新たな調べ事
サンタリアの外、ヘルミアでは早朝から人々が街に出向いていた。
「朝早くからごくろうさんだな。ま、俺も言えたことじゃないがな」
行く先々ですれ違う殆どがサンタリアのエクレシア大聖堂に行く観光客とロード教の信者であるとメサ・ライオッド・リゲルが移動式の露店を引きながらその光景を見ていた。
「今日で三日か……」
ヴァビルカ教皇の死去が発表されてから日に日にサンタリアへ入る為にヘルミアを訪れる人達が増えて来ていた。
それはそれでメサが文句を言うつもりはない。
メサは露店を引きながら観光客相手に土産物を売るのを生業としている。多くの人が訪れてくれるとそれだけで収入が増えるから有難いところである。
だが、人が増えると同時に悪魔が増えることだけは気にくわないし唯一の不満である。
「七人の死神の頼みか。オウガストも面倒な役回りを押し付けたものだ」
早朝にオウガストから調べてほしいとことがあると頼まれたメサはその内容に面倒事の何かを感じていた。
「七人の死神からの頼み事はろくなことがないからな……」
8年前のことを思い浮かべてメサは溜め息をついてもやらなければならない義務感に教えられた場所へ歩く。
ヘルミアの死神はサンタリアと接しているために他の地域の死神とは違う役割を担っている。
その役割とは悪魔の対応である。
ヘルミアはサンタリアへ侵入する悪魔が身を潜めて機会を伺う場である。特に死神の招集がかかるとサンタリアへ侵入しようとする悪魔が倍になって増える。
そうなるとサンタリアだけでなくヘルミアにも危険が出る為にヘルミアの死神は悪魔の侵入をヘルミアで食い止めると共に死神と七人の死神からの頼みで悪魔である可能性の者を炙り出して始末する役目を担っている。
つまり、ヘルミアは他の場所以上に悪魔絡みの事件が多いのである。場合によっては近くの死神に救援を呼ぶほどに。
「ここら辺か?」
どうせ露店を置く場所への通り道だから確認に行ってくれとオウガストに無理矢理教えられた場所の付近に着いたメサは周りを見る。
「要注意か……」
詳しいことは知らされていないが悪魔絡みであることは察しているメサは慎重に大通りから細い路地を歩こうとして声をかけられた。
「すまないが通してくれ」
「は?」
背後からの声、警察である。
警察は呆けるメサを横切ると急いで路地を駆けて行った。
「……嫌な予感がする!」
警察の様子から慌ただしさを感じたメサは露店をその場所に置いて急いで後を追った。
そして、最初に目にしたのは群衆であった。
「まさかこんなことが……」
「どうして……」
「一体誰が?」
群衆の話に耳を傾けながら中を掻き分け……とは行わずメサはその場で自身の周りに領域を展開して屋根へと飛び、死神の力を目に纏わせて真下を覗く。
「遅れたか」
群衆の話からそれとなく予想はしていたが、通りに一人の男の死体、それも七人の死神からオウガスト経由で調べてくれと頼まれていたエクレシア大聖堂の料理人である。
料理人がエクレシア大聖堂へ向かう途中に何かを理由にして突然死んだのなら問題はない。しかし、メサの目からして料理人は既に魂がない状態であった。しかも、肉体と魂との繋がりが無理矢理切られていることから喰われたことが分かる。
「何処にいる!」
メサはありったけの力を目に纏わせて魂を喰ったと思われる悪魔を障害物関係なく探し始めた。
必死になって探す理由は単純。ここで報告をしたら何故悪魔を探さなかったのかとオウガストに怒鳴られるからだ。
「あそこか!」
そしてすぐに見つけると足に力を入れて一瞬で飛んだ。
普通の人間なら感じることが出来ない威圧感を異形の姿となって一人の人間の魂を半分まで食べ終えていた悪魔は感じ取った。
「これは……!」
食べるのに夢中になって気づくのが遅れたか悪魔は続きを言おうとして、地面から突然現れた鎖に体を巻き付けられて身動きがとれなくなる。
「くそ!」
「喰っている時は無防備だな」
跳んでいる時に悪魔の周りに撃ち込んだ力が具現化した鎖に呆気なくな捕まった悪魔を見ながら着地したメサは首元に鎌を突きつけた。
本来はここで悪魔を問答無用で真っ二つにするところだが、事が事である為にわざと生かしている。
「どれだけ喰ったかはしらないが、向こうの通りで魂を喰ったのはお前か?」
「だったら何だ?」
身動きを封じて鎌を突きつけていると言うのにあっさりと言う悪魔に拍子抜けするメサだが警戒心は解いていない。
「何故食べた?」
「餌を食べるのに理由がいるか?」
「それだけか?」
「他に理由があるか?貴様等死神も肉や魚は餌でしかなかろう。餌でないものに他の理由がある?」
質問をしても求めている回答でないことにおかしいと感じたメサは思いきって踏み込んだ。
「奴は貴様等が操っていたんじゃないのか?」
今まで抱いていた予想をそのままぶつけると悪魔はいい加減にしろと言うように言い放った。
「餌でしかない者は知らん」
「そうか」
どうやら料理人の魂を喰ったのはこの悪魔らしいが料理人は悪魔と関係ないことが分かったメサは無言で鎌を巨大化させるとそのまま悪魔を真っ二つに切り裂いた。
◆
「以上になります」
手紙に書かれていた顛末を読み終えたアイオラはそう告げると聞かせていた他の七人の死神を見た。
「悪魔が力を付ける為に犠牲になったとは……」
「しかも、そのメサって人物から見て料理人は悪魔とは無関係と言うわけか」
「もし関係があったらこのまま生かして何か仕込んでいたかもしれないな」
「それはつまり、その料理人と悪魔には関係がないってことか」
怪しいと思っていた料理人が無関係であることが分かったが、確認の為にアルフレッドがアイオラに尋ねる。
「他の料理人達が操られているってことはないかな?」
「私が見た限りでは居ません」
「俺もアイオラと同じだ」
昨日同行したオティエノの混じってそれはないと否定するアイオラ。
「もしかしたらだが、料理人達は関係ないのかもしれないな。完全にとは言えないがな……」
今までの話からモルテが全員が憶測で言うことを避けていたことを言う。
「けれど、そうしてら一体何処でヴァビルカ教皇は呪にかかたって言うんだ?」
今まで呪は食べ物に込められている可能性が高いと考えていた為にそうでなければ他に何があるのだとハロルドが問う。
「もう一度洗い出す必要があるな。場合によっては教皇室と所持品もだ」
「最初にしておくべきだったかもしれない……」
ヤードの調べ直すと言う言葉にオティエノがガックリと肩を落とした。
「言っても仕方がないよ。それで、誰が調べる?」
新たな調べ事が増えた為にアルフレッドが誰がやるか問うとすぐにアイオラが挙手した。
「私が行きましょうか?」
「アイオラが?」
「はい。しばらく調理場へ行くのは理由がありませんので」
「そうか。それじゃ……」
「私も行こうか?」
「モルテ!?」
アイオラに頼もうとした直後、モルテも挙手する。
「モルテは死神の護衛があるだろ!?」
「どうせラルクラスを経由して許可をとらなければならないのだ。それに、ラルクラスは特にやることもないらしくてな、ついでに連れて行けばいいだろう」
「ついでにって……」
「そもそも連れ回すって何?」
「さすがは前回招集されただけの余裕がありますね」
「いや、モルテだけだからそれするのは……」
モルテの発言にとんでもないなと思う七人の死神。
そして、何故か話はモルテとアイオラがラルクラスを連れて行く流れとなり、それを聞かされたラルクラスは呆然と流されるまま連れて行かれることとなる。




