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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
8章 新郎と人魚の子守唄
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白亜の島

 一番に扉を開けて外に出たミクは目に入った風景に歓声を上げた。

「しろーーい!」

 周りの建物全てが白壁であることに驚いていると遅れてディオスとファズマもその様子に驚いた。

「スゲーな……」

「うん。それに……」

 何かに気がついたディオスは鼻に付く臭いを嗅ぐ。

「何か不思議な臭いがする……」

 初めて嗅ぐ臭いに首を傾げるディオス。ファズマも釣られて嗅ぐが全く分からない。

「うわー!見て見てファズ!ディオ!」

 すると、何かに興奮するミクに促されてディオスとファズマはそれを見て驚いた。

「水!?」

「湖?それにしては大きい……」

「初めてで驚きっぱなしだな」

 三人の騒ぐ様子にモルテとソロンが面白そうに見ていた。

「師匠!あの湖何?」

「あれは湖ではなく海だ」

「海!!」

「海!?」

 湖の正体を聞かされたファズマとミクは好奇心から再び海を見るが、ディオスは驚きのあまりモルテに問い詰めた。

「店長、海ってどうして?」

「異渡り扉を潜ったのだから別の場所に出るだろう」

「そうじゃなくてここは一体?」

「ここはプラズィアのミノリア島。別名白亜の島だ」

「外国!?」

 ようやく目的地改め現在地を聞かされたディオスはシュミランからものすごく離れた場所に居ることに驚いた。


 プラズィアはシュミランの西南に位置する国であり、首都アテメイアまでどんなに速くても一ヶ月半かかる。さらにアテメイアからミノリア島まで四日ほどかかる島である。

 これだけでも分かる通りちょっとそこまでの数日程度の遠出ではなく月単位の旅である。

 それを異渡り扉で移動に時間をかけることなく国境を無視して目的地に着くことができるのだからもはや遠出とかではなくちょっとそこまで散歩の感覚である。


 色々と頭痛を起こしそうな頭を抑えてディオスは質問の続きをした。

「どうしてミノリア島に?」

「ふむ。クロエから招待状が送られてな」

「クロエ?」

「私の弟子であり、ファズマとミクの姉弟子だ」

 姉弟子と言う言葉にそれまで海を見てはしゃいでいたファズマとミクがモルテを見た。

「店長、ここにいたことがあるんですか?」

「ああ。ここには五年程な。クロエの師をしていた祖父が亡くなった為に代理で私がクロエの師とこの店の店長をしていたのだ。両親を早くに亡くしていたからな」

「店?」

 そうして初めてディオス、ファズマ、ミクは出て来た白亜の家を見た。

 白亜の壁に下げられた看板には「オナシス葬儀店」と書かれていた。

「葬儀店……」

 またしても葬儀業の店だと呆然とするディオス。そもそも、異渡り扉は葬儀を営む店にしかないのかと疑問に思ってしまう。


「師匠。どうしてここで五年もいたの?」

 ミクはモルテが居た理由は分かるったが、それはミノリア島に居る死神が代わりにやってもいいことなのにどうしてかと尋ねる。

「流はな、そこに住まう死神が何らかの理由で勤めが果たせなくなるとその勤めを引き継ぐ役割を担っている。ガイウスやソロンが腰を据えたり私が先代から期間限定で店を引き継いだようにな」

「流にそんな役目が」

「そうだ。流はかなりの物好きがするものと思われているが重要な役割なのだよ」

 流時代に様々な場所でその地に住まう死神から流がそう言うものだと見られていたモルテは思い出しながら呆れ顔を浮かべた。

「俺もクロエさんが結婚をするのを切っ掛けにこの店を引き継いだんだ」

「ふ~ん」

「って結婚!?」

 ソロンの発言にディオスは説明をとモルテに視線を向けた。

「そうだ。クロエからの手紙は結婚式の招待状だ。弟弟子に会いたいと言うことから連れて来たのだ」

 ここで明かされた目的にディオスは唖然。ファズマは呆然。ミクは結婚式と言う言葉にはしゃいでいた。

「師匠、師匠の弟子、えっと姉弟子が結婚するの?」

「そうだ。楽しみか?」

「うん!結婚式って初めてだよ!」

 素直すぎるミクの反応にディオスはゆっくりと頭を抱えた。

「店長、礼服持ってきてませんが……」

「それは式場で借りろ。私もそうするのだからな」

 だから問題ないと言う発言にディオスは弟子の結婚式の準備がそれいいのかと頭痛を抱く。

 対してファズマは立ち直りが早くモルテに質問をした。

「店長、式はいつですか?」

「二日後。明後日だな」

「ここにはどれだけいますか?」

「四日程だな。場合によっては私だけここには残ることになる」

「そうですか」

 多少意味深なことを言うモルテだがファズマは素直に聞き入れた。

 その様子を見ていたソロンは死神の弟子であるファズマとミクはモルテの人柄を分かっているからか適応力がいいが、唯一死神の弟子でないディオスが適応していない様子に苦笑いが溢れる。


 三者三様の様子を見終えたモルテはようやく周りの様子をゆっくりと見回した。

「それにしても、ここは全く変わらんな」

「はい。ここには何度も来ていますが変わっていません。それが好きで話に飛び付いたんですがね」

「ん?何度もと言ったか?すると私がここを離れてからか?」

「初めて訪れたのが三年前ですね。それからは何度も」

「そうか」

 去る者あれば訪れる者もいる。周りの白亜の家々は常に見続けて辛くはないかと思ってしまう。

「しかし、ここを好きになってくれるとは嬉しい限りだ」

「モルテさんからそう言っていただけるのなら光栄です」

 元々ミノリア島に住んでオナシス葬儀店を営んでいたモルテの言葉にソロンが嬉しくなり頭を下げた。


「して、クロエはキャシミアンにいるのだったな?」

「はい」

 モルテは改めてクロエがいる場所をソロンに尋ねた。

「式には?」

「俺も出ます」

「そうか」

 ソロンも式に出ることを確認したモルテは未だに同じ様子の三人に声をかけた。

「キャシミアンに行くぞ」

「はい」

「うん。ねえ師匠、海見える?」

「ああ。キャシミアンに行くまでずっと見えるだけではない。泳ぐ場所もある」

「本当?」

「って、水着ないから!」

「水着くらい買えばいいだろう。そのくらいの必要経費くらい出そう」

「ディオスは水着なしな」

「それはないよファズマ!俺だって泳ぎたいから!」

 目的地に行くと言っただけでこの騒ぎようである。今までの戸惑いなど「海を泳ぐ」という初体験の前では見る影がない。

「失礼するソロン。今夜また」

「はい」

 そう言ってモルテは三人を連れてキャシミアンへと向かった。

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