大聖堂の朝食
その日、世界に教皇ヴァビルカ8世の死去が発表された。
ロード教の教皇とはこの世界における平和の象徴、平和へ導いて見届け役を担っている。その為に教皇は先導者として崇められる存在である。
その教皇の突然の死去に世間は酷く激震することとなった。
ヴァビルカ8世の功績は35年前から激戦と化していた戦争を12年前に終結へ導いたことである。
ただの象徴でしかなかった教皇が戦争を終結させたことは世界にとって衝撃的であったが、同時に平和の象徴で平和へ導く者であることを再認識させるものとなった。その際にヴァビルカ8世が教皇であると分かる身分を示す鶏が描かれた黄金の指輪から《朝日の鳥》と呼ばれることとなった。
偉業を成し遂げた教皇死去の知らせに人々が聞き付けて冥福を祈る参列者達が並ぶことが予想された各国にあるロード教の教会では朝から扉を開けてその対応に追われることとなった。
しかし、エクレシア大聖堂があるサンタリアは開門時間が決まっている為に門の前では直接ヴァビルカ8世に冥福をしようとする長蛇の列が既に並んぶこととなった。
そんな重々しい雰囲気とは無縁の死神と七人の死神は10人入っても余裕な部屋で朝食を取っていた。
「おいしい」
「もっと質素かと思ってたけど……」
並べられた朝食と味にハロルドとファビオが呟いた。
二人とも場所が大聖堂とはえい教会としての質素で味が薄い料理のイメージがあった為に食事にはあまり期待をしていなかった。だが、実際は普段食べている食事と変わりがなかったのだ。
「朝食だけはいつもこの様な感じだ。昼と夜は特になければイメージ通り、と思っていい」
二人の感想にラルクラスがエクレシア大聖堂においての食事について教える。
それを聞いた二人はどうやら美味しい食事が確実に食べられるのは朝だけと知り僅かにがっかりする。
そして、慌てて意識を持ち直す。
死神の時とは違うラルクラスの話し方にすっかり油断していたが、共に朝食を食べているのは死神の中で最も偉大な人物である。
本来なら尊敬を持って関わらなければならないのだが、朝食を共にと言う誘いと正式な場ではないからと言う理由で気安く話すラルクラスの大胆な性格がそれを忘れさせる為に普段の自分らしさが出てしまうのである。
それに気がついて何とか真面目になろうとするが、心の片隅ではどう考えても無理なのではと思ってしまい葛藤するまだ年若い死神二人である。
出された食事を無言で食べ終えたファビオが内心で葛藤する二人の死神に続いて感想を口にする。
「美味しい朝食でした」
「それはよかった。それと正式な場意外での敬語はいい」
「しかし……」
「言う通りにした方がいいよ。気を悪くするだけだから」
「そうだ。ラルクラスがいいと言っているんだからな」
ラルクラスの要望に渋るファビオにモルテとアルフレッドが今回呼ばれた死神達にも向けて気を使う必要がないことを促し、それを証明する為に自ら気安く話す。
モルテとアルフレッドも前回の招集の時に呼ばれた際にラルクラスからこの要望を受けていたのだ。
そして、散々話した末に粘り負けして今もこうして正式な場意外では上下関係なく何事も話している。
今だけ葛藤と緊張と畏れを抱く新たな招集者達にはハードルが高いだろうがすぐに慣れるだろうと思っている。
そして、そんな二人の考えとは別に一番に吹っ切れたのはアイオラであった。
「ラルクラスさん、この朝食はどこで作られてどうやって運ばれたのですか?」
これが普段のアイオラの話し方である為に誰も突っ込まない。
「エクレシア大聖堂の調理場だ。そこから上へ上げる装置があってここへ運ばれている」
「そうなのですか」
僅かに驚きながらもそれなら朝食が僅かにだが暖かいのはその為なのだと理解する。
「けれど、どうして朝食はこれ程までに種類が多く美味しいのですか?」
「それは初代ロードが朝食は必ず美味しく調理して食べることと義務付けたからだ」
「そうなのですね」
まさか初代ロードが義務付けていたことを初めて知るがその為に朝から美味しい朝食を食べることが出来るのだと喜ぶ。しかし、それならまだ食べていないが話からして質素と思われる昼食と夕食も美味しいものでいいのではと思ってしまう。
今更ながら死神達がエクレシア大聖堂のどこにいるのか説明をしよう。
エクレシア大聖堂は大きく四つに分けられている。
大きな礼拝堂に加えて様々な用途に使われる本館、資料や礼拝道具が納められ地下には墓地がある北館、警備員が控えている西館。そして司祭達が控える東館。
調理場とそこに隣接している食堂は東館にあり、死神達がいるのは調理場の真上にある5階にいるのである。また、東館の4階から上が死神に割り当てられた区画である。特に許可なく出入りを禁止されている訳ではないが暗黙のルールとして理由なく訪れることをエクレシア大聖堂の司祭達は控えている。
朝食が一段落つこうとする頃、扉が叩く音が響いた。
ユーグがその対応にと椅子から立ち上がって対応に出る。
扉からユーグは誰かと話すとすぐに戻って来てラルクラスに言った。
「枢機卿の許可が降りました」
それは教皇の遺体の確認が出来ると言う知らせであった。
「話が聞こえていたと思うけど確認の許可が降りました」
ラルクラスの言葉に全員の雰囲気が変わった。
そのあまりの変わりようにラルクラスの口が笑った。
「では、行くか」
これはもう全員だと思っての言葉は正しく的をいっていた。




