茫然とする光景
春眠暁を覚えずのごとく睡魔が酷いです……
調理場の扉を開けると、そこは戦場と化していた。
「そこの野菜は切り終えたか!」
「手順が違います。まずはこちらを入れてからこちらを入れるのです」
「大きさバラバラだぞ。誰だこれやったのは!」
「下準備面倒なものは先に切っておいて!夕飯に間に合わなくなるから!」
調理に対する料理人達の戦場である。
何しろ、エクレシア大聖堂にいるのは滞在する聖職者達だけではなく警備員といったあらゆる分野で支えている人達を含めると千を優に越えている。その人数分を毎日三食作るとなると、修行中の聖職者達だけで賄える筈はなく、加えて料理人が多く加わったとしても結果はご覧の通り戦場と化している。
さらに付け加えるなら聖職者と警備員達とでは朝食以外は全く別である。
聖職者は修行や決まりから僅かばかり仕方なくとも質素で問題ないが、警備員といった体を動かす者達はそうはいかない。
体を動かせば腹が減る。そして、そういった仕事には何かしらの楽しみがなければ続かない。そうなるとやはり食事に楽しみを見いださなければならない。
その為に聖職者が食べる食事に一、二品程付け加えられた食事が出されるので、調理場は余計な仕事 をしなければならないのでそちらに人手が回ってしまい、いつも修行中で料理担当となっている聖職者と料理人は休憩時間いがいは忙しなく動き回っているのである。
「大変みたいだ……」
「ここまでとは思っていませんでした……」
予想以上に調理場で働く人達が動き回っていることにアイオラとオティエノは立ち尽くしてしまった。
調理中に少しだけ手を止めてくれればという考えがものすごく甘かったことを実感させられる。
「これじゃ料理をしている手を止めないで聞こうとしても無理みたい」
「ああ、無理……手を止めないで!?」
「私はいつもそうしているわ」
「……そうなの?」
目の前の光景に自分と重ねるアイオラの発言にオティエノは何と言っていいのか分からず、とりあえず話をずらした。
「時間を改めた方がいいかもしれない」
「そうですね」
見ているどけで誰一人と手を離せないことを理解した二人は短く会話を交わして調理場を出ようとして足を止めた。
「休憩時間は聞いた方がいいかもしれない」
「あ、そうですね」
休憩時間なら手が止まっているだろうと検討をつけたオティエノの提案にアイオラが同意する。
こうして二人は何とかして下働きの料理人を捕まえて休憩時間を聞き出すことに成功。
しかし、殆どはその時々でバラバラであり、僅かしかないことを聞かされ、それでもいつもはこのくらいと言う時間帯の予想を無理矢理考えさせて聞き出し、その時が来るまでは、当初予定していた調理場の調べが終わった後にする筈であったエクレシア大聖堂の不審者探しへと変更する。
◆
同じ頃、ヤードとファビオは口を半開きにして目の前の光景をみていた。
「これはまた……」
「驚いたな……」
驚き過ぎて唖然とした様子で呟く二人の目の前には、一言で言ってしまうと広大。広大すぎる場所に資料がずらりと収納されていて並ばれていた。
「多いな……」
長年納められていた資料の数々にファビオがまた呟く。
しかし、ヤードだけは目の前の光景を受け入れるとすぐに納得した様子を浮かべた。
「ですがこれなら納得です。死神でも許可を出さなければならないわけだ」
「何がだ?」
「多くの宗教学者がエクレシア大聖堂の記録が書かれた資料を閲覧目当てに許可をもらいに来ることが」
「何でそんなことを?」
「ロード教は大聖堂が出来てから記録を残し続けています。そうした記録には貴重なものもあれば不利なものもある」
「話は分かった。様はロード教の不利になるような者達には閲覧させる訳にはいかないってことだろ?」
「大まかに言えばそうなります。恐らくですが許可を出しても閲覧は出来ないでしょう」
ファビオの要約に一応頷いたヤードだが、細かく言ってしまえばそれだけでは説明不足である。
しかし、ヤードも感覚では分かっていても言葉ではどの様に説明をすればいいのか分からず、加えて専門家出ないためにこれ以上は突っ込まないことにした。
そんな資料の多さに受け入れた二人だったが、予想外の言葉がかけられる。
「これでもまだ一部です。エクレシア大聖堂の資料庫は二階から六階全てが資料庫となっています」
「うわあぁ……」
何事もなく語りかけたのは資料庫の案内と監視を目的に枢機卿から使わされた司祭の二人の内の一人である。
「えっと、カクマー司祭、どうしてこんなにも?」
目の前でも一部であることに驚きながら、それでも理由を感じながらも効かずにいられれないファビオはあえてカクマー・ヨルノン司祭に尋ねた。
「それはロード教が出来てから今日までの記録が納められているからです。中には時の諸国のものも含まれております」
「それはまた……普通なら見られませんよね?」
「はい」
ファビオの何気ない確認にもう一人の司祭、ホーマン・ウェールズ司祭が肯定した。
予想外なことも聞いた気がするが、それならなおさら許可をお願いしても降りないなと思う。
「それにしては、よくこちらの要望を聞き入れてくれましたね?」
「それは枢機卿のご判断です。私達が同行し、貴重な記録を持ち出さない限りは閲覧の許可をすると」
「なるほど」
つまり、枢機卿が協力してくれているからこうして貴重な記録がしまわれている資料庫へ入ることが出来たのだと納得する。
「さて、これだけの数です。前もって調べることを先に決めておいてよかったです」
「ああ」
気持ちを改めてヤードとファビオは資料を前にして構える。
「さっそくですが教皇の公務が記録されている場所の案内をお願いします」
「はい」
「こちらになります」
カクマーとホーマンに促してヤードとファビオは資料庫の奥へと足を踏み出した。




