面倒な手間
ハロルドの有無を聞かずにアルフレッドはそのまま8年前の招集時にあったとこを手短に話し始めた。とはいえ、現在の状況であまり話が長く話すことが出来ないこととアルフレッド本人と他の招集者達のプライドを傷つけない為に割愛している部分もあるが。
そして……
「おかしいだろそれは?」
「そうかな?」
「そうだろ!」
怪訝なハロルドにアルフレッドはきょとんととした。
「どうして悪魔よりも同じ死神がトラブルを起こしているんだ!」
「悪魔に振り回されたからな。……俺もそうだし……」
「その悪魔も何故話しに出ていた様なことを!?」
「先代の死神を殺せる最後のチャンスと新しい死神となったラルクラスが力を馴染ませるのに時間があったからだ。だから悪魔は無茶でも攻めて来たんだ」
「だからってそれは……」
無謀と言いかけて、アルフレッドが困ったよなと言う。
「あいつらは数とか関係なく今ある分を効率よく押し付けてくるし、目的に必要だと思ったら躊躇ないんだ」
「自虐的と言うか自滅に向かっていると言うか……特攻にしか思えないな」
「だからここじゃそう言うのが普通と思うべきなんだよ」
「……納得いかない」
もはや自分の感覚がエクレシア大聖堂では通用せず、しかもエクレシア大聖堂で起こる出来事や話を聞いたところでその普通が異常であることを理解出来ても自分の感覚に基準というものがあるためになかなか受け入れられないハロルドは頭を抱えたくなった。
8年前に何があったか要約をするなら、継承の儀には一つの難点があり、そこを悪魔が付いてきて七人の死神が対応をしたのである。
その難点とは、継承の儀を行うと不思議なことにエクレシア大聖堂に張られている結界に干渉を起こして不完全な維持が数日続くのである。それは前回の先代の死神であるハイエントからラルクラスへの継承の儀も例外ではない。
その為に悪魔を蹴散らすのが七人の死神の役割であり、エクレシア大聖堂にいる天眷者と共に行う。それが継承の儀に選ばれた七人の死神の役割である。
悪魔は結界が弱まるとチャンスと見てはエクレシア大聖堂へ侵入しては様々な騒動を起こすのだが、それらは全て個々から集団とバラバラで七人の死神はそれらを全て蹴散らす為に日夜動くのである。
しかし、死神も人間である為に気持ちの維持が長く保てないということもある。その為に気持ちが耐えきれなくなり現状に嫌気が差したり、どうにかして状況を変えたいという気持ちから予想のつかないことを繰り出しては死神と悪魔双方にとって思いもよらない結果が生み出るようになったのだ。
例を上げるなら悪魔を見つけた瞬間に領域の応用でサンタリアから飛ばして、飛ばした先のヘルニアの死神に倒してもらうように前もって頼んでおいたり、集団で押し寄せてきた悪魔のど真中に七人の死神の一人を理由を何も言わずに落として双方が混乱に陥ったり等々。
結界、それなら慣れて利用してしまえばいいということから深く考えないこと、突っ込んだら負けという雰囲気で対処をしていたらいつのまにか少しのことでは動じなくなり、役目をしっかり果たしていたのである。
ここのところはさすがに死神に認められて招集された実力者と言うところである。
ちなみに、当時のアルフレッドは荒波に飲まれて強くなれと言われてとある死神に悪魔のど真中に落とされた張本人である。
突然迎えた窮地をアルフレッドは何とか持ち前の実力でなんとか切り抜けたのだが、誉めるべきか呆れるべきか分からないがこれを切っ掛けに小さなことでは動じなくなってしまったのである。
なお、窮地を切り抜けた後にはちゃんと突き落とした死神に怒りと鉄槌を数回繰り出しているのでその事については引きずっていない。
8年前の話しに飽きれ顔を浮かべるハロルドにアルフレッドが経験者として言う。
「嫌でも慣れるから仕方がないよ」
「絶対にお断りだ!」
そんな出来事に慣れる奴は頭がどうかしていると言わんばかりの速攻の拒絶にアルフレッドは苦笑いを浮かべた。
「あはは、昔の俺もそんなこと言って結局慣れたんだから慣れるんだよ」
「は?」
アルフレッドの発言にどういうことだと聞こうとして、突然展開していた領域に悪魔が触れた気配を察して二人は身構えて話を中断させた。
「またかかった!」
「今度は4、多いな……」
「何を言っている?これくらい七人の死神として刈らなければならないだろ!僕は先に行かせてもらう!」
そう言って駆け出したハロルドにアルフレッドはやれやれと思った。
「刈り取らないって言ってないんだけどな。それに、今から気持ちを入れすぎていると折れるぞ」
かつてそれを痛いほど経験したアルフレッドはハロルドの行動に今も心配になりながらも駆け出して後を追った。
◆
その頃、主がいなくなった教皇室は数日振りに扉が開かれて人の足が入った。
「すごい……」
色んな手順を踏んでようやく許可が降りて始めてみる教皇室にアイオラが声を上げた。
部屋が広く壁や天井には装飾が施されていて権威者の部屋という印象を思わせる。
「綺麗にされているのだな」
「はい、ヴァビルカ教皇がお亡くなりになられてからは遺品をおまとめして清掃をしております」
「ふむ」
部屋の状態をその様に答える枢機卿のヘイゼルにモルテは部屋を見回した。
「ヘイゼルさん、ヴァビルカ教皇の遺品はどちらに?」
「隣の部屋に全て置いております」
「何故隣に置いてあるのだ?」
「喪服中だからです。それが終わりましたら下の部屋に収納することとなっております」
「二度手間だな」
アイオラの質問に素直に答えたヘイゼルの言葉に決まりがあるとは言えめんどくさいなとモルテが突っ込んだ。
その突っ込みに気にせず前向きに見るアイオラが両手を合わせる。
「ですが、そのお陰でこうして近くでやりとりが出来るんです」
「確かにそうだが……」
教皇室に遺品があると聞かされた時点で何となくこうなる気がしていたモルテはラルクラスを睨み付け、ラルクラスは無表情で視線を受け止めている。
「さっさと始めるか。私はこの部屋を見る。アイオラは遺品を頼む」
「はい」
もう遺品の置場所の追及を止めるとやけくそになりながら指示を出したモルテにアイオラは文句を言わずにさっさと隣の部屋へと向かう。
「ヘイゼル殿、ここはお願いいたします」
「はい。ウッドロウ殿は死神と共にお願いいたします」
「はい」
アイオラの後をラルクラスと枢機卿のウッドロウ・ルーシャが追う。
こうして教皇室に死神が求めるものを探すために捜索が入った。




