何事もない墓地
5月1日で死神の葬儀屋は初投稿から1年経ちました!
こんなヘッポコ作者の小説ですが読んでくださる方がいるから書いていられるものです。
本当にありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします!
モルテ達が悪魔の完全鎮圧を終えて安置所に入ると、そこも片が着いていた。
「もう終えたのか」
二体の悪魔がアルフレッドとハロルドによって既に息絶えているのを見たモルテはまだ生きている事への期待とその先にあるものへの楽しみがあった。
だが、もう少し早く来ていればよかったと、雑魚悪魔相手に力の制限などせずに一人で刈り伏せておけばよかったと僅かに後悔する。
「アイオラ」
「はい。どうやらこちらも終わったようですね」
「ああ」
モルテの声を聞いたアルフレッドはそこにアイオラもいるのを見ると状況を察して一つ頷いた。
「こちらも派手にやったものだな」
荒れてしまった安置所の様子を見ていたラルクラスは無表情を取り繕っているが内心では笑っていた。
壁の陥没はアルフレッドが近くにいたから恐らくそうなのだと見るが、何故かハロルドの近くには床に切れ込みが入っている。
それがラルクラスにとって不思議でしかない。
「俺よりもハロルドの方が派手にやったけど」
「ふん!」
アルフレッドの余計な一言にハロルドはそっぽを向いた。
しかし、本人の意思と関係なく残念ながらハロルドの性格を理解していた者達はその行動に一体どんな気の変わり様なのかと疑問に思った。
すると、安置所の惨状に茫然としてしまい今まで無口でいたヘイゼルがあることに気がついて口を開いた。
「ところで、ヴァビルカ教皇のご遺体はどこに?」
安置所を見渡せどヴァビルカ教皇の遺体が納められた木製の棺がないことにヘイゼルは不安で尋ねたのだ。
墓地区画へ訪れたのは侵入した者がいるという知らせを受けたから。もしかしたら何らかの目的を持った悪魔が棺ごとヴァビルカ教皇を持ち出してしまったのではないかと思ったからだ。
そんな不安をアルフレッドが落ち着かせる。
「大丈夫です。遺体は無事だったよ」
「それでは今どこに?」
「ヴァビルカ教皇の遺体はファビオが持っている」
アルフレッドの言葉にヘイゼルは意味が分からず呆ける。
「ファビオがですか」
「なるほど、領域か」
一方でどういうことか理解したモルテとアイオラは事情を察する。
「それでファビオは?」
「今は下の墓地をヤードとユーグと共に見に行っている」
「侵入した者が下に向かった可能性があるからか」
三人の対応にラルクラスはいい人選が向かったものだと思う。
「そうすると、侵入した者はヴァビルカ教皇の遺体が目的でないと言うことですね?」
「そうなるな」
「それならヴァビルカ教皇の遺体を狙ってもおかしくないと思うのですが?」
「そもそも、何故侵入したかが分からん」
侵入した者の意図が読めないことにモルテとアイオラは顔を歪ませた。
「何故ヴァビルカ教皇と決めつける?」
そんな二人に声をかけてきたのは意外にもハロルドであった。
「もしかしたら他の目的があったかもしれないし、俺達を撹乱する為にわざと荒らしに来たとも考えられるんだ。それに、悪魔の目的が俺達だってありえることだ」
「……嫌なものだな」
可能性があるハロルドの話に嫌な雰囲気を察したモルテはその場で聞いた限り墓地区画にいない死神に連絡を入れる。
「オティエノ聞こえるか?」
『聞こえるけどどうしたの?』
連絡をしたのは死神の区画にいるオティエノである。
「そちらは何事もなかったか?」
『なかったけれどそっちで何かあったのか?』
「ないようならそれでいい。戻ったら教える」
ある程度のやり取りをしてモルテはオティエノとの連絡を切った。
「向こうは問題ないようだ」
一応周りにやり取りは聞こえていただろうがそうだと教える。
「おーい!」
すると、墓地へと続く階段からファビオの声が響いてきた。
「これは……派手にやりましたね」
そして階段からファビオ、ヤード、ユーグが何事もなく現れる。その際にヤードが安置所の惨状に驚いていたがそれについて尋ねてはいない。
「ヤード、下はどうだった?」
「誰もいませんでした」
「誰も?」
「はい、誰も」
アルフレッドの問に素直に答えたヤードだが、予想外の答えに聞いた全員が驚く。
「一層一層を領域で探してもみたけど悪魔はもとより生きている気配がなかった」
ヤードの言葉に信憑性を出す為にファビオが自身が行った方法も付け加えて言う。
その言葉にアイオラは頭を捻った。
「そうすると、ハロルドが言った通り私達を撹乱する為に?」
「それなら目的があるはずだがその目的が分からん」
「もしかしたら、俺達を振り回すこと自体が目的だったとか」
「それならば他にやり方があるだろう」
「それがこれだったとも考えられないか?」
今回の出来事の背景とやり方に疎かな気がするが、今はそうであると認めるしかないことにモルテは頭を抱えた。
侵入者の目的が何なのかという話は保留として、今の問題をハロルドが切り出した。
「それでどうするんた?扉が壊れているからヴァビルカ教皇の遺体をここに置いておくには問題がある」
墓地区画を出入りする二つの扉が完全に壊されているからどうするのかという問いかけにラルクラスはすぐに対応を口にする。
「直るまでの間は私が領域を展開しよう」
「いいのですか?私達の誰かがここを見張っていてもいいのですが?」
「いや、そうしなければ直せるものが直らん」
「はぁ……」
ラルクラスの対応にヤードがそれならと言うが、ラルクラスはそれを拒絶した。
「それに、選挙まで欠けられては困る」
だから見張りは必要ないと言う。
そう言われてしまえば七人の死神は従わなければならない。
「ファビオ、ヴァビルカ教皇の遺体を出してくれ」
「はい」
ラルクラスの言葉にファビオは領域の応用で隠していた棺を元からあった場所に出現させた。
「これからしばらくの間、領域を展開して何人たりとも入らせないようにする。全員出るぞ」
そうして、ラルクラスの指示に全員が扉の所まで戻ると領域が展開されて一晩の間は出入りが出来なくなったのである。




