大変な役割
「あ~、連れて行かれたな」
隣の部屋でラルクラスがモルテとアイオラのやり取りの末に連行されるのを立ち聞きしていたハイエントは面白いと笑いながら出て来くと、置いていかれて茫然と立ち尽くしているユーグに声をかけた。
「気にするなユーグ。どのみち教皇室にはあいつが立ち会いしなければならないことだからな」
「だけど連れて行くって、強引過ぎる気が……」
「それがモルテと言う女だ。諦めろ」
「……アイオラさんは?」
「丸く納める感じだな」
「ああ……」
どうやら面倒な組み合わせによって師であるラルクラスが連れて行かれたのだと理解したユーグは息を吐いた。
そこにハイエントに続いて隣の部屋にいた客人が出て来た。
「しかしなぁ、これは少し遅いんじゃないかの?」
「やることが多すぎて人手不足なんだろうよ。やらねえとならないことに頭が回ってないのは仕方ないだろ」
「それでは、私達も手伝うか?」
「何冗談言ってんだ!まだ俺等がここにいるってことは七人の死神に知られる訳にいかねえんだぞ」
「本気だったのだが」
「おい!」
予定を狂わせるつもりなのかと同じ客人に突っ込みを入れるハイエントをユーグが咎める。
「ハイエントさん、声が大きい……」
「……すまん」
「そうそう、気が高ぶると声が大きくなるのがハイエントの悪いところだからの」
「あんたが変なこと言うからだろ!」
「ハイエントさん!」
客人につつかれまた声を上げるハイエントをユーグが止めに入る。
そんな二人のやり取りを客人は面白そうに見ながらソファーに座った。
「さあさあ、そろそろ早いところは動いている私達はコルクスを待ちながらお茶でもしよう」
「って、何寛ごうとしているんだ!」
「こっちでやることがなく暇だからだ」
「だったら向こうで天馬の毛並みでも綺麗にしていろ!」
「ハイエントさん落ち着いて!」
さらに弄る客人にまた大声で突っ込みを入れるハイエントをユーグがまた止めるのであった。
◆
資料庫でオティエノは4つのテーブルに山として置かれた資料を見て呟いた。
「話には聞いてたけど予想以上にある……」
資料庫へ着く前にヤードとファビオから一通り現状を聞かされていたオティエノは甘く見ていなかった筈なのに予想以上に多い資料に言葉がそれしか出なかった。
「と言っても、これでも大分減らしたり区別した方だ」
「そんなに!?」
「もう2つテーブルが山になっていましたから」
「どれだけ詳細に記録していたんだ?」
オティエノの言葉にヤードとファビオは今日も監視の為に同行しているカクマーとホーマンの二人の司祭に視線を向けた。
そして、カクマーがオティエノに昨日した説明をしようと口を開こうとするのを見たファビオが冷静を装って、けれども内心では慌てて言う。
「それ聞いたら負けな気がするから聞かない方がいいよ」
「……そうだな」
ヤードとファビオの目力に押されたオティエノはそれ以上の追及を止めざるを得なかった。
大量の資料についての突っ込みが終わると方針を話し合う。
「それでどうするの?俺は二人の指示に従うけど」
「そうだな……」
「それでは、オティエノはヴァビルカ教皇がエクレシア大聖堂内で公務の為に会った人達の記録を調べてもらっていいですか?」
「中か。この数に後回しにしていたが、オティエノが来てくれたから出来るな」
「……それ一人でするの大変だと思うけど?」
オティエノは二人がエクレシア大聖堂外の記録を二人で調べていることを聞いているが、明らかに内部の方での公務が多いことは目に見えている為にこのことについて述べるのはごもっともと言える。
「それでは私が手伝いましょうか?」
「ちょっと待ったヤード!何勝手にそっちをやるって……!?」
「公務の数が少ない方をファビオに譲ると言っているんです」
「体よく押し付けただけじゃないか!」
ヤードの提案を否定するファビオだが、それは聞かないと勝手に推し進める。
「いいでしょうかオティエノ?」
「あ、ああ……」
ヤードの無言の威圧にオティエノは頷くしかなく、ファビオは文句が通用せず一瞬だけ絶望の表情を浮かべてヤードを睨み付けるも、すぐにしょうがないと何か覚悟を決めた顔をするのであった。
なお、オティエノは途中で知ることとなるが、外の公務はエクレシア大聖堂の公務以上に詳細な記録されている為に要約が困難なのである。
付け加えるなら、外の公務は長い時間をかけて先方と調整している為に詳細であるが、エクレシア大聖堂の公務、この場合は面会であるが、長い時間をかけて調整されたものもあれば当日に突然決まったものとある為に、外よりは記入することが少ないことで一つの記録書自体外の公務よりも薄いのである。
その為に外の公務よりも早く要約をすることが出来、すぐに一人でも要約が出来ることになるのである。
ファビオに面倒事を押し付ける形で方針が決定すると三人は早速資料の要約へと取りかかり始めてしばらく。
「これとこれは見たから片付けてください」
「はい」
速読術で読み終えて溜め込んでいた資料を片付けてもらうように司祭二人に頼んだオティエノはその背中を見届けた。
「速いな」
「これくらいいつものことだけど?」
オティエノの要約の速さに口を開けて驚くヤードとファビオ。
そんな二人にオティエノは不思議に思いながらも、司祭二人が近くにいないことを確認して語りかけた。
「それよりも、二人は今朝の話をどう思った?」
「どうって?」
「前から思っていたんだけど、今朝の話しで本当におかしいと思ったんだ」
「どんな感じにだ?」
「感覚的にたけど……」
ファビオからの追及にオティエノはまだ感覚から感じた予想を言った。
「もしかしたら、悪魔は関わっていないんじゃないかと思うんだ」
とんでもないことを言ったオティエノにファビオは驚いて目を見開いた。




