悪魔
アルフレッドの拘束に今も抗う『異形』を見てハロルドは溜め息を付いた。
「そもそも、どうしてあんな分かりきった罠に引っ掛かったんだ?」
「それはやっぱり、死神と一目見て分かるこれを羽織っていたからだ」
アルフレッドは自分達がサンタリアにおいて死神であることを証明する黒コートを摘まんでこれだと言う。
とは言え、サンタリアにおいて黒コートを羽織っているのが死神と理解している者は聖職者を覗けば殆どいない。
それなのに何故アルフレッドとハロルドは黒コートを羽織ったままエクレシア大聖堂の外へ出たのか。
それは、死神がいると言うことを知らせる為である。
とは言え、アルフレッドとハロルドの存在はサンタリアへ訪れている普通の人々の目には捉えられていなかった。
では誰に捉えられてほしかったのか。それがアルフレッドとハロルドが探していた『異形』の存在であり、その為に自身の周りに領域を展開して何らかの力を持っている者にしか見えないようにしたのだ。
その結果、いるのにいない認識されない世界が生まれ、それに気づいた力を持つ者が気になり引き寄せられる構図となる。
しかし、その世界で目当ての『異形』に見つけるか見つけてもらえるかは運。さらに誘いに乗って付いて来るかも運。運もいいところの出たとこ勝負である。
実際に冷静に状況を読み取れる『異形』であったなら誘い出す罠と認識して乗らなかっただろう。しかし、力が削がれた上で何かしらの理由で付いて来たとなると、そこからは死神の作戦その2である。
付いて来ている存在が『異形』であることを前提とするなら、『異形』は削がれて弱くなった力を回復させるために人間の魂を欲する。それは人間である死神でも同じこと、狙われる理由は十分である。
その瞬間を狙って両者は化けの皮を剥がす。
しかし、ここで付け加えることは死神があえて逃げに回ること。その理由は被害が最小限であり周りに気づかれない場所への誘導と『異形』への変身である。
この2つが揃うまで死神は逃げ、そして、もう一人が捕まえるという手はずである。
この罠を考えたのはアルフレッドであり、ハロルドは非常にめんどくさいと反論したのだが、どのみち『異形』を見つけなければならないからと渋々同意した上、コイントスで囮役となったのだ。
少しでも抜けていれば恥ずかしいは命を落とすとハロルドの機嫌は悪いものである。
「つくづくこいつらも懲りないな」
「全くだ」
まだ抵抗する『異形』をもう押さえつけているのがめんどくさいとアルフレッドが小さく出現させた鎌で腕と足を切り落とす。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
「こんなことで死なないだろ」
切り落とされた痛みに今度はのた打ち回る『異形』にハロルドが冷徹に語りかける。
「そもそもこいつらは痛みをあまり感じていないだろう」
「ただの演技だって分かっていたところで胸糞悪い」
『異形』がどういった存在か知るだけに、あまりにも大袈裟な演技に徐々に嫌気が差してきた。
「ハロルド、領域は?」
「とっくに展開している」
「そうか」
これで準備は整ったとアルフレッドは懐から短剣を取り出すとそれを『異形』の喉元へと突き付けた。
「聞きたいことは一つ。天眷者に呪をかける方法を知っているか?」
今はまだヴァビルカ教皇が『異形』にかけられた呪によって死んだことを知る者以外に知られてはならない。
教皇の名を出さず、あえて力を持つ者達の総称で尋ねるアルフレッド。
感が鋭い者ならこれだけで近日に亡くなったヴァビルカ教皇と思うかもしれないが、それを確かめる術はない。
「し、知っていても……言わぬ!」
「……そうか」
『異形』の敵意を向ける表情にアルフレッドの目が笑う。
「それじゃ、どうして力が削がれることを知っていながらサンタリアに入った?」
「きさ、まらが知っていることを、何故話さけらばならない!」
「知っているけど念の為かな?」
「何を悠長な……」
アルフレッドのマイペースな言葉にハロルドは溜め息を付いた。
「それで、実際は俺達が思っている通りでいいのかな、悪魔?」
死神達が嫌と嫌悪する『異形』の者達、悪魔の言葉を口に出すアルフレッド。
その瞬間、悪魔は高揚して笑い出した。
「いい!実にいい!はははははははは!!」
「全く分からない……」
悪魔にとって死神から悪魔呼ばわりされることを何よりも喜ぶ感性にハロルドは分からないと嫌悪を露にする。
しかもこの感性はハロルドだけではなく殆どの死神にとってしても嫌悪でしかく、受け入れられないものである。
ミノリア島においてモルテが対峙した影、悪魔に穢れると言った理由でもある。
そして悪魔はアルフレッドに殺気を向けた。
「言うとでも思っているのか?」
「思っていない。悪魔は俺達を殺すことを目的としているんだ。そんな存在に教えるって言うのがどうかしているよ」
「分かっていながら言ったのか……」
「そうだよ、お前が俺達が探している存在ではないって確信する為にな」
あっさりと目的を述べたアルフレッドは短剣に力を纏わせるとそのまま悪魔に突き刺して命を刈った。
何事もなく立ち上がるアルフレッドをハロルドが今の行動について尋ねる。
「やっぱりハズレか?」
「多分だけどただの偵察だと思う。本命は選挙だろう」
「本当に懲りない奴らだ」
ハァ、と溜め息を漏らすハロルドだが、まだ言いたいことはあると口を開く。
「それに、これだけやってこっちが欲しいものがないなんて……」
「いや、いくつか分かったことはある」
「悪魔がサンタリアに多く入っているってことか?」
「そう」
誘き出す最中にアルフレッドとハロルドは多くの悪魔が既にサンタリアにいることを確認していた。存在だけでもそうだが数が無視出来ない。
「楽観視していたつもりはないけど、予想していたよりも目に入ったからな……」
「なら、見つけ次第刈ったらいい」
「人がいない場所で領域を展開するのを忘れないでくれ」
「忘れるわけないだろ!」
何を当たり前のことを忘れるかとハロルドはアルフレッドに食ってかかる。
その反応に面白いなと思ったアルフレッドだが、すぐに顔を強ばらせて考え込んだ。
「それにしても、発表がされるまで見なかったことを思うと、悪魔にとっても突然だったんだろうな」
「何だいきなり、それが何なんだ?」
「ヴァビルカ教皇の死去の真相をサンタリアで見つけようと回っていたんだが、その時には悪魔の姿は見なかったんだ」
「それは、あんたが言った通り悪魔も知らなかったってことか?」
「ああ」
悪魔の数が突然増えたことに疑問を抱くアルフレッドとそのことを聞いておかしいと考え込むハロルド。
そして、アルフレッドは1つの仮説に思い付く。それは、今までもしかしたらという予想を裏付けるだけに表情が困惑となる。
「まさか……」
「何だ?何か分かったのか?」
「まだ仮説だ。悪いけど確信が出るまでは言えない」
「何なんだ本当に……」
困惑としているアルフレッドにハロルドは不貞腐れると、意識を先へと向けた。
「だったら奴等を刈ってその確信とやらを肯定させればいいだけだ!僕は僕でやらせてもらう!」
「ああ……目的は忘れるな」
「忘れるわけないだろ!」
何を当たり前のことをと突っかかるハロルドは異変の究明と悪魔を刈る為にその場から離れた。
アルフレッドとハロルドが再び合流するまでのその間、二人は両手の指の数を越える悪魔を刈り、本来の目的である異変を特定することは出来なかったのである。
しかし、アルフレッドの予想が当たっていることはその後に分かることであるが、現在真実にたどり着いたのはアルフレッドで二人目である。
「悪魔」の単語はもっと後に出すつもりだったんですが、さすがにこれ以上延ばすのはまずいと思って今出しました




