扉を潜り
遠出するために必要な物を準備するディオス、ファズマ、ミク。
モルテから数日ほど泊まると言うことも聞かされている為に持っていきたい物に加えて下着や着替えも準備する。
最悪忘れたものや必要になるものは取りに来れると言う理由からそれほど持っていかないが、その点に疑問を感じているのはディオスのみ。
そして、ディオスが準備した荷物を見たファズマとミクが一言。
「何でそんなにあるの?」
「山登りでもするつもりか?」
と、散々に言われて落ち込むディオスをファズマが荷物を減らし、ミクが閉店準備と暫く休業する張り紙を貼ってしばらく、全ての準備を終えた頃にモルテが帰って来た。
「店長、お帰りなさい」
「ふむ」
「師匠、遅いよ!」
「説明が延びたのだ。すまんな」
モルテを迎え入れたディオス達。だが、この中で一番泊まりがけの遠出を楽しみにしていたミクが思ったよりも遅い帰還に抗議してモルテが謝った。
「店長、準備出来てます」
「そうか」
ファズマから出掛ける準備を聞いたモルテは最終指示を出した。
「入口は鍵をかけて閉めろ。窓もだ。やり残したことがないなら扉に集まれ」
「はい」
「うん!」
そう言って居住区へ向かったモルテを見送って、ディオスが疑問を口にした。
「出掛けるのに扉に鍵?」
まだ外に出ていないのに今から扉に鍵と何故かけるのか分からない。
そんな疑問に答えたのはファズマであった。
「こっちの扉からは出ねえよ」
「え!?」
「もう一つあんだろ扉が」
ファズマにそう言われてディオスはまさかと顔を引きつる。また常識外のことが起こる予感を感じて。
「ミク、ディオスと一緒に店内の鍵閉め頼む。俺は向こうをやってくる」
「うん」
さっさと鍵閉めをするとファズマはミクに言う居住区にある窓の鍵閉めへと向かった。
「ディオも、ほら!」
「あ、ああ……」
ミクに促されて複雑な心境のままディオスはミクと共に鍵を閉めに回った。
鍵閉めがすぐに終わった三人はモルテを待つ為に異渡り扉の前にいた。
「ファズマ、本当にこの扉から行くの?」
「何躊躇してんだ?ツララもここから現れただろ」
「いや、そうじゃなくて。どうしてここから行かないといけないかってことだよ!」
「決まってんだろ。一日二日で行けねえからだろ」
「それなら長く休みを取ってもいいんじゃ?」
「何言ってんだ。店長が許すと思っているのか?」
「許さないです」
ファズマの言葉にやっぱりとどう足掻いても異渡り扉を潜り何処かへ行くことは確定なのだとディオスは肩を落とした。
「ねえ、ディオは扉潜りたくないの?」
「いや……そう、かな?何処に行くか分からないしこの先に何があるか分からないのが」
ミクがディオスの今までの様子から聞いてきたことに素直に答える。
遠くへあっという間に目的地へついてしまう扉。行き先が分からないだけではなく、もしも自分だけ離れ離れの場所に出てしまったらどうしようかという恐怖心もある。
「ふ~ん。そうなんだ」
「そう言うのはなくぐってみりゃ分かるもんだ」
「うん!それにね、どこに行くかすっごく楽しみだよ!」
ディオスの本音に行き当たりばったりのことを言うファズマとジャンプをして楽しみをアピールするミクにディオスはこの二人は経験者であるのだと確信して、色々と心配していた自分が馬鹿らしくなった。
「終ったか」
「店長!」
すると、荷物を持ったモルテが自室から出て来た。
「師匠!どこに行くの?」
「それは言ってからの楽しみだ」
ミクの言葉にもったいぶって、モルテは異渡り扉のドアノブを握ると、この手にありがちな呪文や目的地を言うことなく呆気なく扉を開けた。
「これは?」
初めて全開放された異渡り扉の向こうは何も見えずディオスが声を漏らした。
「空間の境目だ。本来別の場所に常時繋げるというものは空間が捻れ安定させるのに苦労する。だが、扉と扉を繋げることで捻れをなくし境目が生まれる。本来扉とは空間を隔てるものだからな」
「はあ……」
扉の意味が分かるディオスはそこに加えられた空間を繋げるという現象に一応頷いた。
「ふ、理解はそれほどしていないが記憶したと言うところか」
モルテに見破られてディオスは視線を反らした。
「師匠~!」
「分かった。行くぞ」
「うん!」
ミクが気を切らせて喚いたのを切っ掛けに話は終わりとなり、モルテの言葉にミクが一番に異渡り扉に飛び込んだ。
その躊躇ない様子にディオスは惚けていると、
「さっさと行け」
「え!?ファズマ、押さないでくれ!」
背後を押されて戸惑うディオス、次いでファズマが異渡り扉をくぐる。
最後にモルテがくぐると、異渡り扉は静かに扉を閉めた。
◆
扉から出るとまず目に入ったのは白い壁。そして周りを見てどこかの家の廊下であった。
「あの……」
ディオスは扉から出て来たモルテに視線を向けた。
出て来たところが人の家の中である。しかも勝手に上がり込んでいるし、目的地間違えていないかと心配を向ける。
だが、モルテはそれに気づかずに叫んだ。
「クロエいるか?」
予想外の行動に心臓の鼓動が高くなるのをディオスは感じた。
それに追い討ちをかけるように少し離れた場所の扉が開いて一人の男が現れた。
「クロエさんならキャシミアンにいますよ」
男は全く慌てた様子がなくモルテが叫んだ人物がどこにいるのか教えた。
「そうか。もう越したのか」
「はい。ああ、俺は新しくここに住むことになったソロン・クリサフィス・デッド。元流です」
「なるほど。住むことになったのはマックスに頼まれたからか」
「はい。ちょうど腰を据える場所を探していたのでちょうどいいかと」
「二人にとってだな」
「全くです。あなたのことは聞いています。お会いできて光栄ですモルテさん」
ソロンから握手を求められたモルテはその手を握りしめた。
その様子を見ていたディオスは小声でファズマに尋ねた。
「ファズマ、店長って有名なの?」
「ああ。どうやら店長、相当有名人っぽくてな。流の時に色々やったからじゃねえかって思っている」
ファズマもモルテに敬意する死神の理由は分からないが予想を口にする。
「それでモルテさん、そちらの三人は弟子ですか?」
「二人はな。もう一人は店の従業員だ」
「ファズマ・ジーア。店長の弟子だ」
「ミクです!同じく師匠の弟子です!」
「ディオス・エンツォ=レオーネです」
ソロンの言葉を切っ掛けに三人が自己紹介をした。
「初めまして。そして、ようこそ」
そう言って歓迎を口にしたソロン。
「ねえ師匠、ここってどこなの?」
「それは外に出てみたら分かるよ」
「本当?師匠、外行ってもいい?」
「ふむ。出ると驚くだろう。ファズマとディオスも出てみるといい」
「外はあっちだから」
モルテから許可が降りたミクはその場でジャンプした。
「本当?やった!」
「あ、ミク!?」
「たく、待てよおい!」
そのままソロンが指差した方へダッシュするミクをディオスとファズマが慌てて追うが、内心では外がどんな場所なのかと楽しみでいた。




