差し入れ
安置所での確認と片付け等が終わって死神の区画に当たる5階の部屋に戻る頃には昼過ぎとなっていた。
「お疲れ様です」
色々とやって疲労の表情が僅かに出ている死神達をユーグが迎え入れた。
「ただいま。早速で悪いが誰か訪ねて来たか?」
「誰も来ていません」
「そうか」
死神の口調でないラルクラスの言葉にユーグは短く伝えると、後に控えている七人の死神にも声をかける。
「皆さんもお疲れ様です。差し入れが来ていますのでご休憩なさってはどうてしょうか?」
「ああ、ありが……えっ!?」
「ん?」
「え?差し入れ?」
テーブルに置かれている菓子を示したユーグの不可解な発言に一部の死神がおかしいと思う。
「ユーグさん、誰も訪れていないと言いましたよね?どうして差し入れが?」
「もしかして下にあると言う調理場から運ばれたのか?」
「いえ、いつの間にかテーブルに置かれていました」
アイオラとハロルドの予想をユーグは斜め上をいく発言をして、一部が硬直する。
「何でそんな何処からのものか分からない菓子を差し入れに、って食わせるんだよ!」
「食べて大丈夫と言う保証はされていませんしね」
「そもそも食べられるの?」
「いや、食べる食べられないじゃないだろ!誰がいつ持ってきたか問題だろう!」
出所不明の菓子を差し出すなとか安全はと疑うオティエノ、ヤード、ファビオ。それにハロルドが注目する所が違うと突っ込む。
ものすごく美味しそうな菓子を前にして疑いの姿勢でいる死神五人にラルクラスが僅かに笑った。
「ははっ、やっぱりこうなるんだな!」
「えっ?」
「死神!?」
「仕方がなかろうこれは……」
「モルテ!?」
「俺も最初は疑ったからな」
「アルフレッド!?」
ラルクラスだけではない。モルテとアルフレッドも五人の反応にやれやれという姿勢を示す。
「あんた達何知っているんだ!答えろ!」
三人の様子から菓子がどういったものなのか知っていると感ずいたハロルドが説明を要求する。
「ユーグが言った通りこれは差し入れだ」
「どこからのですか?」
「不明だ」
「不明!?」
「これは聞いた話なんだが、昔に誰が作ったか多くの者が調べたらしいんだが結局分からなかったようだ。だから調べても無理だ」
「分からないものを差し出さないでもらいたいんだが……」
菓子のことならよく知っていると思われたラルクラスの差し出し不明発言にまたも硬直が起こる。
「俺が大聖堂に住み始めるよりもずっと昔から誰が作ったか分からない菓子がいつの間にか差し入れられていたんだ。それも、大聖堂にいる枢機卿や司祭と関係なくいる者全てにな」
「おい……」
「もらって疑問に思わなかったんですか?」
「最初は思うのだがずっと続いているから既に疑問でもなんでもなく、ちょっとした楽しみとして感じている」
「楽しみって……」
話を聞けば突っ込み満載の事実に初めて知る死神達はそんな不可解現象を放置していていいのかと思ってしまう。
そんな死神五人に経験者のアルフレッドが同情すると声をかける。
「俺も最初に聞いた時は皆と同じたったよ」
「それで、何であんたはそんな冷静何だ?」
「考えても仕方ないと思ったんだ。それだったらその出来事を受け入れてもらった菓子を食べようと思ったんだ」
「食べるって……」
「食べられたんだ」
「ものすごくうまいんだ」
「あっそう」
菓子の美味しさを思い出しながら言うアルフレッドにもうこの話はやめようと五人の死神は内心で同じことを同じタイミングで思った。
菓子への疑問がある程度和らいだことと話に区切りが付いたと見てユーグが声をかけた。
「飲み物はこちらにあります。ご自由にお飲みください」
「俺はこれから手続きの準備の為に席を外す。今日はこちらで何かをすることが出来ないだろうからゆっくりしてくれ」
そう言ってラルクラスとユーグは七人の死神を部屋に置いて準備の為に自室へ向かった。
残された死神数名はテーブルに置かれた菓子を見て僅かに困惑していた。
「……食べて大丈夫なのかな?」
未だに不安が拭いきれないオティエノの言葉が響く。
しかし、それを派手にぶち破る者達がいた。
「それじゃ食べるか」
「ふむ」
モルテとアルフレッドと言う前回の菓子騒動を経験した者達が椅子に座る。
「待った!本当に食べるのか!?」
「ふむ。そうだが?」
「何で躊躇なくそう言えるんだ!誰のものか分からないのに!」
誰からの差し入れかは考えないことにしたが、本当に食べても問題ないものかという不安はまだ完全に取りきれていないために不安げに言うファビオにまたも経験者のアルフレッドが言う。
「これくらいのことで怖じ気づいていたらこの後起きることに対応出来ないぞ」
「この後?」
疑問符を浮かべるファビオ含めて新たな七人の死神の五人にアルフレッドが言う。
「死神に呼ばれたってことはこれから起きることに十分対応出来る力があるからだ。菓子の謎はそれに比べたら何ともないんだ」
「何ともなくないだろ!」
「そうだよ。食べて問題ないとも言えないんだし」
出来事よりも菓子が問題あると目の前のことしか見ていないハロルドとオティエノ。
さすがにこれ以上の問答は飽きたとモルテが菓子に手を伸ばして言った。
「昔からエクレシア大聖堂にいる者達に振る舞われているんだ。何かあるのならその時に出ているだろう」
「つまり、食べても問題ないと言うことですね?」
「初めからそう言っているではないか」
そう言ってモルテは一口と菓子の一つであるマカロンを食べた。
躊躇なく食べたモルテに一瞬ヒヤリとする五人だが、その後も何事もなく菓子を食べていくモルテに徐々に菓子に対する警戒心をなくしていく。
「まあ、ここで言っても仕方ありません。食べたくなければ食べなければいいだけなのでで休みましょう」
「そうですね。あ、私は食べてみたいので食べますけど」
「誰もそんなこと聞いてないから……」
「はははっ……」
そうして吹っ切れたと言うように椅子に座っていく四人だが、ハロルドだけは吹っ切れていなかった。
「何で昼食抜きな上に代わりが菓子なんだ?」
お菓子の差し入れ人は10章で出る予定です。




