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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
8章 新郎と人魚の子守唄
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騒がしい兄達

「リーオ、相変わらず怖い顔してるな」

「三人が粗相をしないか心配だからです」

「何も粗相をするつもりはないが?」

「覚えている限り三人合わせて何百回もしているけれど?」

「そうか?忘れたな!ははは!」

「はぁ~」

「リーオ、眉間にシワ寄ってるぞ」

「誰のせいと思っているんだ!!」

 ミノリア島を観光して土産物を買ってキャシミアンへ戻ったディオス達がエントランスで見たのは、三人の男がエミリオスを囲んで騒いでいるところであった。三人共、どこかエミリオスと外見が似ているが雰囲気が違うようにも感じている。


「……何だ?」

 呆然と見ていたファズマがやっとの思いで口を開いた。

 その様子はまるでエミリオスを物理的でないにしてもぶっ叩いている様に見える。

「お、客か?」

 すると、エミリオスを囲んでいた一人の男が三人に気が付くと、エミリオスの背中を思いっきり叩いた。

「リーオ出番だぞ」

「帰って来ておきながら手伝いをしないで弟に任せるのはどういうこと?」

「ここはもうリーオの宿だからな」

「リーオのものに俺達兄貴が手を出すわけにはいかないだろう」

「その弟を手伝うつもりはないのか!!」

 三人の言葉に悲鳴に近い叫び声を上げるエミリオス。

 粗相だから心配とかそう言う気持ちは何処へやら。帰ってきたのなら手伝えと真逆のことを言っているのが、そこまでに至り口にするまでの流れが人間臭く見える。

「……エミリオスさん、もしかしてその人達は……」

「……兄達です」

 もしかしてとディオスが尋ねるとエミリオスが肯定してやっぱりと思う三人。だが、ファズマだけはこの質問は危険であるとすぐに直感していた。


「おう?リーオの知り合いにしては年下過ぎないか?」

「仕事柄付き合いってものもあるだろう。そんでそのまま知り合った」

「あ~、常連ならあるか」

 どうやら常連リピーターに勘違いされているようだが訂正をする暇なく、その僅かな隙に三人の兄達の包囲を抜け出したエミリオスが話の主導権を得た。

「三人とも、この騒がしい三人は私の兄達です」

「おう、リーオの仕事を見られるとはな」

「一言余計だダミアノス!」

「あの、さっきからリーオって言われているのは?」

「……私の愛称です」

 騒がしくマイペースな兄達の話に突っ込みを入れたり呆れた様子を浮かべながらエミリオスはディオス達に兄達を紹介した。


「こちらが一番上のベネディクト。ミノリア島で土産物店を営んでいます。もしかしたら店を覗いた時に見ているかもしれませんが……」

「覚えてるかディオス?」

「多分……会ってないと思う」

「あれ……?」

 土産物店を回っていたためにもしかしたらと思っていたが、記憶力のいいディオスの一言にベネディクトは小さな呟きと共に僅かにガッカリと肩を落とした。

 そんなベネディクトを無視してエミリオスは紹介の続きをした。

「そして二番目のクレタス。三番目のダミアノス。ダミアノスは大陸でミノリア島で出来たものを売る雑貨店を営んでいます」

「よろしく。店に立ち寄ることがあったら顔を出してくれ」

 自己紹介を終えたエミリオスはダミアノスが余計なことを言わないでホッとした。


 今まで聞いていた紹介にクレタスたげが職業について言っていないことに気がついたディオスは片手を上げて質問した。

「あの、クレタスさんは何をしているんですか?」

「俺は気ままに旅をしているだけだな」

「旅、ですか……」

 様は就いていないのだと理解する。そこにエミリオスが爆弾を落とした。

「時々帰って来ると部屋で寝ているか父さんと釣りをするかのどちらか。典型的な駄目人間です」

「そりゃ、タダ飯というわけにいかないだろう。何だっけな?確か……働かねえと飯は出ないって言うしな」

「それだったらちゃんと仕事に就いて働け!」

 食料は確保しているから問題ないと言うクレタスにエミリオスは仕事をしろと促す。

「おいおい、ちゃんと仕事してるぞ。それに、出る時は片付けもしているからな」

「部屋だけじゃなく宿の手伝いとして片付けもしてほしいけれど。それより、流浪が仕事って言わないから」

「そうか?」

「そうかって……何でそう思っているんだよ!」

 クレタスの理解不能の思考にエミリオスの気持ちは爆発して頭を抱えた。


 その生真面目すぎる様子にクレタスは笑いながらエミリオスの背中を叩いた。

「ま、気楽にした方がいいぞ」

「気楽になりすぎたら父さんとクレタス達みたいになるから絶対にしない」

「堅いな。そんな堅物にはこうだ!」

 そうしてクレタスはエミリオスをもみくちゃにし始めた。

「や、やめ……!」

「あ~、こうなったか」

「ま、これがリーオの発散にはいいからな」

「それじゃ俺もやるか」

 傍観していたベネディクトとダミアノスもエミリオスいじりに参戦。それによりエミリオスの整えられた格好が乱れていく。



 その様子を思いっきり置いていかれて今ではすっかり忘れられたディオス達が呻いた。

「うわぁ~……」

「ここまでやるか?」

 エミリオスをいじり回すハチャメチャ振りに三人の様子に全く追い付いていけない。

 と言うか、エミリオスが不憫と言うよりも憐れに思ってしまう。

 助けを求めようとしてディオスは受付にいる係りに視線を向けたが、係りはそれに気がついてすぐに視線を反らした。

 完全に見て見ぬふり、無関係を表明する様子にこれは止めるのが無理であると悟る。


「おうおう、騒がしいと思ったら全員いるな!」

 するとそこに四人の父親ビルが現れた。

「久し振りだなベネディクト、クレタス、ダミアノス」

「親父も元気そうだな」

「ははは!俺が倒れるとでもおもったか?倒れるわけないだろう!」

「確かにそうだ」

 そうして笑い出すビル、ベネディクト、クレタス、ダミアノス。エミリオスはその隙を付いて兄達の手から抜け出すと不満に口を尖らせる。

「そうだ!揃ったからには飲むか!」

「いいなそれ」

「パーティー前に一杯!」

「婚前前々祝だな」

「こんな昼間から飲むの!?」

 父親達の会話に驚くエミリオスだが、何を驚いているんだとビルが言う。

「もちろんエミリオスも飲むんだぞ」

「いや、仕事が……」

「係りの者に任せておけ!さあ、飲むぞ!」

 そう言ってがっしりとエミリオスを捕まえると居住区へと消えてしまった。


 やはり忘れられていたとばかりに残されて立ち尽くすディオス達は顔を見合わせた。

「どうしよう?」

「そもそも、俺らがここにいる理由あったかって話だな」

「多分だけどね、途中からなかったと思うよ」

 エミリオスの兄弟達の勢いに付いていけずに傍観する様に立ち尽くしてしまいその場から離れるという選択肢が抜けていただけにミクの言葉には気まずくなる。

「ねえ、早く泳ごうよ!」

「……そうだな」

「……うん」

 とにかくこの雰囲気から脱却したいと、無邪気に言ったミクの言葉に飛び付いたディオスとファズマは何かの重りを抱えたまま部屋に向かったのであった。



  ◆


 その頃モルテはと言うと。

「モルテさん!」

「ソロン、どうだった?」

「空振りです。モルテさんの方はどうでした?」

「こちらもハズレだ」

 レナが作り出した異界への入口をソロンと共に探していた。

 だが、結果はハズレばかり。ミノリア島に住む者達から聞き周り海水が入る場所を探すもないのである。

「これだけ探してもないなんて……」

 疲れたとその場に座り込むソロン。ミノリア島を探し回って数時間経っている。疲れて当然である。

「残されたのは、隠されているか、人間では入れない場所にあるかだ」

「それじゃ領域を使って探す方法に?」

「ふむ。だが、その場合は中に入るのに苦労が生じる」

「領域で道を作る必要があるからですか?」

「ああ。だが、今は場所を探すだけだ。焦って道を作り入ったところで返り討ちに遇いたくないだろう」

 それはそうだとソロンは頷いた。

 入口探しに歩き回って疲れているのだ。いくら急いでいてもこの状態で異界へ入るのにはよろしくない。

「そう言うことだ。やれるか?」

「はい!」

 モルテに促されてソロンは今作り出せる領域をモルテと共に展開した。ミノリア島の空から地中へと深々と刺すように展開をして、ようやく異界の入口らしきものを見つけたのであった。

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