放浪者と頑固者
ミゲル・カブラル・バロス・ギェナーとダーン・ダルファー・アルファルドは死神の間ではある意味において有名な二人である。
「《千里千眼の借り暮らし》と《跳躍の製作者》か!?」
「とんでもない名前が出たな……」
予想もしていなかった名前に言い出したオティエノ以外の七人の死神が驚いて目を見開く。
「ミゲルとダーンは確か20年の教皇選挙に呼ばれた死神だったよな?」
「ああ」
異名が付けられている通り二人とも8年前までの死神に呼ばれる程の実力者であり、ミゲルは現役、ダーンは戦いの一線を引いているも専門分野においてまだ現役として活躍している。
「よくそんな変わり者二人と知り合ったな」
オティエノがそんな二人と知り合いであることにモルテは肝心するわ呆れるわ、とにかくどの様な反応をしたらいいのか悩みながら言うと、オティエノが言う。
「偶然だよ。ミゲルは5年前に俺の所で起きた騒動の終結を手伝ってくれたから。あの時はミゲルがいてくれて助かったんだ」
本当に感謝しているという表情を浮かべるオティエノだが、モルテは対照に表情が曇る。
「……ちなみに、誰の所にどれ程いた?」
「俺達のまとめ役の所に2週間いたはずだけど」
「何も聞かされてはいないかっだろう?」
「聞かされていないし、頼み事をしようとしたら逃げるように出て行ったと聞いてる」
「相変わらずの放浪ぶりだな」
ミゲルの定住する気のない気ままな旅暮らし改めて転がり込んで好き勝手していく身勝手さを流時代に一月程共に旅をして嫌と身に染みて知るモルテは頭を抱えた。
ミゲル・カブラル・バロス・ギェナーは様々な国や地域関係なく旅をする流の死神だが、一ヶ所に月や年単位ではなく数日滞在すればまた旅に出ると言う自由気ままな旅人である。
死神関連に関わらず様々な噂や情報を集めて旅をするミゲルは一度見聞きすれば忘れないことで有名である。その記憶力を当てに直接会いに訪れたり招いたりする死神も多い。
だが、聞こえはいいがミゲルの本質は自由気ままに面倒事には極力関わらないように、けれども面白いことには自分から首を突っ込むという非常に自由奔放、言い方を悪く変えると身勝手なのである。
さらには長く働くということをしない為に所持金といった死神道具以外の金品を殆ど持っていない為に何処かの家、殆どは死神の家であるがそこに転がり込んでしばらくご厄介になるという人間としてはどうしようもない程のダメ人間なのである。
その為に尊敬を込めた《千里》を旅して《千眼》のごとく見る目を持つ者と合わせ、皮肉を込めた《借り》暮らしを続ける者として《千里千眼の借り暮らし》と異名が付けられたのである。
モルテがミゲルのことを思い出して深く溜め息をつくのを見たオティエノがもう続きはないと見て話を戻した。
「話を戻すけれど、ダーンもその時に聞きたいことがあったから知っているんだ」
「は……?」
何事もないように言うオティエノだが、それを聞いた全員が困惑する。
「ダーンに、会ったのか!?」
「ミゲルの紹介で一度だけ」
ここでもまたミゲルと溜め息をついたモルテだが、他は違っていた。
「確かダーンは相当の頑固者と聞いていますが?」
「話す前に帰れってお出されかけたし、聞く耳持ってくれなくて困ったよ」
「いや、困ったって……さっきも思ったけれど、そこで簡単にそう言えるオティエノもどうかと思うんだが?」
遠回しに変わっていると言うファビオ。その言葉にオティエノが渋々と頷いた。
「……自覚しているよ」
「しているんだな……」
あまりにもむなしすぎる声にファビオはがっくりと肩を落とした。
ダーン・ダルファー・アルファルドは領域を展開して使用可能となる転移の達人であり、その術を詰め込んだ死神道具を作る道具製作者である。
異渡り扉や渡りの伝達文箱と言った遠くの場所へと繋げる死神道具は誰もが作れる訳ではない。
領域で別の場所へ繋ぐことが出来てそこへ行き来出来る力を持つ死神が作れる可能性を秘め、そこから製作技術を獲得してようやく作ることが出来るのである。
こうしたとてつもない要求を必要とする為に製作者は少なく、ダーンはそういった最前線で腕を振るっているのである。
そして、職人以外にも頼られる理由がもう一つ。様々な場所で死神が関わった出来事を集めては纏める記録者でもある。
その為にその地に住む死神達と関わりを持ち、そこから様々な情報が常に新しく入って来ては補完もしている為に情報の提示を求める死神がいるのである。
それでもダーンは職人を自負している為に当時の死神に「記録者」ではなく「死神道具の製作者」としての異名を頼んだことで《飛躍の製作者》と言う異名を与えられたのである。
しかし、職人気質からか頼まれた仕事は請け負ってもそれ以外には素っ気ない態度を示して相手にきつく当たり自分の主張を曲げない頑固者である。
その為に死神道具の依頼は問題なくとも情報の提示となると非常に難しくなるのである。
「まあ、情報は本来漏らしてはならないものですから慎重にならなければなりませんが……」
「話す前に追い出すって、どれだけ警戒?いや、疑って食ってかかっているんだ?」
「それが頑固ってことです」
噂でしか知らないがオティエノの話を含めるときっとこんなイメージだろうとハロルドとヤードが予想して言う。
「ですが、彼の協力を得られれば確実性は増します」
ミゲルとは別の方法で情報を集めては蓄えているダーンならば更なる情報と信憑性が得られると期待するアイオラ。
問題はどうやって説得するかなのだが、モルテがそれには問題があると口を開いた。
「ダーンは無理だ」
「何故だ?」
いきなりダメ出しをしたモルテにハロルドが睨み付ける。
そして、モルテははっきりとその理由を述べた。
「ダーンはヴァビルカ教皇を嫌っている」
「えっ?」
「は……?」
「はい!?」
「ん!?」
モルテの言葉を飲み込めないアイオラ、ハロルド、ファビオ、ヤードの四人にアルフレッドもモルテに同意と浮かない表情で理由を言う。
「ダーンは8年前の継承の儀に呼ばれていたんだけど、ヴァビルカ教皇の顔を見たくないからって辞退をしているんだ」
「それが、無理な理由なの?」
「どうしてそんな……?」
「それは分からない。ただ予想でしかないんだけど、前回の教皇選挙でヴァビルカ教皇と何かがあったとしか思えないんだ」
理由に付け加えられた最もな追加に四人は頭を抱えた。
「20年経つが無理なのか?」
「8年前に辞退をしているから今も難しいだろうな」
「頑固すぎるだろ……」
どんな関わりがあったかは分からないが頼むことがヴァビルカ教皇のことである為にすぐに無理だと突き返されるイメージしか浮かばない。
しかし、オティエノだけは違っていた。
「手ならある」
「はぁ!?」
「えっ!?」
「なっ……」
「嘘だろ!?」
「はい!?」
「本当に!?」
自信満々に宣言したオティエノに全員が驚いて一斉に叫んだ。
「オティエノ、手があるって本当か!?」
「ある。多分すぐにやるって返事が帰って来るはずだから」
「あの頑固のダーンが!?」
前回招集されたモルテとアルフレッドはダーンの噂を聞いている為に信じられないとオティエノを凝視する。
「それでオティエノ、その方法は?」
ダーンの協力を得られる道が出来たと期待を込めてヤードがオティエノに早口で尋ねた。
オティエノはその方法と理由を言うと、全員が納得するものであった。




