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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
9章 教皇選挙(前編)
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 夕飯を食べ終えたモルテとアルフレッドはエクレシア大聖堂にいる死神デスの元へ向かう為にある場所へと向かっていた。

「ここに来るのは二度目だけど、本当に表と裏じゃ違うな」

「裏、と言うがこちら側は大聖堂にいる者達の住居の様なものだからな。観光客や参拝者が知らないだけで訪れないのだ」

「なるほど」

 モルテの言葉に前回は緊張の為に感じることがなかった何処となく人が住んでいる感覚を感じるアルフレッド。

 そのまま二人は表向きは人が住んでいることになっている建物へと入った。

 中は完全に人が住んでいる様な仕切りであり、調度品も備え付けられている。


「掃除はされているようだな」

 床に埃がたまって歩くと足跡が付く、というお約束がないことに感心して軽口を言うモルテだがアルフレッドは違っていた。

「けれど、短い時間に何人か訪れていると思う」

「ほう。理由は?」

 アルフレッドは棚を指差した。

「微妙にあそこの壁と床の色が違う。仮に同じ人が掃除をしているなら変化がないように気を使うはずだからあそこまで変化はないはずだ。多分、慣れてない人が弄ったから位置がずれているんだ」

「理由としてはまだ弱いな」

「もう一つ。あそこのローブ掛けの数とローブの数が違う。あのローブ掛けはここへ来る死神の数だけあるはずだ。だからローブがいくつかないってことはもう誰かが来ているってことだ」

 きっちりローブが七着掛けられる数のローブ掛けだがローブが少ないことを指摘する。

 これに対するモルテの反応は、笑みを浮かべていた。

「合格!」

 そう言ってモルテは壁の色が変わっている近くの棚を押した。

 すると見た目に反して棚は呆気なく横へとスライドして、壁に空洞が現れた。

「合格って……一度来た人に何試しているんだよ?」

「アルフレッドが言ったのではないか。短い時間(・ ・ ・ ・)に何人か(・ ・ ・ ・ )と。訪れている(・ ・ ・ ・ ・)だけだったらここまで聞かなかったぞ」

「他の死神が来ていることを知っていながらそれはないと思うけど……」

 モルテの意地悪な行いに愚痴りながらもアルフレッドはローブ掛けに掛けられている黒ローブの一着をモルテに渡した。

 二人は8年前にこの場へ訪れているだけに何処を見たら死神が何人来たのか分かっているのである。

 だから、こういった理由があるのに質問をする意図が分からないアルフレッドにモルテが理由を言う。

「半分は好奇心。もう半分は感心したからだ」

「感心?」

 ローブを羽織るモルテに同じく羽織るアルフレッドは首を傾げた。

「カフェで話していた時も思ったが、随分と周りを見るようになっている。8年前と比べたら大違いだ」

「いい経験になったって言っただろう。あれがあったからここまで気が回るようになったんだ」

「そうか」

 それだけでアルフレッドが8年間をどれだけ頑張ってきたのか感じたモルテはローブに付いているフードを被った。

「行くか」

「ああ」

 モルテに促されてアルフレッドも壁の空洞に入るとそこから棚を元ある場所へと戻すとフードを被り隠し通路を歩いた。



 目に死神の力を纏わせて本来なら明かりもなく見えない隠し通路を問題なく歩いて行く。

「ローブの数だど四人は既に来ているみたいだった」

「時間もそろそろだからな。訪れていて当然だろう」

「あんまり驚いていないみたいだけど?」

「それで驚くのもどうかと思うが?それに、アルフレッドもそうだったではないか」

「……はい」

 そう言えばと思って呟くと過去に自分も同じことをしたではないかとモルテに指摘されてアルフレッドは渋々肯定する。

「それに死神デスに招集されたとなると遅れないように早く行こうとするものは当然の現れだ」

「つまり、俺達は慣れているからこうして遅く行ってると?」

「そうだな。まあ、普段から約束の時間に遅れるよりもいいがな」

 時間に遅れてしまっては当事者に迷惑がかかることを経験で知っているモルテだが、反面間に合えば問題ないと思っている。

「そうなると最後の一人は8年前の誰か?」

「さあな。もしかしたらサンタリアで迷っている死神かもしれん」

「ああ、ありそう……」

 サンタリアは思っているよりも広く、一歩観光客などが見て回る表から外れると入り組んだ道に入る。8年前もそういった理由でコルクスに導かれて時間ギリギリに訪れた死神もいる。

 そうなると誰が招集されたかという顔も名前も知らない死神を想像するのはやはり無謀で無意味とアルフレッドは実感し直す。

「まあ、これから知るのだ。楽しみにしていればいい」

 そうして行き止まりに辿り着くとモルテは壁に手を当てて石を押し込めた。

 すると、行き止まりの壁が独りでに横へスライドして先にある部屋と灯りを照らした。


 隠し通路から小さな客間へと出た二人は壁を元に戻してこの部屋唯一の扉から廊下へ出る。

 廊下にも灯りが照らされており、高い位置にある窓には夜を教える闇が映っていた。

「周りに気配はないようだ」

「ふむ。気を使ったかあるいは……まあ、これを羽織っているのだ。死神であることは分かるだろう」

 隠し通路がある建物にローブがあるのはただ置いているからではない。


 エクレシア大聖堂内において死神が死神であることを証明する為である。

 エクレシア大聖堂に祭服以外の服装をしている者がいるとなったら不審者と間違えられるからだ。

 だから死神はコートを羽織りエクレシア大聖堂内で身の証明をするのだ。

 また、死神がコートを羽織る理由はもう一つ。

 これは当初の意図には含まれていなかったのだが、コートに付いているフードを被るのは招集された死神が集まるまで素顔を隠す為である。

 これは招集した死神デスが名乗り出す為に自然と顔を隠す風習が生まれたのである。その前に自己紹介等で素性が知られたり悟られる等は黙認されているが自分から教えたり尋ねたりはしないのは暗黙のルールである。


 そんな話をしながら廊下を歩いてモルテはふと思い付く。

「そうだ、一つ試してみたいことがあるのだが協力してくれるか?」

 前を歩くモルテの提案にアルフレッドは嫌な予感を感じた。

(悪い予感がする)



 二人は気配を消したまま招集者がいる場所へと向かい、あと少し、扉が見えたところで足を止めた。

「……モルテ」

「ふむ。どうやら気づいている様だな」

 扉の向こうから感じられる殺気に二人は険しい表情、むしろモルテはどこか楽しんでいる様子を浮かべた。

「察知したのか、または領域の応用か……」

「だけど、殺気が漏れているのはどうかな?」

 気配を消していたにも関わらず殺気が漏れているのはマイナスであると判定するアルフレッドにモルテがもう一つの推測を言う。

「わざとと言うこともあるが?」

「なめられているのもどうかと思うけど」

 もしそうならやることは一つだけ。

 本当は嫌々だったがやる理由が出来たとアルフレッドはモルテを見て、モルテは頷いた。

 それを合図にアルフレッドは消していた気配を完全に解いて存在感を現す。

 そして扉に手を当てて開けた瞬間、斬撃が襲って来た。

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