礼拝堂に集う者達
ラルクラスの言葉に七人の死神が一斉に動いた。
身仕度を必要とローブを取りに行く為に部屋をあっという間に出て行ってしまう。
その一瞬の行動にラルクラスは癪には触らず、むしろ感心しながらユーグに指示した。
「ユーグ、片付けと留守番を頼む。俺もさっさと準備を済ませる」
「はい」
ユーグは頷くと空になった9人分の食器を片付け始めた。
食器は全て食事が運ばれてきた装置に乗せて地下1階にある調理場へ返却するようになっている。
「ユーグ」
「何?」
七人の死神がまだ近くにいるからと思って敬語で話していたユーグだか、もう近くにいないと考えていつもラルクラスと二人っきりの時の口調で話す。
「誰かが来たら要件だけを聞いて返していい」
「分かった」
多分誰も来ないだろうが念のために言ったのだろうとユーグは感じて聞き入れた。
ラルクラスはそれを見てすぐに領域で自室からコートと墓地の鍵を取り寄せた。コートはすぐに羽織ると墓地の鍵を懐に入れる。
ラルクラスは準備を終えるとすぐに扉を開けた。何故なら、先程出て行ったはずの七人の死神が既に身仕度とコートを羽織って待ち構えているからだ。
種を明かすなら、扉を出てすぐに領域で自室まで移動して戻って来たのだ。様は皆、早く教皇の遺体の確認をしたい故の行動である。
「案内する」
そう言って先頭を歩いた。
* * *
「これは、予想通りと言えば予想通りだな」
東館から本館へ向かう途中の窓からファビオが外の様子を見て呟いた。
エクレシア大聖堂の前に広がる広場は直接教皇を冥福する為に訪れた者達で埋め尽くされていたのだ。
ファビオの言葉に釣られるように他の死神達も窓から覗く。
「うわっ、多い!」
「ヴァビルカ教皇って人気あったんだな」
「人気と言うよりは功績から尊敬されていたと言う所ですね」
「なるほど」
それなら集まる訳だと思う年若い死神二人。
恐らくだが広場に集まっているのはほんの一部てしかなく、もう一つの広場とサンタリアの外にも冥福を祈る人がいるのだろうと予想する。
「これがあと10日あるのか」
「それから教皇選挙ですね。こっちはどれだけかかるか分かりませんから」
「むしろそっちが本命だ。どれだけかかるか分からないし、何が起こるかも分からないからな」
この様子が10日超える長期戦が既に見えていることに死神達は再び広場を見る。
「そう言えば、すっかり聞き忘れていたのだが選挙はいつなのだ?」
「喪服が終わる翌日だ」
「やはりその頃なのだな」
教皇選挙がいつからなのかラルクラスが言うことと七人の死神から聞くことを忘れていたことに気がついたモルテは教皇選挙の日時を聞いてやはりそれくらいなのだと認識する。
そもそも、本来はラルクラスが率先して言わないといけないことなのだが、生霊や不死者という世間からして見たら非日常に身を置いているからか、ちょっとしたことでは気にならない者達が集まっている為に、七人の死神は教皇選挙日は喪服後だろうと検討を着け、ラルクラスは喪服終了日に言うつもりでいた為に確認する者がいなかったら早く知ることなどないのである。
「ラルクラス、教皇選挙が招集目的であるのだから日時も言わなければなんだろう!」
いつもは重要なことを後回しにするモルテがラルクラスに早く言えと言うのであった。
* * *
本堂の礼拝堂もやはり人で溢れていた。
「ここもまたすごいな……」
礼拝堂を覗き見ることが出来る覗き窓から様子を見るファビオがまた呟いた。
礼拝堂には入れ替わりに冥福に訪れた棺を前にして祈りを捧げている。
「もしかして、棺に蓋がされているのは遺体がないことを隠すためか?」
「その通りです」
礼拝堂に置かれている棺に疑問を抱いたハロルドの言葉を肯定するように死神達の背後から声がかけられた。
急いで振り返るとそこには二人の祭服を着た男二人がいた。
「お待ちしておりました。死神、七人の死神の皆さま。私は枢機卿ヘイゼル・フロイエン・アンバルドです」
「私は前教皇の秘書をしておりましたケイト・ナノグラスです」
「なるほど、秘密を知る者が立ち合いってことか」
出迎えと言うよりは合流したと言う方が正しいと思ったアルフレッドはそう考えた。
ちなみに、ヘイゼルとケイトはラルクラス、七人の死神という順で見ている。
フードを被っているのに何故見分けがついたかと言うと、死神が羽織っているコートはエクレシア大聖堂において死神であることを証明する為の身分証明だからである。
死神は過度な装飾を控えたコートを羽織り、七人の死神は装飾がない代わりにコートの生地に光沢が施されている。そして、死神の弟子は装飾と光沢がない無地が使われたコートを羽織ることとなっている。
だから二人は多くの死神がいながらに区別が出来たのである。
「ヘイゼル殿、ケイト殿、本日は無理を聞き入れてくれて感謝する」
ラルクラスの口調は死神の口調へと変わっている。
「それは構いません。残念ながらヴァビルカ教皇の遺体は人前に見せられませんので」
「それは遺体の外見が?」
「そうです」
教皇の遺体がどの様な者になっているかは少数しか知らない。加えてその少数の殆どはここに集まっている。
だから遺体は礼拝堂にはなく墓地にある。そして、確認をいつしても問題ないのである。
「私達も確認の為に同行いたします」
「分かった」
これで墓地へ行く者が揃ったと再びラルクラスを先頭にして確認の為に歩き出した。




