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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
245/854

再設置

 翌日。葬儀屋フネーラでモルテがある作業を始めようとしていた。

「ここでいいな」

 住居区で場所の選定をすると手にしている物を手のひらの中で遊ばせる。

「モルテ、決まった?」

「ああ。やはりここしかなくてな」

 場所の選定が決まったのだとつららがモルテに尋ねながら階段を上がって来た。

 モルテがいるのは住居区二階。階段を上がるとすぐ目の前に見える壁の近くにいた。


「あれ?師匠?」

「店長、何やってんですか?」

 そこにファズマとミクが階段で話し込んでいるモルテとつららに気がついて一階から声をかけた。

 何故ミクがいるのか説明をするなら、昨日で学園行事が全て終わったことで長い休みに入ったからである。

 長い休みの間は用事がない以外はミクに今まで通り店番を頼んでいる。


「設置だ」

「設置……もしかして」

「せっかくだ。ディオスも呼べ。今は客が来ないからな」

「うん」

 何かを悟ったファズマとミクはモルテに言われて急いで店内からディオスを連れて来た。

「店長、何ですか?」

 店に客がいないとはいえ、無理矢理ファズマとミクに二階まで連れて来られたディオスは理由が分からず戸惑う。

「ふむ、面白いものを見せようと思ってな」

「面白いもの、ですか……」

 モルテの言葉にディオスは直感で嫌な予感を感じた。

「ふむ。異渡り扉の設置だ」

「設置、ですか?」

「そろそろここに設置をしなければならなくてな」

 旧店舗から異渡り扉を移すのは道具屋が備品を回収してからいつでも出来たはずなのだが、扉の存在を知らないフーゴがいるために設置を今日行うこととなったのだ。


 ちなみに、旧店舗は備品が全て取り除かれた数日後にアシュミストの大工達が建て替えの為に解体を行っている。

 元々築年数が長く色々とガタが来ていた旧店舗はリフォームをするには今の技術では難しい所まで来ていた為に解体をしなければ建築出来ないとして今日までに全て取り除かれて更地となっている。



 旧店舗に取り付けられていた異渡り扉をどうやって外して再設置するか分からないがとても楽しみなのだろう。

 そんな思いが全面に出ているミクが明るい笑みで言った。

「あたし扉着けるところ見るの初めて!」

「いや、扉ってそもそも空間と空間を仕切るものだから、壁に着けるのものじゃないから!」

 ミクの扉の概念の違いにディオスが慌てて訂正を含めて突っ込んだ。

「さて、設置するぞ」

 そう言ってモルテは旧店舗から持ってきた異渡り扉のドアノブを壁に着けた。するとドアノブは跡形もなく壁に吸い込まれた。

「ええぇぇ!?」

 予想外の現象にディオスの驚く悲鳴が響いた。

 しかし、そこから更に壁の一部が捻れたかと思うと、旧店舗に設置されていたものと同じ異渡り扉がそこから現れて設置された。

「店長、これ……」

「すごーい!!」

 何事もなかったかのようにある異渡り扉にディオスは呆然、ミクは一連の出来事に感動していた。

「死神道具だからな」

「簡単に終わりましたね……」

「道具たからだ。道具なしでやると色々と面倒なのだよ」

「そうなんですか……」

 扉出現の現象にそう言うことかと理解したディオス。やはりとんでもなかったと思ってしまう。

「さて、これで設置は終わりだ」

 扉を凝視して安定したのを見て設置終了を告げたモルテ。

 その直後、異渡り扉が控えめに開かれた。

「え?」

「え?」

 突然のことにディオスとミクが驚いて小さく声を上げた。


 異渡り扉から出てきたのは小柄な少女。しかも、つららと同じ黒髪に似た服装である。

「小春か」

「あ、モルテはん、おひさしゅうどす」

 小春と呼ばれた少女はモルテに気がつくと深々とお辞儀をした。

「すんまへんがつら姉ウチにいますか?」

「それならそこにいる」

 小春からの問いかけにモルテはその場を静かに逃げようとしていたつららを指差した。

 それを見た小春は険しい顔つきになるとつららに近づいた。

「つら姉!」

「こ、小春!?どうしたん?」

「勝手に抜け出して今の今まで何やっとったの!」

「そ、そらね……」

「つら姉、多目に見とったけどなんぼ何でも一月は長い!一体こっちで一月何やっとったのよ!」

「そら、色々とね……」

「色々って何?色々って?どうせ恋したいって愚痴ったんではおまへんん?」

「愚痴ってへん!さすがに今回は愚痴る暇なんてなかったんそやし!」

「そやし愚痴ばっかり言うから恋なんて身のれへんの!恋したいなら宗頼はんがええでしょう!」

「余計なお世話よ!」

 葬儀屋フネーラの住人を置いといて盛大に追求と抵抗をするつららと小春。


「えっと……」

 その様子にディオスがファズマに助けを求めた。

「何言ってるの?」

「知るか」

 芳籃独特(正確には桜花鈍り)の話し方と発音(アクセント)が聞き取れずに何を言っているのか分からない。

「しかも、扉は開かないしでどれだけウチがここに来てほしくなかったん?」

「それにも理由があるから落ち着こうよ。な?」

「落ち着けるわけへんでしょう!ウチを一人にさせてずっと休んでたつら姉に言われたくない!」

「そやし、今回はそないな暇なんてなかったの!」

 つららの言い訳を無視して小春は再びモルテに深々とお辞儀をした。

「つら姉がまたごやくたいをおかけしたようで、すんまへん」

「気にするな。今回はこちらの事情で随分と助けてもらった」

「そう言うて頂けるとさいわいどす」

 そう言って小春はお辞儀をした体制のままつららを睨み付けた。

「帰るよつら姉!」

「嫌よ!」

「嫌ではおまへん!一月も留守にするのはどうかと思うんそやけども?」

「そうそやけども」

 小春の引く気のない覇気に渋るつらら。


 そんな小春に背を押すものがいた。

「ほら、ツララの荷物。適当にまとめといたからな」

「ちょっ、ファズマ君!?」

「おおきに」

 まさかのファズマの裏切りに驚くつらら。

 小春はファズマからつららの荷物を受け取ると勝ち誇った表情を浮かべた。

「それじゃ帰るよつら姉。お世話になってました」

 そう言って小春はつららの着物の裾を掴むとモルテにお辞儀をすると異渡り扉を潜った。

 小春に着物わ引っ張られているつららは強く抵抗出来ずにモルテに助けを求めた。

「モルテ!助けてよ!」

「私が芳籃の言葉を知るわけなかろう」

「嘘言うなモルテぇぇ……」

 救いは通じず、しかも桜花鈍りで見捨てられたつららは捨て台詞を吐くが異渡り扉を潜り終えた直後に扉が閉まった為に全て届くことがなかった。


 閉じた扉を前にモルテは腕を組んで呟いた。

「冗談で言ったのだがな」

「冗談だったんですか!?」

 冗談と言うよりも嘘に近い捨て台詞に驚いたディオスが突っ込んだ。

「店長だからな。何言ってたのか分かってんだよ」

「師匠だからね」

 モルテなら分かって当然とディオスに追い討ちをかけるファズマとミク。

 ディオスとしては追求をするつもりなどなかったのだがファズマとミクの言葉に精神的疲れが生じる。

「設置は終わったのだ。ファズマはつららが使っていた部屋の掃除を頼む。ミクとディオスは店番に戻れ」

「は、はい!」

「はい」

「は~い!」

 モルテの指示に三人は返事をするとすぐに行動を起こした。


 突然訪れた嵐は跡形もなく消え去ったが同時に新たな風を吹き入れたのであった。

閑話を入れて6章は終わりとなります。

いくらなんでも6章は長すぎた……

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