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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
9章 教皇選挙(前編)
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カラス

 プラズィア南西に位置するミノリア島は夏の時期になると多くの観光客が押し寄せる。その為に朝が早いのにも関わらず大陸とミノリア島を繋ぐ一番早く着いた船から降りた観光客が島を観光、もしくは朝食を食べるために出歩いていた。もちろんミノリア島に宿泊した観光客もである。


 そんなミノリア島に存在する宿の一つキャシミアンには目的を終えて国へ帰る者達がエントランスに集まっていた。

「師匠、遅いね」

「つっても待つしかないだろ」

「えぇ~」

「でも、本当に何やっているんだろう?」

「さあな」

 ディオスの疑問とミクの愚痴に待つのに疲れた様子のファズマが不機嫌に答える。

 その様子にディオスは苦笑い、ミクはつまんないと言う様子を浮かべる。

「それにしてもミノリア島に来れてよかったよ。楽しかったよね」

「うん!」

「そうだな。ディオスが行方不明になった時は焦ったがそれ以外はよかったな」

「余計なこと言わないでくれよファズマ!」

 ミノリア島で過ごした数日に想いを馳せているとファズマからのとんでもない一言にディオスは慌てて遮る。

 その様子にファズマはニヤリと笑う。

「結婚式、クロエさんキレイだったよね」

「ほ、本当にそうだった」

 ファズマに弄られたディオスはミクが結婚式の話をし始めたことで話の話題を変えるために飛び付いた。

「あたしもクロエさんみたいなドレス着たい」

「ウエディングドレスのこと?」

「うん。白くてキレイだった」

「つうか、ミクはクロエじゃなくウエディングドレスかよ」

「クロエさんの様にウエディングドレスが似合う女の人になりたいの!」

「結局ウエディングドレスかよ!」

 ミクの意識が花嫁よりもウエディングドレスに意識が向いていることに気がついたディオスとファズマはミクの年齢と合わさってしばらく希望は無理だと結論を出す。


「それでファズマは?」

「何がだ?」

「ファズマはどうだったかって聞いているんだ」

「俺か?」

 ミノリア島をどう思うかと言うディオスの質問に少しだけ考え込んだファズマはその思いを言う。

「そうだな、暑いが海を泳ぐつう経験したから楽しかったな。それに飯も上手かった」

「魚料理美味しかったもんね!」

「ファズマ、帰ったら作れる?」

「作れねえってことねえがアシュミストじゃ生魚なんざ売ってねえから無理だ」

 アシュミストには輸入された干された魚しか売っていない。モルテが気まぐれで魚を釣って来ない限りはミノリア島の様に再現するのは無理だと言うファズマにディオスが提案する。

「それじゃ店長に頼んで途中で漁港に寄って魚買おうよ」

「うん!」

「おい、俺は作るなんざ一言も言ってねえぞ!」

「あったら作るって聞こえけど?」

「あたしもそう聞こえたよファズマ?」

「お前らな……」

 この流れからして決まっているお約束の予想にファズマは顔を歪めた。

「ファズマ、帰ったら作って!」

「焼き魚、パスタ、スープ!何でもいいからまた食べたいから作ってファズ!」

「だから俺は料理人じゃねえ!!」

 やっぱりと二人の願いを一応聞いたファズマは感覚を開けずに突っ込みを入れた。

 けれども、ディオスとミクはファズマが料理を作ることは確定としている為に突っ込みを聞き流して話題の方針を変える。

「あ、漁港に行くんだったらまた串焼きまた食べたい!」

「美味しかったもんね。見た目グロいのに味が美味しいのが不敏だけど」

 今でも思う。屋台で食べた串焼きのそれぞれの元の姿を思い浮かべると気持ち悪いの一言なのだが、食べてしまうとそれが何なのかと思ってしまい、見た目に馴れていないはずなのにまた欲してしまう魔性に落ち込む。

 ディオスの心中の呟きに突っ込みを聞き流されて不満そうにしていたファズマが悪い笑みを浮かべる。

「それじゃそれ買って作ってやろうか?」

「え!?」

「ファズ、作れるの?」

「出来るかよ。どう料理すればいいか分からねえから聞くしかねえだろ!」

 ファズマの言葉に微妙に不安を感じてしまうディオスであるが、ファズマなら上手く料理出来るかもしれないと改めて期待する。

「あ、普通の魚料理も頼む」

「分かった」

 ディオスの要望に頷いたファズマ。直後、何だかんだで結局ファズマが料理することになっていることに気がついて三人は笑い出した。



 楽しげに笑う三人に突然水がかけられた。

『まったく、あのお方の今回の弟子達はこんなにも騒がしいのカ?加えてただの人間もいる』

「え?」

「ん?」

「はぁ?」

 妙に甲高く人を見下した様な声を聞いた三人は顔を見合せて表情を固くした。

「今の何?」

「人は、いねえな」

 改めて周りを見回すと宿泊客はおろかカウンターにいるはずの係の者もいない。係にいたっては四六時中いるわけではなく呼ばれたら対応するものであるために普段からいる方が珍しい。

 だから、エントランスにディオス達三人しかいないのにそれ以外の声が聞こえるのがおかしいのである。

 だから、ミクが疑問に思い姿なき者に問う。

「誰かいるの?」

『いるに決まっているからこうしておるのだろう』

「どこにいるの?」

『ここにいるではないカ』

「ここってどこ?」

『ここにいるではないカ!こっちを見ろ!』

 上から目線の言葉に少しだけ怒りを感じなからもディオス達はエントランス内を見回す。そして、入り口で不審なそれを目にする。

「カラス?」

 体もくちばしも黒くミノリア島では一度も目にしていないカラスが入り口の真ん中に位置して見ている。

「何でカラスが?」

「そもそもカラスが話す訳ねえか」

「うん」

 カラスが話すなどあり得ないと決める三人。

 その言葉に意義ありと言う様子でカラスが翼を上げた。

『カラスが話さないとは勝手なことを言うな!』

「え!?」

『私はこうして話しているではないカ!』

「嘘っ!?」

『嘘なものがあるカ!私を見ろ!』

「はぁぁ!?」

 カラスが話さない。そう決めつけた直後にカラスが人語を話す。その驚きにディオス達は硬直。直後、

「カラスがしゃべったぁぁぁぁ!?」

 聞こえていた声がカラスの声であったと言う予想外のことにディオス達は声を重ねて叫んだ。


 それを聞き付けた様にモルテとクロエがエントランスへと入って来た。

「三人共に、大声を出すな」

「店長!?」

「ああーー!」

 大声では迷惑になると不機嫌な表情を浮かべて注意するモルテだが、直後にカラスを見たクロエが叫んだ。

「また現れたのね先生泥棒!」

「泥棒!?」

 カラスに泥棒とはどういうことなのかと三人は目を丸くする。

『ほう、お前はあの時のカ?』

「そうよ!よくも先生を奪ったわね!」

『あれは正式にお声をかけたまで。奪ってなどいない』

「あなたが来なかったらあと数ヶ月一緒に居れたのよ!」

 人語を話すカラスに過去のことを恨むクロエが喧嘩を吹っ掛ける。その様子を見ていられなくなったモルテが呆れ顔で止めに入った。

「クロエよせ。あれは仕方のないことだ」

「先生……」

「それに、既に一人で出来ると判断したから私はクロエに任せたのだ」

「ですが、私はもう少し先生といたかったです」

「それではクロエは独り立ちなど出来ん。だからいい機会であったから乗ったのだ」

「先生……」

 モルテの言葉にクロエは心のつっかえが消えていく様に感じられた。

 一応モルテがミノリア島を離れていく際に一人前であると言われたがそれでも不安があった。

 しかし、死神として経験を積み、改めて当時の思いを聞かされると、自分はあの時、本当に師から認められていたのだと実感する。


 弟子が安心したと目に見て変わる様子を見届けたモルテはいつの間にか近くにいたカラスに尋ねた。

「それで、コルクスは何用で訪れた?」

 コルクスと呼ばれたらカラスは翼を羽ばたいてモルテの目の前に着地した。

『単刀直入に申しまス。教皇がお亡くなりになりました』

 コルクスから告げられた言葉に聞いていた全員が声を失った。

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