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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
9章 教皇選挙(前編)
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指輪

 夕方、それぞれの報告をしあったモルテ以外の七人の死神(デュアルヘヴン)はその内容に難しい表情を浮かべていた。

「まさかこれがか?」

「恐らくは」

 ハロルドの問いに今の雰囲気を作り出したアイオラが頷いた。

 その原因は箱に入っているペンダントチェーンに巻かれた指輪である。


 今もまだヴァビルカ教皇が浄化と隠密と封印の三つの力が込められたペンダントチェーンに指輪が巻き付けられているとはいえ呪の力が僅かに感じているからだ。

 見つけた場で大司祭二人に頼んで完全に呪の浄化を頼んでもよかったのだが、七人の死神(デュアルヘヴン)と話がまとまった後にあるであろう枢機卿の説明と、ヴァビルカ教皇が完全に呪の浄化を行わずあえて弱い浄化を込めたペンダントチェーンに封印をしていた理由が分からない為に完全な呪の浄化は先送りとなっている。


 隠密がかけられているものをよく見つけられたなと思うファビオは感慨に浸った。

「よく気づけたものだな」

「モルテが気づいてくれたから見つけられたんです」

 モルテの機転がなければ見つけることは出来なかったとこの場にいないモルテに心の中でアイオラは感謝をした。


 何故モルテにがいないかと言うと、教皇室に置かれていた机の隠しスペースを見つけたからとラルクラスと共に隠しスペースに納められている中身の確認の為に立ち会わされているからだ。

 報告に関しては後程アイオラから聞くこととしている。



 力が込められたペンダントチェーンに巻かれている指輪をオティエノはじっと見て、呪の力を感じ取る。

「これだけやってもまだ呪の力を感じるって相当に強いものだよ」

「ヘイゼル大司祭のお話しでは弱い浄化の力が込められていると言っていました」

「そう言ってたね。それで、大司祭達はそれについてどう思っている?」

「ヴァビルカ教皇のことだから何か考えてのこととしか」

「つまり、分からないってことか」

 ヴァビルカ教皇とかなり面識があるはずの枢機卿でも呪が込められた指輪をあえて弱い浄化をかけただけで隠した理由が分からないことにファビオはガッカリする。


 アルフレッドは指輪が入れられていた箱を持つと色んな方向から見る。

 その箱はあの後にモルテがちゃんと直したら箱である。

「けれど、これがヴァビルカ教皇に呪をかけた物と考えるには少し弱いかな?」

「確かにこの感覚は悪魔の中では最も強い呪ですが、これでヴァビルカ教皇が呪にかかったと言うにはやはり……」

 弱いと言いかけてアイオラは口を閉ざした。

 呪が込められた物を見つけたまではいいがやはり見つけてから何度考えてもこの程度で呪に犯されるとはありえないのである。


「ですが、この箱に相当厳重に隠していたとなるとやはり理由があるとしか思えませんね」

 そんなアイオラの葛藤を感じたヤードがフォローに入ってアルフレットが持つ箱を指差した。

「それに、私ならもう少しだけしっかりと隠します」

「と言うと?」

「私が天眷者であるなら結界も含めます。」

「それって、ヴァビルカ教皇はあえて結界を加えなかったってこと?」

「はい」

 ヤードの肯定する言葉に全員が沈黙、その意味を読み取ろうとする。

「モルテは卵のようだと言っていたようですがこれに二重の結界をかける理由はないはずです」

「一つでも充分だってことか」

「はい。私にはどうしてもこの方法があえて見つけられるようにしたとしか思えません」

 ヤードの思っていない発言に全員が理解出来ずまた沈黙する。

「……ヤード、私はモルテが言うまで気づきませんでしたが」

「コインに意識がいっていたから仕方ないとしかそこは言えません。ですが、底の高さが低いことを見るとおかしいと思うはずです」

「つまり、小細工に気づくことが出来れば誰でも気づくってことか?」

「はい。付け加えるなら小細工も必要ないと言うことです。そしてそれが卵となったわけです」

 ヤードが言いたいことが徐々に理解出来て五人は表情を固める。


「それなら何故こんな面倒なことを?」

「……例えばだけど、この指輪を見られたら困るのは誰だと思う?」

 アルフレッドの問いかけに皆が少しだけ考えて、ファビオが言う。

「そもそもこの指輪が何なのか知らないよな?」

 今まで呪を警戒して素手で触れていない為に目の前まで持って見るということをしていないことを言うと全員がそういえばと呆ける。

 そこからすぐに立ち直ったのはオティエノであった。

 オティエノは念や為にと自身の周りに領域を展開して指輪を持ってじっくり見る。

「内側に文字が彫られている」

「何て書いてある?」

 オティエノの言葉に全員が注目する。


 そして、オティエノは彫られている文字を読み出した。

「キャメロン・ロクサーとニーナ・ナグアの愛の証し」

「結婚指輪!?」

 オティエノが読み上げた言葉にまっ先に反応をしたのはアイオラであった。

「アイオラ、抑えろ!抑えろ!」

「それよりもそこに刻まれている二人は誰なのでしょうか?」

「教皇の知り合い、と思っていいと思いますが……」

「そんな愛の証しとかいうのを何故ヴァビルカ教皇が持っているんだ!?」

「知りませんよそんなこと!」

 とんでもない品物と判明して三度目の沈黙が起きる。

「知り合いとするなら、枢機卿から聞くか、ミゲルとダーンに調べてもらうか」

「そうだね」

 とりあえず指輪に彫られた二人についての方針が決まって、何故か疲れたとそれぞれが溜め息をついた。



 その時、部屋に突然鈴の音が響いた。

「何だ?」

 今まで鈴がなったことがないために全員が頭に疑問符を浮かべていると、廊下から走る音が響いてきた。

「どうしたんだ?」

 死神デスの区画に今いるのはモルテ以外の七人の死神(デュアルヘヴン)とユーグのみ。そして七人の死神(デュアルヘヴン)の六人が同じ部屋にいる為に自然と走っているのがユーグと断定して何があったのかと扉の近くに座っていたファビオが立ち上がって廊下の様子を見る。


 廊下にはユーグが慌てた様子で走って来ているのが目に入った。

「ユーグどうした?」

「ファビオさん!?」

「何か慌てているみたいだがどうしたんだ?」

「実は、何者かが墓地に侵入したようでして……」

「は?……はぁ!?」

 死神デスの管理下である墓地への侵入という知らせにファビオは一瞬間を置いて驚いた。

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