生き返り?
深夜。日付が変わり夜の闇が深くなった時間に葬儀屋フネーラの仕事場で異変が起きていた。
仕事場の台に寝かせていた酒くさかった男が小さなうめき声を上げて目を覚ましたのだ。
「……うぁぁ~、寝過ぎたか?」
この男、実は死んではいなかったのだ。
一つあくびをして男は暗闇に慣れた目で周りを見舞わした。家の装飾ではなくどこかの仕事場を思わせるような調度品が置かれている。どうしてここにいるのかと記憶を辿る。
確か行きつけの飲み屋で飲んだ後帰路についたはず。それが何故ここに寝かされていたのか分からない。
「そういや誰かに殴られたか?」
妙に痛い頭を押さえながら起きる。
間違ってはいない。朝になったと思い目を覚まそうとした時、モルテの回し蹴りが直撃して床に突っ込み気絶をしたのだ。
「とりあえず帰るか。ここがどこか分からないが後で礼を言いにいけばいいか」
男は一つ背伸びをすると足下に注意をしながらゆっくりと歩いた。
途中でカーテンが遮っていてぶつかったのには驚いた。
そうして時間をかけて扉の前まで来てドアノブに手を握り、ゆっくりと開けた。ドアベルは鳴らなかった。
「娘に何て言い訳しようか……」
恐らく日付が変わっているだろう。深夜まで何やってるんだと怒鳴る娘の顔を思い浮かべながら男は溜め息をついて振り返った。
「へ?」
その前には三名の警官が立っていた。
「悪いがお前を逮捕する」
「はあぁぁぁぁ!?」
真ん中に立つ警官の言葉に男は信じられないものを聞いたというように叫んだ。そんな男をよそに二人の警官が男の両腕を抑えると車へと運んだ。
「ま、待て!俺が何したっていうんだ!何もやってない!」
そんな男の言い訳を聞き流しながら運ばれて行くのを見るアドルフは溜め息をついた。
「予定通りだな」
そんなアドルフに扉を開けてモルテが言った。
「明日までと言ったからな。それが真夜中に引き取りに来いと連絡が来た時は驚いたぞ」
「日付が変われば引き取りに来るだろう。結果的にあれが目を覚まして捕まえることができた。損ではないだろう」
「こちらの事情ってもんも考えろ……」
モルテとの会話にアドルフが毒づく。
「だが、あいつらにとってはいい経験になっただろう?」
「……ああ。死因を確認することをな」
モルテの言葉に一つ頷くアドルフ。
「倒れている相手が生きているのか死んでいるのか分からない。まして相手が言ったことを鵜呑みにするようではまだまだだ」
「普通の人間では見ただけで相手が生きているのか死んでいるのか分からないものだからな」
モルテとアドルフは車に男を押し込む二人の警官について話した。
「そういや、ドアベル鳴らなかったな」
「ドアベルならここだ」
ドアベルが鳴らなかったのに気がついたアドルフの問にモルテは懐から扉につけていたドアベルを取り出すと小さく揺らして鳴らした。
かくして、葬儀屋フネーラに運ばれた酒くさかった男は現行犯逮捕された。何故逮捕されたのか分からなかった男は事情を聞かされ落胆。
そして、早朝に警察署に訪れた娘に……
「生き返っちゃった」
「やっぱり死んでろクソ親父!」
と娘から何度も罵声を浴びせられていた。
「あと、保釈金出せる?」
「そんなお金あるわけないでしょ!ここで反省してろ!」
そして、しばらく警察署に預けられたのだった。
* * *
モルテとアドルフが会話をしていた同時刻。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
少女が一人、建設途中の高い建物の最上階にいた。
少女の息づかいは荒れていて、目には涙が溢れていた。
そして、手で耳を塞ぎ目をぎゅっと閉じた。
「いや……いや……もうやめて!」
暗闇の中で少女の声が響いた。
しばらくして少女は耳から手を放した。
「ごめんね……お母さん……」
そう呟いた瞬間、少女はその場から飛び降り、真っ赤な鮮血の花びらが散った。




