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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
8章 新郎と人魚の子守唄
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人間をやめる

 11年前―――

「これ以上は限界です。安静にすることを進めます」

 そう医師に己の体の状態を伝えられたレナ・ケイオルンは複雑な心境を抱いた。

「ですが、もう少しだけ……」

 レナの言葉に医師は首を横に振った。

「それに、夫と子供達の為にも働かなければ……」

「あなたが思っている以上に体の状態はよくありません」

「少しでも手伝ってもらえれば大丈夫です」

「申し訳ないがそれでも辛いです。どうかこれ以上は働かずに安静にしてください」

 医師の言葉にレナは満足出来ないと言う様子を浮かべるが、医師は出来れば言いたくなかったと重い口を開いた。

「どうか安静になさってください。このままでは一年持ちません。安静にしていれば数年生きられるんですから」

 レナは目の前が暗くなるのを感じた。



 キャシミアンへの帰り道は遠く、歩く足が重く感じた。

「どうしたらいいのかしら……」

 今まで跡を継いだキャシミアンで働くことが楽しみであったレナにとって安静はどうしても受け入れられないものであった。


 末の息子を産んでから壊れた体は日に日に増して動かなくなってきていることは感じている。それでも宿、キャシミアンで働くことが大好きなレナは働き続けた。体が思うように動かない時でもずっと。

 最初は心配していたが周りだが、レナの頑固に折れてなるべく負担が掛からない様にと助けてくれている。従業員も夫も息子も全員が。

 唯一不安だったのは末の息子を産んだ為に体が壊れ、それを周りが責めることであった。

 しかし、それは杞憂に終わった。夫と息子、上の兄達は末の息子を可愛がってくれている。

 長い間それだけが不安であったのだが最近思うことがある。

 大切な家族であるから助けたいと。

「少しだけ真面目過ぎるけれどね」

 唯一末の息子が自分に似ている性格に笑ってしまう。上の兄達は夫に似て自由奔放、けれども責任感は備わっている。

 だから思ってしまう。

「リーオはこれから大丈夫かしら?」

 あまりにも自分と似すぎている末の息子の行く末が気になる。

 夫が持つ自由奔放な性格にレナは引かれた。真面目すぎる自分とは正反対であり、大胆に見えるくせに妙に繊細である。けれど、末の息子は夫のことをあまり好ましく思っていない。そして、夫も本質を教えずに全てを受け入れている。

「せめて、リーオが好きになって、リーオを好きに思ってくれる人がいたなら……」

 医師に言われた言葉がレナを傷付けていた。もしかしたら明日終わってしまう命、長くて数年。最も心配する末の息子の行く末を見届けるには短すぎる。


「お困りの様ですね」

 その時、背後から声をかけられたレナは慌てて振り返った。

 そこには一人の不思議な気配を纏わせた青年が立っていた。

「あの、私に何か?」

「失礼。先程の話を聞いてしまったもので」

 笑いながら謝罪を言うと青年は本題を口にした。

「生きたいと言う願い、方法がないわけではありませんよ」

「え?」

「ですから生きられるんです。ただし覚悟と運によりますが」

「運、ですか?」

「はい。興味を持ちましたか?」

「……その方法は?」

 レナのせがる言葉に青年はもったいぶる様に笑みを浮かべた。

「慌てないでください。教えたところで考える時間と言うものも必要です」

「それでも、どうか!」

「……何故そこまで慌てているかは聞きません。ですが教えましょう。その時は私も立ち会いします。よろしいでしょうか?」

「はい」

「いい返事だ」

 レナからの迷いない返答に青年は言った。

「生きる方法はこの世に一つだけ。人間をやめればいいんです」



  ◆


「それで、生霊リッチになった……!?」

 人魚マーメイド、レナからいなくなるまでの話を聞かされていたディオスはその事実に言葉を失った。

「ええ。その人は私の体のことを聞いて最も運が必要なこの方法を教えたの」

 レナの体は既にボロボロだった。それなら体を捨てて魂となり生霊になる方法がある。だが、

不死者アンデッドになっていたかもしれないのによく生霊になる為に死のうなんて思いましたね」

「あの時は焦っていたの。少しでもリーオを見ていたかったから」

「心配だから、ですか……」

 一人の為に死を選んでそれでも見守りたいと思うレナにディオスは半分困り、半分怒った。

「……俺は、自分の気持ちだけで死ぬなんて勝手だと思っています」

「そう、勝手ね。この存在になって分かったことだけれど、見守ることは出来ても声をかける気にはなれなかった。思っていたのとは違ってたわ」

「それは姿が?」

「そうね」

 レナは尾びれを見せてディオスに変わってしまった部分を見せた。

「髪は茶色から水色になって、両足も魚の尾になった。陸じゃ不便だし、人魚がいるってなったら死神に見つけられるでしょ?」

「だから隠れていた、と?」

「そう。最初はあの人が庇ってくれたは。それからこの異界を作って静かにしていたのよ」

 レナの話にディオスは思考の海へと落ちた。


 レナが突然消えた頃を考えると当然死神達は探していただろう。もちろん当時ミノリア島にいたモルテも。

 どれだけの期間と範囲を探していたかは分からないが、見つからなかったことを考えるとレナに生霊を教えた人物が気になる。

「幾つか質問いいですか?」

「いいわよ」

「まず、あなたに生霊のことを教えた人は誰ですか?死神ですか?」

「何も教えてくれなかったわ。それに死神ではなかったわ。この存在になってから時々島を見ていたけれど、死神の存在は普通の人とは違うっていうのが分かるの。だから死神ではないわ」

「そうですか」

 もしかしたら死神がと言う考えられない可能性もあったがレナが違うのならないことだとしてこの質問は終わった。

「もう一つは、話からしてその人は生霊以外のことも言っていた様に思えるんですが?」

「そうね。生霊と不死者のことは聞かされたわ。けれど、それ以外にも方法はあると聞かされただけで教えられていないわ」

「他の、方法……?」

 人は死神の力がなければ死ぬことが出来ない。生霊や不死者以外に生きる方法があるとは信じられない。

「そう聞いただけ。期待に応えられなくてごめんなさい」

「いや、俺は期待とか……」

 慌てて否定するディオスであるが、レナは首を横に振った。

「あなたではないわ」

「え?」

 そう言ってレナは後ろを見ろとディオスを促した。

 そのままディオスは後ろを振り返り、えっ!?と声を漏らした。


「ようやく気がついたか」

「て、店長!?」

 岩壁の近くで何事もないようにモルテが白馬にまたがってそこにいた

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