カフェで再会
「私が不審者に見られるとは心外だな。アルフレッド」
向かいに断りもなく座る金髪で眼鏡をかけた人当たりがよさそうな男、サイフ・ノイマン・アルフレッドが微笑んでいる顔の表情を徐々に変化していった。
「全く変わってなくて驚いた」
「それが私だからな」
アルフレッドがモルテを久々に見て抱いた感想は8年前に別れてから全く姿が変わっていないことに驚いたことである。
8年前と言えば人の容姿に違いが一つあってもいい位の年月である。
だが、モルテはそれに全く当てはまらない。
「……変わっていないことは認めるんだ」
「事実だからな」
モルテから返って来た反応にアルフレッドは聞くのを止めた。
もしも尋ねていたのが女性だったら若さの秘訣や美容について聞いていただろうがアルフレッドは男である。秘訣や美容には興味がないために話はそこで終わった。
モルテが睨み付けているにも関わらずアルフレッドは清んだ表情を浮かべていた。
「派手に教皇について聞き回っているじゃないか」
「派手に聞いているつもりはないのだがな」
不穏な空気が漂い始めた時、二人の間にウェイターがその様子に気づくことなく注文のコーヒーを置いた。
「お待たせしました。ご注文のコーヒーです」
「悪いけど俺にも頼む。あとスコーンも」
「かしこまりました」
ウェイターに注文をしたアルフレッドはまだ睨み付けているに言った。
「しかし、何故私が調べていると分かった?」
「俺の方でも調べていたんだ。そうしたら似たようなことを聞いている人がいたと言うんだ。尋ねたらもしかしたらと思って見つけたんだ」
「アルフレッドも派手に聞き回っているではないか」
「そんなつもりはないけどな」
モルテに言ったことをまさかそのまま返されると思っていなかったアルフレッドは苦笑いを浮かべた。
「私に不審と言ったがアルフレッドとて知らぬ者に悟られれば不審に思われるだろう」
「聞かれなければいいんだ。例え聞かれても黙っていればいい」
「黙秘か。まあ明日には公表されるのだ。悟ったところで次の日には明らかになるから黙っていても問題はないといくとこか」
考えての事かは分からないがあまりにも最良の手段にモルテは感心してしまい溜め息をついた。
「腹黒いな」
「ちょ、俺は腹黒じゃ……ないから!」
「今の間は何だ?」
「ああ!いいだろもう!」
仕返しとばかりに微笑み返して言葉で攻めるモルテにアルフレッドは根を上げて降伏。
その様子にモルテは満足すると話を代えた。
「しかし、アルフレッドがここにいると言うことは呼ばれたのだな」
「やっぱり、モルテも今回の招集に呼ばれたんだな」
モルテとアルフレッド、二人は8年前の継承の儀に呼ばれた死神である。
そもそも死神に呼ばれると言うことは死神達からしたら名誉なのである。
その基準がどういったものかは不明であるが、呼ばれる死神は全て実力揃いで年齢性別国籍関係なく七人が呼ばれる。
それが二度も呼ばれると言うことは名誉とかではなくエリートに分類されるのである。
アルフレッドにもコーヒーとスコーンが運ばれたのを見届けたモルテはコーヒーカップを持った。
「8年前は、確か20だったか?」
「ああ。あの時は死神になって3年しか経っていない若造が何でって思ったけど、同時に実力がそこまであるんだと理解して嬉しくもあった。それがまさかあんなことになると思ってなかったけど」
あれは大変だったと苦笑いするアルフレッドにモルテは全くと溜め息をついた。
「その様子だといい経験になったようだな」
「お陰さまで。街に戻ってからはその時以上に力を磨く努力をして生霊が起こす事件を対処している」
「そうか」
どうやら街に戻って過ごしていたのだと理解するモルテに今度はアルフレッドが尋ねた。
「モルテは今までどうしていたんだ?」
「レナードに誘われてシュミランのアシュミストにある葬儀屋店長をしている。弟子も二人いる」
「レナードに誘われた!?やっぱりモルテは凄いや」
「流だからな。流なら頼みを聞き入れるものだからな。今もそれは変わらん。弟子が死神になったらまた旅に出るさ」
折角定住出来たのに流としてまた旅に出ると言うモルテにアルフレッドは疑問に感じた。
「定住はしないのか?」
「事情が事情だからな。それに出来ない以前にするつもりがない」
「そうか」
どうやら深い事情があるようだが口振りから教える気がないのだと感じて聞くことを止めた。
追加注文をしてこのままカフェで夕飯を取ることに決めた二人は会話を続けた。
「思ったんだけど、モルテが呼ばれたってことはレナードも呼ばれたのかな?」
「呼ばれたのなら私と共にいるだろう」
「それもそうか。でもどうして?<領域の魔術師>って言われているレナードなら今回の招集に呼ばれてもおかしくないはずだ」
「確かにレナード程の領域の使い手はいないだろう。しかし、外が不穏だからとコルクスは言っていたぞ」
レナードが呼ばれていないことにガッカリしたアルフレッドだが、直後に心当たりがあった為に険しい顔つきとなる。
「やっぱり増えてきているってこと?」
「恐らくな。レナードは了承をした上で今回は外になったようだ」
「なるほど」
レナードが招集されない理由をアルフレッドは理解した。
それほど詳しくモルテが言っている訳でもないのに理解出来たのは心当りと死神としての知識を当てはめたからである。
アルフレッド自身もこの考えが当たっているとも思っている。
だからこそ、モルテはアルフレッドに尋ねた。
「アルフレッドは教皇について何か掴んでいるか?」
教皇の死去が発表されていない時点で「死去」と言っては回りが混乱すると感じたモルテはあえて「教皇」と言って同じ様に情報を集めていたアルフレッドに尋ねた。
その質問にアルフレッドは首を横に振った。
「手がかりはないよ。俺もおかしいと思って調べたけど全くない」
モルテの意図を呼んで全て教えたアルフレッドだが、モルテが何かを言う前に続きを言った。
「だけど、一つだけ分かったことはある」
「……それは?」
「本当に突然だってことだ」
アルフレッドの言葉にモルテは耳を疑った。
「何故そう思う?」
「これだけ調べて全くないからだよ。少なくとも、俺もモルテと同じ理由だけど一足早くにサンタリアに来て情報を集めていた自信がある。だから言えるんだ。ないのは本当に突然だ」
アルフレッドも周りに注意して「死去」の言葉を使っていない。言葉を選びつつ話しているから長々となっているがそれでも説得力は感じられる。
頼んでいた料理がテーブルに置かれるのを利用してモルテは頬杖をついてアルフレッドを見つめた。
決してあり得ないと思って覆そうとしていた突然死の選択。
しかし、アルフレッドは突然死の可能性を導きだした。
二人の考えは全くの真逆。だが、
「ないならあり得ることを導き出す、か」
料理を口にしてモルテはアルフレッドの考えを肯定した。今はその可能性が高いと思ったからである。
「それしかないかなって思っただけさ。それに、思っただけで原因は分からないのだから」
アルフレッドも料理を口にして大したことじゃないと言うが、表情は若干強ばっている。
「原因は直接死神に聞けばいい。どのみち集まる全員が疑問に思っているはずだ。例え私達に聞く意思がなかったとしても誰かが聞く」
「モルテは原因は何だと思う?」
「知るか。それこそ死神が言うか直接確かめるしかないだろう」
結局は死神の元へ行かなければならないと結論付ける。
「食べ終えたら行くか」
「そうだな」
そうして教皇についての話しは終わり二人は本格的にカフェで夕飯を食べ始めたのである。




