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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
8章 新郎と人魚の子守唄
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海が見える場所で

 案内された客室は二人部屋が二つ。そこから見える光景は絶景であった。

「すごーーい!!」

 窓を開けて目の前に広がっている海の綺麗さにミクが歓声を上げた。

「師匠、すごいよ!キレイだよ!」

「ここの目玉は海の絶景だ。時代が変わったものだ」

「何が?」

 荷物を置いて分からないことを言うモルテにミクは首を傾げた。

「昔、富裕層はこの光景を部屋から見ることができなかったのだ」

「どうして?」

「人目につくことを避ける為に富裕層は人目に付かない裏側の部屋に泊まっていたんだ」

「何で?」

「考えてみろ。せっかくの休暇を誰かに見られたらどう思う?」

「あたしは見られてもいいとおもうけど?」

「昔は人目につくことがよろしいことではなかったんだ。そして、人目が集まるこちら側に使用人が泊まっていたのだ」

「それってもったいないよ」

「ああ。ここ最近はそんなことなくなったがな」

 モルテの話を聞いてこんな絶景を部屋から見られないのは損をしていると思うミク。

「それに、ここの目玉は海だ。損も何も大損している」

 モルテもそうだと頷く。


 すると、扉を誰かが叩いた。

 モルテは叩かれた扉を開けると受付にいた係と同じ服装の女性が立っていた。

「お客様、総支配人から準備が出来ましたらお呼びするようにと言われて来ました」

「分かった。ミク、行くぞ」

 係りの言葉にモルテはミクを呼ぶが、ミクの表情は何故か頬が膨らんでいた。

「海は?」

「話を終えてからだ」

「えぇ~」

 どうやら早く海を游ぎたかったようである。

「終えたらだ。それが終われば好きにしていい」

「本当?」

「本当だ」

 モルテの言葉に一応納得したミクは話が長くならないようにと願った。


  * * *


 ディオスとファズマと合流したモルテとミクは海が良く見える接客室でクロエとエミリオスに向き合う形で座っていた。

「先生、改めて来てくださってありがとうございます」

「弟子のめでたい門出だからな。師として見届けなければならんだろう」

「嬉しいです」

 モルテの言葉にクロエはよほど嬉しかったのか頬を赤らめて喜んだ。

 それを隣で見ているエミリオスがモルテに妬いているのだが全く気づいていない。

「さてクロエ、何かを忘れてはいないか?」

「何をですか?」

「弟弟子に自己紹介をしていないだろう」

「それですか」

 モルテに言われてああ、とクロエは両手を叩いた。

「初めまして。クロエ・オナシス・ザインと言います。先生の弟子であなた達の姉弟子になります」

「エミリオス・ケイオルンと言います。ここの総支配人を務め、結婚を気にクロエの夫となります」

「ファズマ・ジーア。店長が営んでいる店の従業員であり、店長の弟子だ」

「ミク・エルジムです。ファズと同じ師匠の弟子です」

「ディオス・エンツォ=レオーネです。従業員ですが弟子ではありません」

 クロエを筆頭にモルテ以外の全員が自己紹介を終える。


 タイミングを見計らってディオスは恐る恐る尋ねた。

「あの、いくつか質問していいですか?」

「どうぞ」

 クロエからの許可にディオスは質問を口にした。

「クロエさんは堂々と弟子と言っていますがエミリオスさんはもしかして知っているんですか?」

「死神のことはクロエから聞いています」

「プロポーズされた時に話して、それでもって受け入れてくれたの」

 どうやら死神のことを認知した上での結婚と理解するディオスだが、直後の二人が見つめ会う様子にラブラブであるのだと悟り、何故かこれ以上質問をしていいのかと悩んでしまう。

「ねえ、プロポーズって何て言ったの?」

 ここにミクがさらに油を注いだ。

「それはね、ここのラウンジで御舟渡りの明かりを見ながら、『結婚してください』って」

「クロエ!?」

 赤裸々に話すクロエにエミリオスが恥ずかしさのあまり慌て出すが既に遅かった。


「あの、御舟渡りって何ですか?」

 ミクが興奮しているのをよそにディオスはクロエの口から出た御舟渡りについて尋ねた。

「御舟渡りはミノリア島に古くから続く行事だ。既に御舟渡りは終わっているが、この時期は季節風により船が座礁することが昔からあり、そこで死んでいった者を弔う為に小さな小舟に供え物と火を灯して海に流す。それが御舟渡りだ」

「今は海の安全をお願いする行事になっているけれど、海を漂う光は凄く綺麗なの」

 その時の光景を思い出してうっとりするクロエ。よほどロマンチックだったのかその様子がしばらく続いた。

「すると告白したのが今の時期か」

「はい。葬儀店の引き継ぎと準備で式が今年になりました」

「そこまで聞いているのではないのだがな」

 エミリオスから語れた裏話にモルテは肩を落とした。


「あの、もう一つ質問が……さっきのことじゃないんですが、エミリオスさんはここの総支配人なんですよね?」

「そうです」

「その、随分若いようですが?」

「若いです。歳は25です」

「え!?」

 エミリオスの苦笑いが含まれた言葉に思った以上に若いとディオスの目が点になる。

「エミリオスには上に三人の兄がいるのだが、父親を含め自由奔放でな。エミリオスに総支配人の役職が回ったのだろう」

「モルテさんのおっしゃる通りです。兄達は明後日の結婚の為に久々に帰って来ますし、父は今ごろ釣りでもしているはずです」

 モルテに図星を言われてエミリオスはまた苦笑いを浮かべた。

「戻って来るのか」

「はい。ベネディクトはミノリア島で土産物を売り歩いているのでここにいますが、クレタスとダミアノスは首都がある大陸へ出ています」

「そうか」

 末の弟に全て任せて好き勝手やっていると思うが、モルテもそれを言える様な立場でないために口にはしないでおく。

「クロエはいくつだ?」

「私は24ね」

 ファズマの遠慮のない言葉にクロエも苦笑いをして自分の年齢をさらけ出す。

 その表情はもう少しで婚期が遅くなることを心配していたと言いたそうであるが、何故かディオス達は数字に同じことを思ってしまった。

(こっちの人の方が歳上なんだ)

 最近まで葬儀屋フネーラに住み込んでいた芳藍出身の残念美人を思い浮かべて心の底からまだ大丈夫と語りかける。


 置かれている飲み物で喉を潤したクロエはモルテも尋ねた。

「先生達はこれからどうしますか?」

「自由行動にするつもりだ。海を泳ぎたいらしいからな。私は二人がよければ今日は話すつもりでいる。まだ話し足りないだろう?」

「はい」

 モルテから予定を聞き出したクロエはそれを受け入れた。

 そのあまりの唐突に、けれども希望していたことだけにディオス達はモルテを見た。

「店長、いいんですか?」

「店を休みにしての休暇なのだ。思う存分羽を伸ばせばいい」

 モルテの気にするなと言う言葉に遠慮していた三人の表情が見る見ると変わる。

「よし、ディオス、ミク、泳ぎに行くぞ」

「うん!」

「あ、水着は売店で売っているからそこで買ってね。先生のことだから持ってきてないでしょう?」

「ありがとうございます」

 すんなりと予定が決まる三人にエミリオスが待ったをかける。

「その前にお昼をご一緒しませんか?」

「そうしよう。海を泳ぐのはそれからだ。いいな?」

「はい」

 お腹も空いた頃だと海よりも食を優先することにした三人。食い意地は完全に葬儀屋フネーラにいた影響だろう。

 そのまま六人は接客室で運ばれて来たミノリア島で釣れた魚料理を食べたのである。

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