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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
9章 教皇選挙(前編)
303/854

先代デス

 七人の死神(デュアルヘヴン)が明日の予定について話しているその頃、

「はははははははは!!」

 ラルクラスの部屋で客人が盛大な笑い声を上げていた。

「そんな笑うことか?」

「笑うだろ!はははは!!」

「……こっちが不憫に思うからやめてくれ!」

「ラルク兄……」

 客人の様子に不機嫌になるラルクラスをユーグが憐れと思って見つめる様子がさらに不憫さを増す。

 そんなラルクラスに笑っていた客人が面白そうに言う。

「不憫とは何だ?自業自得だろ?」

「あれは自業自得じゃなくとばっちりだ!こうなると思っていなかったんだからな!それにあんなこと言ったのはハイエント、あんたじゃないか!」

 現状を自業自得と絶対に間違った言い方をする白髪の綺麗に年を取った60代程の男性ハイエント・ジランド・ムリファインに怒鳴るラルクラス。

 だが、ハイエントは眉を少し上げただけでそれが何だと避ける。

「おいおい、人のせいにするな。今の結果を招いたのはラルクラス、お前だ」

「庇いもしねえで言いやがった……」

 はっきりと悪いと言われたラルクラスは睨み付けるが、ハイエントはつまみを口にするとラルクラスに指を指した。

「庇うわけないだろう。いくら先代で師である俺がいるから甘えられると言っても、もうお前は死神デスなんだ。こんなどうでもいいことで喚くな」

「甘えていない、愚痴っているだけだ!」

「なら耐えろ」

 そう言ってまたあしらうと、不貞腐れたラルクラスの表情を楽しみながらハイエントはつまみを口にする。


 ハイエント・ジランド・ムリファインは先代の死神デスであり、ラルクラスの死神の師匠である。

 8年前の継承の儀でラルクラスに死神デスの死神名と共にあらゆるものを継承させたその後は全く分かっていない。

 多くの死神達は継承の儀は死神デスが死に近いから行われるから亡くなっていると誤解をする者が多いが、実際はそんなことはなく、継承の儀は死神デスの任意によるものが大きい。

 それは先代の死神デスであるハイエントも同じであり、ラルクラスに継承させた後はエクレシア大聖堂ではない場所でひっそりと隠居生活を送っていたのだが訳あってこうしてまたエクレシア大聖堂、ラルクラスの元へもう一人と訪れている。



 渇いた喉をワインで潤したハイエントはまだ不貞腐れているラルクラスを見て笑った。

「それで、どうなった?」

「……動きは速かった。今日だけで雑魚悪魔が10以上も刈られた」

「ほう……」

 結界の影響で悪魔が弱くなっているとはいえ10体も刈り取ったのは出だしとしては上々、けれど楽観出来ないとハイエントの表情が一気に無表情に変わる。

「だけど、こんな数じゃないってラルク兄は言ってたけど?」

「そうだな。悪魔が最も侵入しやすいのが結界が弱まった時、つまり今だ」

「だけど……」

 ユーグか結界について言及しようとした時、バサバサと黒い羽を羽ばたかせてコルクスが部屋へ入って来た。

「おう、コルクスか」

「おかえり、どうだった?」

『今日の続きをする方針で決定した。細かく言うならばオティエノがヤードとファビオの方に回っただけだ』

「そうか」

 七人の死神(デュアルヘヴン)の様子を見に行ってもらっていたコルクスの報告にラルクラスは考え込んだ。

『それとミゲルとダーンからはまだ来ていない』

「ほう、ダーンが?」

 コルクスの口からまさかダーンの名前が出ると思っていなかったハイエントが驚く。

『そうだ。ハイエントが20年前に呼んだあのダーンだ』

「おいおい本当か?ダーンだけは手伝わないと思っていたが?」

『孫娘に説得されたようだ』

「孫娘?」

 孫娘と言う言葉に目を丸くするハイエントは徐々に我慢しきれなくなり、笑い出した。

「はははは!まさかダーンにそんな弱点があるとはな!」

「ラルク兄から頑固者って聞いてたけど、意外……」

 ダーンの意外な弱点に笑いが止まらないハイエントに、ダーンがどういう人物か聞いていたユーグも気持ちと同じと頷いた。

『ハイエントが知らなくてしかたなかろう。孫娘は前回の教皇選挙が終わってから産まれたのだ』

「それじゃ知らなくてしかたないな」

 教皇選挙後、表立った活動をしてこなかったダーンであるから孫娘の存在が知らないはずだと納得する。


 ダーンについての会話が終わると、考え込んでいたラルクラスがコルクスに質問をした。

「コルクス、今のところ気づいているのは?」

『二人と言ったところだ』

「他は?」

『気づきかけているのが一人だ』

「つまり、あと四人は気づいていないか」

『いや、きっかけさえあればすぐにでも気づくのが二人いる』

「つまり、あと二人が問題ってことか……」

 ラルクラス達からしてみればあまり良い進行状況でないことにどうするかと頭を抱える。

「コルクス、気づいている二人ってのは?」

『モルテとアルフレッドだ』

「ああぁ~~」

「やっぱりか……」

「あの二人ならあり得るな」

 ユーグの質問に答えたコルクスの言葉に納得と唸る。

「それで、気づきかけてるのは」

『ヤードだ』

「彼か……恐らく遺体の状態から薄々と感じているんだろう。一つでも確信が得られるものがあったらすぐにでも辿り着く」

「そうだな」

 今度は逆に驚かず関心する一同。

『あとはアイオラとオティエノだろう。この二人も不審な点に気づくことがあればすぐに分かる』

「そうすると、問題はハロルドとファビオか……」

「どうするんだラルクラス?」

「あんた達も考えてくれよ!」

 こっちに任されても困ると客人二人に投げ槍に言って考え込む。


 そしてしばらくして、

「そうだ、これはどうだ?」

 もう一人の客人が部屋にいる三人と一羽に言う。

 その案に全員が驚いてしまう。

「おいおい、それは……」

「周りにもバレる気が……」

「そうかの?」

「……いや、これを加えるなら……」

 渋るハイエントとユーグにラルクラスが新たな案を付け加える。

「……どう思う?」

「……ラルク兄、それは強引じゃ?」

「それで周りに悟られたらマズイからな……」

 出来るだけ穏便にと思うハイエント。

 そんな時にユーグが思い付いたと声を上げる。

「……あ!」

「どうしたユーグ?」

「ラルク兄、これはどうだ?」

 ユーグはたった今思い付いた案を伝えた。

 そして、その案は全員を唸らせるものであった。

「確かにこれなら向こうからやって来る。必要なのは……」

「時間だ」

「けれどもそれは……」

「ああ、あっちが派手にやってくれるならすぐにでも出来る」

「耳と気配を尖らせておけ」

「ああ」

 一気に方針が決定するとラルクラスは最初にこのとんでもない案を出した客人に顔を向けた。

「そういうわけだ。もしかしたら予定していたよりも早くなるかもしれないから準備だけはしておいてくれ」

 ラルクラスの言葉に客人は微笑んだ。

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