強奪戦
8章となります。
この日、モルテは自室で険しい顔つきをして手に持っている物を見ていた。
険しい顔つきの理由は今朝に文箱に入っていた手紙である。
モルテが持つ文箱は普通の文箱ではない。死神道具の一つである渡りの伝達文箱と呼ばれる箱である。
渡りの伝達文箱に差出人と届けたい者の名前を書いて入れるとすぐに届けたい者が持っている渡りの伝達文箱に届くという物である。
手紙を開いて中身をを見たモルテはそこに書かれている内容に険しい顔つきのまま溜め息をついた。
「どうやら向こうの状況も変わっているようだな」
怪火の一件があった為に手が離せず手紙のやり取りで状況を聞いていたが、どうやら無視出来る状況でなくなったことを悟る。
「予定を変更するか」
怪火の一件の反省を踏まえたモルテはそう言うと店内へと向かった。
* * *
「あつい……」
「あついよ~!」
店内ではディオスとミクが暑さにだらけきっていた。
「アシュミストが夏になるとこんなに暑くなるなんて……去年も思ったけど暑すぎるよ……」
店内の窓全てを開けているのに全く涼しくならない店内にディオスがぼやく。
「いつもこんな感じだよ」
「初夏……は終わってるか?」
「もう少しするともっと暑いよ」
「うわぁ~……」
去年体感した筈なのに改めて聞かされると嫌になると呻く。
「……ねえ、ディオはアシュミストの夏の様子知らないの?」
「夏は避暑地で過ごしてたからね。初めてアシュミストで夏を過ごした時は暑すぎて驚いたよ……」
ディオスの言葉にミクは羨ましいと視線を向ける。
元々は財閥であったディオスは初夏になり始めた頃になると避暑地で数ヵ月別荘で過ごしてた。今は借金返済の為に売り払い今は別の人の物となっており、初めてアシュミストで夏を過ごした時はその暑さに驚くと共に軽度の熱中症に悩まされたものである。
「でも、ランバンやクシュランエラからしたらアシュミストって避暑地みたいなものなんだよね」
「そうなの?」
「ああ。アシュミストから少し離れた所にランバンやクシュランエラの別荘地があるんだけど、どうしてこんなに暑いのに涼しいって思うのか分からないよ」
「ん~、ディオも分からないなら分からないよ」
考えても答えが出ないと暑さもあって思考を停止させる。
アシュミストがシュミランの首都であるランバンや古都クシュランエラから避暑地とされている理由は街がある場所に理由がある。
アシュミストは二都市から見ると北東にあり、周りを山と河に囲まれている。山からは風が吹き、河が温度を下げる為に南よりも温度が低いのである。
その為に涼しいことと五大都市の一つで物流に問題がないことでアシュミストが避暑地として人気なのである。
最も、これはアシュミストから南に住む人達の思いであり、住んでいる地元住人からしたらそんなことはないと言いたいことである。財閥時代にディオスがアシュミストよりもさらに北にある町で夏を過ごしていたことから分かる通り、アシュミストの夏はいくら二都市から見たら北であってもアシュミストに住まう物達にしたらそんなの変わらないのではないかと言うくらいに暑いのである。
あまりの暑さにカウンターにへばり付くミクは何かを思い出してディオスに言った。
「ファズ遅いね?」
「ああ。もう片付け終わってるはずだけど……」
そう言って、ディオスとミクは何かに気がついて顔を会わせた。
朝食の片付けをしているファズマがいくらなんでも遅すぎる。店内の掃除は終わり店番をして大分経つのに一向に店内に来ない。
来ない理由は分かっているとばかりにディオスとミクは急いで店の奥、リビングへと向かった。
リビングではファズマもだらけていた。
「あ~涼しい~」
外の暑さとはかけ離れた涼んだリビングで。
「ファズマ!」
「ファズ!」
そこに邪魔をするようにディオスとミクが駆け込んで来た。
「やっぱりエアコンかかってる!」
「ファズひどい!ずるい!あたしとディオ我慢して店番してるのに一人だけ涼しい所にいて!」
「待ておい!今さっき片付け終わったばかりだぞ!」
「嘘だ!もう朝食から大分経ってる!」
「ファズ交代!あたし達と交代ー!!」
「待ておい!」
涼しい風がエアコンから吹いている部屋でディオスとミクがファズマに文句を言いながら店番をしろと追い回す。
そもそも、エアコンはアシュミストのどこを探しても葬儀屋フネーラにしかない。
何故エアコンがあるかと言うと、初めてアシュミストを訪れた道具屋が、
「暑すぎる!クーラーないのか!?」
と言ったのが切っ掛け。
モルテの反対を押しきり冷暖房込みのエアコンを店舗、今現在取り壊し中の旧店舗に取り付け、今の店舗にも取り付けられている。それにあわせて屋根にはソーラーパネルが取り付けら、周りに配慮して色々とやらかして設置した。
もっとも、モルテの反対とインテリアの暖炉の兼ね合いからエアコンはリビングに一つのみと自重をしている。
反対していたモルテだが、それでも設置されてからはワイシャツ一枚にアイスコーヒーを飲んでくつろいでいることもあることからどれだけエアコンの有無で違うかは見て分かる通りである。
今では涼みたいならリビングと葬儀屋フネーラの夏の様子となっており、度々従業員が店番中の暑さで限界に達して交代して涼もうとあの手この手を使っている。
二階から降りて来たモルテがその様子を見たのはちょうどその時。
「見苦しいぞ!」
叫ぶは追いかけるは見ていて恥ずかしいとモルテはテーブルに置かれていたエアコンのスイッチを切った。
「あ~~~!!」
「あ~~~!!」
「店長~~~!!」
エアコンのリモコンのスイッチを切られて涼しい風が吹かなくなっただけでなくリモコンを没収されたことで醜い争いをしていた三人が悲鳴を上げた。
「全く、暑いのなら暑さ対策くらいしろ!」
「ムリ!」
「無理なはずあるか!」
ああ言えばこう言うとミクの怯みない言葉にモルテは突っ込むと、まだ恨めしそうにしている三人に降りて来た目的を言う。
「三人とも、今すぐに出掛ける準備をしろ」
「え?」
「は?」
「どうして?」
「予定が変わったのだ。私はこれからレナードに知らせに行く。私が戻るまでに準備と店を閉めておくように」
驚くと三人をよそにモルテは言うだけ言うと出て行った。
残された三人はどうしようかと顔を合わせた。
「どうする?」
「どうするったってな、言われたらやるしかねえだろ」
まだ涼しさが残る部屋で仕方ないだろうとファズマが言う。
「出掛けるってあれだよね?店長が言ってた」
「だろうな。予定していたよりも早いっのが気になるがそれだろうな」
昨晩に突然モルテから数日ほど店を閉めて全員で遠出をすることを聞かされていたからそれほど慌ててはいないが、昨日言って今日、しかも予定していたよりも一日早いということに準備をろくにしていない三人は別の意味で戸惑っていた。
「とりあえず、足りねえ物は取りに来れるから必要最低限でいいはずだ」
「え……?」
取りに来れると言う言葉にそれは遠出する意味があるのかと疑問を感じて目を丸くするディオスをよそにファズマがミクに指示を出した。
「ミクは一人で準備出来るか?」
「うん!」
「それじゃさっさと準備して店閉めるぞ」
「うん。師匠驚かせるんだから!」
そう言って二階の自室へと向かうミクを見送った。
「俺らも準備するぞ」
「あ、うん」
ファズマに促されるままディオスも外出準備の為に二階の自室へと向かった。




