ教皇の本当の名前だ』」

「本当に弟なのですね」

 手紙の内容に信じていない訳ではなかったがアイオラは感慨に浸って呟く。

「『だが、あいつは二ヶ月前に死んでいるみたいだ』」

 手紙の一筆が読み上げられると場が違う意味で静まり返った。

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