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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
8章 新郎と人魚の子守唄
272/854

閑話 モルテがいないアシュミスト

 モルテ達がミノリア島へ行ったその日、アシュミストではいつも通りでありながら、ある場所で問題が起ころうとしていた。




 この日も相変わらず懲りずにガイウスが屋根の上でゴルフクラブを手に持って準備運動をしていた。

「さぁ~て、今日もいっちょやろうかねぇ~」

「準備出来ております」

「さっすが早いなぁ~オスロー」

「恐縮です」

 オスローが準備していたゴルフスペースには既にゴルフボールを乗せたピンが刺さっている。

 ガイウスはそこにゴルフクラブを合わせて、思いっきり振った。

「ナイスショットです社長」

「そうか~い!」

 高く遠くに飛んでいくゴルフボールを目で追いながらオスローはガイウスを讃えるのであった。

「だぁ~が、今回はこれだけじゃないんだよなぁ~」

 しかし、いつもなら打ち終えてすぐに店へと戻って行くガイウスであったがこの日は違っていた。


* * *


 火球となったゴルフボールは他の死神達によって打ち返されていた。

「だから仕事中だって!」

「休みの日だってのに飛ばして来るな!」

「通勤途中だ!!」

 そんな叫び声をする死神達の受け継ぎ(リレー)で返された火球は今回もガイウスが営むトライアー葬儀店へと飛んだ。


 だが、

「これを待っていたーー!!」

 飛んでくる火球にガイウスは目を輝かせ、ゴルフクラブでまた高く遠くに打ち返した。

「よ~し、スッキリしたなぁ~」

「さすが社長です。ゴルフボールが帰って来るのなら打ち返せばいい。誰も考えません」

「こ~れで戻って来るっことはぁ、ないだろうなぁ~」

 火球を打ち返したことに満足するガイウスとその方法を讃えるオスローであるが、他から見たら「そもそもゴルフをするな!」と言いたくなるやり取りである。

 そのまま二人は安心しきって店内へと戻った。


* * *


 マオクラフはこの日も朝の郵便配達をしていた。

「ありがとうございます」

 手紙を渡して次の配達へ、と確認しようとした時、上空から聞き慣れている異様な音に顔を上げた。

「何で今日は二回も落ちて来るんだよ!!」

 加えて火球の勢いも増しているのに驚くも、とにかく打ち返さなければと思っていつも通りペンを取り出して、困る。

「手元にあるのこれで最後なんだよな……」

 ここでペンを無くせば仕事に事情が出ると困ったマオクラフは今もなを落ち続けている火球を見て危機感を懐いた。

「って、やばっ!?」

 火球は思ったよりも早く落ちており、打ち返す為の準備が間に合わないとマオクラフにとって最終手段を繰り出した。

「帰れ!」

 領域を展開してそのまま火球を別の場所に展開した領域の出口へ飛ばした。

 父親であるレナードならアシュミストの外へ飛ばすことが出来るだろうが、本来これは難易度が高い為にマオクラフではそこまで遠くへ飛ばせない。さらに成功率も低いのだが、今回は飛ばすものが小さいことと無機物であった為に何とか成功。今頃は領域の出口から火球がとある場所へと落ちている頃である。

「ふぅ~、成功したか……」

 とっさにやったこととはいえ狙い通りにいったことが嬉しくマオクラフは顔を綻ばせた。

「さて、次の配達に行くか」

 すっかり火球に足止めされてしまったマオクラフは死語との続きをする為に次の配達場所は向かった。


* * *


 そして、上空に固定した領域から出た火球はそのまま垂直に落下してトライアー葬儀店の屋根を音を上げてぶち抜いた。

 バーーンという今までにないくらいド派手な音を立てて。

「社長!」

 落ちてきた火球の大きさから比例出来ないほど大きな穴を開けて貫通したことで大惨事となったてんなを慌てたオスローがガイウスの元へと駆け付ける。

 ガイウスは開けられている穴の真下で頭に大きなたんこぶを作って倒れていた。

「なぁ~んで、かっえ~……ってくるんだぁ……」

 そして気を失った。

「社長ーーー!!」

 そうして、いつもの通りオスローが叫ぶのであった。


  ◆


 その知らせを聞いたレオナルドは溜め息をついた。

「また、ですか……」

「電話をしている時にドデカイ音が響いたのに驚いたが、まさか二度もとは驚いたぞ」

「モルテがいなくなって早々にこれですか……」

 電話の相手であるレナードの話しにレオナルドはこれからのことを考える。

「とにかくモルテはいない、ガイウスは行動不可。こちらで出来る限りのことをしてみます」

「頼む。それと、今日の集まりは大丈夫か?」

「問題ありません。モルテが一日早く出て行ってしまったのは痛いですが当初から決まっていたことです」

 モルテが持つ問題体質を考えれば集まらなければならない事であったから問題ないと受け入れる。

「ありがたい。他の奴にも連絡はしておく」

「頼む」

 そうしてレナードと連絡を終えたレオナルドはアリアーナとアンナに指示を出した。

「アリアーナはトライアー葬儀店に行ってくれ」

「いいけど、本当に懲りてないよね」

「うん、本当に懲りないよ」

 アシュミストの葬儀業にとってトライアー葬儀店の臨時休業はとても痛いものである。その対応として葬儀屋フネーラかチャフスキー葬儀商が手伝い(ヘルプ)として駆け付けるのだが、今回は葬儀屋フネーラがいない為に手伝いをチャフスキー葬儀商が行わなければならない。しかし、それもずっとというわけではない。少人数で働いている為に手伝いに行かせられる人数の制限がある。現状、一人でも欠けてしまうと葬儀屋フネーラがいない今はとても厳しい状況である。

「向こうが動かなければ支障がきたすかもしれない。その為にも頼む」

「父さんの指示だもの。行くよ」

 ガイウスが起こして出来事にに頭が痛くなるが、アリアーナが呆れ顔をしながらも引き受けてくれたことにレオナルドは内心で礼と謝罪をした。

「それと着いたら連絡を頼む。どうも今回は相当に酷いらしい」

「ん?分かった」

 何か意味深な言葉を言ったレオナルドにアリアーナは首を傾げるもすぐにトライアー葬儀店へ向かった。

「アンナはしばらくここを頼む」

「分かった」

 アンナにも指示を出してレオナルドは店の奥へと向かった。


 仕事とは別の作業場に入ったレオナルドは腰を下ろした。

「さて、やるか」

 気合いを入れて筆を取り始めた。


 代々死神の家系として生まれたレオナルドは今までに出現した生霊リッチの記録をしている。

 今回は遠方の知り合い、同じ死神からの情報を集約している。

「やはり、生霊の出現が多くなっているな」

 だからこそ分かる。様々な場所から生霊の情報を纏めると日を追うごとに出現数が多くなっていることを。

「考えたくはないがこれは……」

 レオナルドが険しい顔つきをしていると渡りの伝達文箱(メールボックス)の蓋がカパッと開いた。

「ん?」

 何かと渡りの伝達文箱(メールボックス)から手紙を数着取り出して中身を確認すると、書かれていた文に険しい顔を浮かべて呟く。

「これはやはり……」

「父さん?じゃない、店主?」

「そうなるとこっちは……」

「店主ーー?」

「いや、情報が少ないか」

「父さーーん?」

 レオナルドが考えて呟いていると店内からアンナが呼ぶが全く気づいていない。

「ああ、またか……」

 いつもの様に集中して周りが見えなくなったレオナルドに様子を見にきたアンナは溜め息をついた。

「仕事入ったから行ってくるよー!」

 無駄とは思うが一応声をかけてアンナは外へと出ていった。

 そして、やはり気づかなかったレオナルドは情報整理に没頭することとなり、電話のベルや来客に気づくこともなく……


「泥棒ーー!!」

「何!?」

 どれくらい経ったことか、アンナの叫び声に作業場から飛び出し、警察騒動になるのであった。



  ◆


「呆れた」

 その全てを聞いたレナードはすっかり意気消沈しているガイウスとレオナルドに冷たい目を向けた。

「何で今日に限って葬儀業が営業出来ないってことになったんだ!」

 そう、この日アシュミストの葬儀業は全て臨時休業となったのだ。

 葬儀屋フネーラは所用により不在。

 トライアー葬儀店は店内一部が壊された為に遺体の引き取り以外不可。

 チャフスキー葬儀商は泥棒と間違われた来客と警察の取り調べにより営業不能。なお、トライアー葬儀店と同じく遺体の引き取りは可能であった。

 モルテは事情が事情であるから仕方ないかもしれないが、ガイウスとレオナルドの自滅による臨時休業はどうしようもない。

「申し訳ありません……」

「俺は聞いてねぇ……」

「ガイウスは連絡の途中だったからな。だが、ゴルフボール帰って来るのに何で懲りずに続けるんだ!やめろと言っているだろう!」

「そぉりゃ、俺の趣味だからなぁ~」

「それで営業不能になっているんだろう!レオナルドも一人になる時があるなら纏めるのをやめろ!」

 ガイウスとレオナルドを責めるレナードの迫力に集まりで居合わせているアドルフ、マオクラフ、リーヴィオは顔を見合わせた。

「レナード、相当に頭に血が上ってるな……」

「無理ないだろ。初日から問題が起きたんだ。しかも、俺達も色々と巻き込んでいたんだからな」

「あ~、それもそうか」

 事後処理として働いた三人にしてもモルテがいない初日の問題に頭を抱える。

「モルテが帰って来るまで問題ないと思う?」

「思えないな」

「そうなるとあれか……」

 リーヴィオのあれと言う言葉に色々な気持ちを抱いた。


 ガイウスとレオナルドを散々叱ったレナードは二人に沙汰を下した。

「ガイウスはしばらくゴルフを禁止!クラブもモルテが帰って来るまで没取!」

「おぉぉい!?」

「オスローに新しいのを買わせようとするな。また街の外を走らせるからな」

「卑怯だなぁ、おい……」

「どこが卑怯だ!」

 最初の頃のゴルフ騒動の時にクラブを没取したのだが、オスローが新しいクラブを買って再びゴルフを始めたことでオスローも連帯責任として別でアシュミストの外を走らせたことがあったのだが、あの時はまさかオスローが運動音痴で一日以上かかるとは思っていなかった。

 だが、それがオスローにトラウマを植え付けたこととなり、共犯防止の為に言うようになった。


「レオナルドはせっかく酒場にいるんだ。そこで酒を飲まないのはもったいない」

「レナード……」

「モルテが帰って来るまで毎日ここで飲め!」

「私を殺す気ですか!?」

「そうならないように医師がいるだろう」

「任せろ」

 レナードの罰の協力者としてリーヴィオは今まで弄られていた仕返しが出来ると目を輝かせていた。

 そして、アドルフとマオクラフも行動に移り始めた。

「さて、俺達もやるか」

「俺ガイウスの店からクラブ持って来る」

「おぉぉい!!それ泥棒だっからなぁ~!」

「本人に言ってるから泥棒じゃないから」

「警察もマオクラフの行動を盗みでないと認める」

「おぉぉぉぉい!!」

「酒、酒だけは勘弁してください……」

 罰を与える組は意気揚々と準備へと入り、罰を与えられる二人は悲惨な表情を浮かべるのであった。


 こうして、レオナルドは酒に弱いということもり三日でリーヴィオからドクターストップがかかり急遽罰の継続は中止。後に来客が訪れても分かる仕組みを作ることでこの行いは終了することとなり、命が繋がったと泣くのであった。

 ガイウスは全く反省せず、モルテが早く帰って来ることを願っていたのだが、四日目に見事に望みが打ち砕かれる事となる。

予定では8章はこれで終わりの予定だったんですが、もう1話あります。

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