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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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鳥頭の郵便配達と就職希望

 モーニングコーヒーを飲むモルテの耳に店のドアベルが鳴るのが聞こえた。

「郵便でーす!」

 そして聞き覚えのある声にコーヒーが入っていたカップを置くと店の入り口へと向かった。

 食卓を出て廊下を渡り店内へと通じる扉を開けた。

 店内は小さな窓が二つ、全てにカーテンが閉じられていて薄暗くなっている。備え付けられているカウンターを出て、立て掛けている棺を避けて、店に掛けられている鍵を外すと扉を開けた。

「おはようございます」

 声をかけてきたのは鳥の被り物を被った郵便配達人であった。

「いい加減それを脱いだらどうだ?」

 ひらくち一番に被り物を指摘したモルテ。はっきり言って突っ込みしか思い浮かばない。

「いや、これ俺の防具だからムリ」

 軽い口調で薄暗い店内に入りながら郵便配達人はモルテに言うとカバンから紐で束ねられた数枚の手紙を取り出した。

 モルテは手紙を受け取りながら分かりきっている事をあえて尋ねた。

「女からか?」

「そうそう。女を寄せ付けないために」

 被り物の下がどのような素顔か知っているモルテはやっぱりと思った。

「女好きのくせに女を避けるとは分からないな」

「ちがーう!喧嘩してほしくないから避けてるんだ!」

「やっぱり分からん」

 何度聞いても分からないモルテは紐を取り手紙の差出人を確認するとカウンターに置いた。

「師匠、店始める?」

「ああ」

 店と廊下を繋ぐ扉からワンピースに着替えたミクが出て来て尋ねた。

 郵便配達人がミクに手を振るがそれを無視。ミクがカーテンを開けようとした時だった。

 カラーンとドアベルが鳴り店の扉が開いた。

「すみません」

 店に入って来たのは薄汚れた服を着た茶髪の少年。

 少年はモルテを見ると姿勢を伸ばしてお辞儀をした。

「あ、あの、職業案内所の紹介で来たディオス・マケネードです!面接に来ました!」

「はぁ?」

 就職希望人ディオスの突然の来訪に不機嫌を張り付けたモルテの声がこぼれた。


 思いもよらない言葉を聞いたディオスは恐る恐る頭を上げた。

(あれ?間違えた?)

 店長と思う男性を見てディオスは面接場所を間違えたかと不安になった。よく見ると男のディオスから見ても美形に見えると余計な事を思いながら。

 確か就職案内所に紹介されたのが「葬儀屋フネーラ」で店長の名前がモルテと言う人のはず。入る前に何度も確認をしたから間違ってはいないと思う……思いたい。案内所から手紙も送られているはず。

 なら何故あの人は不機嫌を張り付けた表情で見ているのか。しかも、怖い。不機嫌な上に前髪から僅かに出ている眼帯まで見えているからさらに怖く感じる。

「あ、あの……」

「帰れ」

「は?」

 モルテの拒絶する言葉にディオスは目を丸くした。

「聞こえなかったか?帰れと言ったんだ」

「ちょっ、待ってください!」

 モルテの言葉にディオスは大急ぎで駆け寄った。

「俺、職安の紹介でここに来たんです!」

「知らん」

「手紙も送られているはずです!」

「知らん」

 モルテの言葉にディオスが絶句した。手紙が送られていない。どうして……。だが、感傷に浸るよりも先に体が動いた。

「お願いです働かせてください!」

「断る」

「もう後がないんです!何でもしますからどうか!」

「断ると言ったら断る!」

 とにかく雇いたくないモルテにしがみつくディオス。そのディオスに助け船が出された。

「あ~あったあった!」

 そう言って郵便配達人がカバンから出したのは1通の手紙であった。

「ほい。職業案内所からの手紙。内容は多分少年の紹介状」

 郵便配達人からの思いがけない援護に目を輝かせるディオス。

 だが、モルテは郵便配達人を睨み付けていた。

「どうしてお前が持っている?」

「昨日渡し忘れた」

 とんでもない発言に周りの空気が固まる。

「もう一回言え」

 聞き間違いかとモルテが言う。

「昨日渡し忘れた。ごめん」

 郵便配達人の言葉にモルテが顔を近づけた。

「わざとか?」

 鋭く尋ねるが返事がない。

「わざとか?」

 更に鋭く。

 その様子に恐怖を感じたディオスが一歩下がる。

「わざとか!」

「ごめ~ん」

 ブチッとモルテの血管が切れる音が聞こえたような気がした。

「マオクラフ!!」

 モルテの怒りがこもった叫び声が店に響いた。


 叫び声が聞こえファズマが慌てて店に飛び込んだ。

「何があった!?」

「いぃっいたいいたいぃぃ!!」

 目に飛び込んだのは、郵便配達人マオクラフ・アバルト・ティファレトがモルテによってヘッドロックをかけられて苦しんでいる様子だった。

 どうしてマオクラフが首を絞められているのか状況が読めず、一部始終を見ていたであろうミクに尋ねた。

「どうなってる?」

 ファズマの言葉にミクは店の壁に指差した。

「ああ、なるほど」

 そして納得した。

 店の隅で恐らく就職希望であろう自分より少し年下の少年がガクガクと顔を青くして震えていた。


 この光景を目にしたディオスは後悔していた。

(俺、就職希望先間違えたかも……)

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