葬儀屋の予定
ディオスは思い出した様にアドルフに尋ねた。
「そう言えば、この人の遺族はどうしているんですか?」
仮にも食い逃げをした犯罪者だが死んだとなっては遺族がどうしているのか気になる。それに、まだ就いたばかりだが葬儀屋の従業員として聞かずにはいられなかった。
「関わりたくないと言っていた。食い逃げについてもそうだが家族としても関わりたくないらしい」
「え!?」
思いもよらない発言に声が漏れる。
「そこんところは仕事上秘密だ。聞きたいだろうが我慢しろ」
いかにも聞きたいとう表情のディオスにアドルフが先回りをして言った。
「……なんだか、かわいそうです」
ディオスは横たわっている男に哀れみの視線を向けて小さく呟いた。
「その感情には同意するがお前が就いている仕事を忘れるな。客を相手にする仕事は客の事情に首を突っ込むものではない。特に今回は突っ込むな」
そんなディオスの言葉にアドルフは警告を発する。
「それじゃモルテ、あとは……」
「必ず明日引き取りに来い」
そんなやり取りを終えるとアドルフは部下二人を連れて店から出た。
「それじゃ、俺も仕事だから」
そう言ってマオクラフもアドルフのあとを追うように早々に店を出た。
店内に残ったのは葬儀屋店長と従業員とお手伝いと酒くさい男だけ。
「ファズマ、その男を頼む」
「はい」
「お、俺も……」
「いいから。一人で大丈夫だ」
モルテの指示にファズマは手助けするディオスを拒み横たわっている酒くさい男を背負い仕事部屋に運んだ。
「まったく、早朝から面倒な……」
酒くさい男が運ばれていくのを見届けるとモルテは数少ない店の窓から外を覗いた。
天気は晴れ。しばらくは天気が崩れる心配がない。そんな様子を見ながら今日の予定をどのように振り分けるか考える。そして、
「ファズマ、ディオスと一緒に外に行け。外の予定を全て任せる」
「はあぁぁ!?」
モルテの言葉に仕事部屋に入っていったファズマがもうスピードで部屋から出てきた。
「待ってください店長!?全てって……」
「そうだ。今すぐに新聞社に行き報告告知、棺の材料、薬品買い付け、クラウディアの所に行って紹介状を下げにもらいに行ってもらう」
「店長、分かります。分かりますが今は無理です」
沢山の予定に目が回りたくなるディオスをよそにファズマが慌ててモルテに意を唱えた。
「何故だ?」
「床の穴を塞がないといけないからです!」
ファズマの言葉に全員があまり気にしていなかった床の穴について言われて短い沈黙が生まれた。
「今でなければならないのか?」
「今やらないでいつやるんだ!……ですか!誰かが来てまた穴に入って転倒したらどうするんてすか!」
「そんなのはあのひょろい警官くらいだろう」
「警官で転ぶなら他の人の方がもっと転びますから!」
モルテのどこか他人事のような発言にファズマが必死になって突っ込みながら説得をする。
「つまり、お前は床の穴を塞ぎたいから昼過ぎに行きたいと?」
「はい。昼食前には終わらせます」
何とか穴を塞ぎたいファズマはようやく本題を言えて内心でホッとしている。
モルテが述べた予定は半日で終わるものだがファズマにしてみれば予定よりも最優先は床の修理であった。
「なるほど。ならば昼食後すぐに二人は予定をすませるように。後にずれ込ませるな。ミクは店番を頼む」
「は~い」
ファズマの意見を一通り聞いたモルテは予定の変更を述べると店の奥へと消え、ミクはモルテの指示通りカウンターの席に座った。
「さてと、さっさと片付けるか。ディオスも手伝え!」
「は、はい!」
ファズマは肩を回しながらディオスに協力を仰ぎ、床の修理へと取り掛かり始めた。




