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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
244/854

ありがとう

 それから死神達は今回の事件における己の不甲斐なさに後悔と自虐を述べていくこととなった。

 いくら後手に回ったとか生霊(リッチ)我慢(リミッター)を壊したとか二重の幻影者(ドッペルゲンガー)の突然の登場などと言うどう引いたとしても己が悪い、対応が間違っていたとどんどん出てくる始末。

 止めるタイミングを見失い弟子組とディオスとクロスビーは呆然としてしまうが、ミクが……

「やるんだったら別の場所でやって!」

 と、子供特有の気の短さとはっきりと言う様子に場の空気に亀裂が入った。

 これにより自虐的となっていた死神達が目を覚まさせたかのように話を中断。後日改めて反省会をやるとしてこの場はお開きとなった。

 もっとも、集まった目的は騒動の情報共有で短い時間だけでもと無理矢理時間を作ったのだ。それが話の流れで反省会まで入ってしまえば夜が明けるまで続けてしまいそうであったからミクの言葉はある意味にこの場にいる全員にとってありがたかったのである。



  ◆



 それから三週間後。季節は初夏直前。

 葬儀屋フネーラでは一つの別れを迎えていた。

「お世話になりました」

 そう言ってフーゴは世話になったモルテ達に一礼した。

 フーゴが母方の家へ引き取られる為にアシュミストを離れることとなった。



 事は五日前。

 この頃には火災の騒動もある程度落ち着き、葬儀屋フネーラも殆どの葬式を終えた頃にフーゴの母方、つまりマミューの家族が突然訪れたのだ。

 マミューの家族には火災が起きた四日後に手紙を送っている。

 マミューとスカロウが亡くなったことによりフーゴが一人取り残されたこと。その為に引き取れないかと言う手紙を統治議会の役所が出していた。スカロウの肉親は弟のサマエトのみであり、同じくユギエルの犠牲になってしまったために母方に白羽の矢がたったのでたる。

 知らせを受ける間のフーゴの預かりをモルテが手続きをしたことでそのまま預かることとなった。

 手紙の返事が早ければ二週間後当たりと検討をしていたのだが、まさか連絡もなく母方がわざわざアシュミストへ訪れてフーゴを引き取ると言うとは誰も思っていなかった。

 そもそも、訪れるのなら手紙で知らせろとも思ってしまう。

「そう言えば、フーゴ君のお父さんの弟さんも連絡しないで訪れたんですよね?」

 と、アドルフから聞かされていたサマエトの足取りを思い出して言ったディオスの言葉に聞いた者は、「アマーベルの人はせっかちなのか?」と言う印象を与えたのである。

 実際にせっかちかどうかは人それぞれであり、フーゴの母方の家族の行動について説明をするなら、手紙を受け取った時にフーゴが心配だから急いで訪れたのである。手紙の返事を書かないあたりせっかちと言うよりも慌ててと言った方がしっくりくる。


 それが原因である為に手続きに大きな時間を割くこととなり宿を全く決めていなかった母方家族はモルテが紹介した宿にしばらく泊まることとなった。

 フーゴが葬儀屋フネーラにいるのに何故宿と思うだろう。

 理由は葬儀屋フネーラの客室が既に埋まっていることとアシュミストにおけるフーゴの用事がまだ残ってあるからである。

 フーゴが泊まっている部屋にベッドを増やすことが出来ず、学校行事もまだ終わっていない。

 その迷惑にならないようにと母方家族は気遣ったのである。


 フーゴは突然の引き取りの話に葛藤しなかった訳ではない。

 フーゴにとってアシュミストで過ごしていた記憶の方が多く、アマーベルの記憶が少ないためにどのようなところなのかと思いながらも、やはり母親の家族がいるアマーベルへ行くべきか施設に入ってでもアシュミストにいるべきか悩んでいた。

 そんな時にディオスが、

「いつまでも大切だって思って心配もしてくれる人の近くにいるのが一番いいよ」

 とアマーベル行きを押したのだ。

 葬儀屋フネーラで過ごす内にフーゴはディオスになついていた。だからディオスに裏切られた気持ちが少しだけあった。

 けれども、同時に自分のことを思っていることも感じられた。

 母親が自殺したと聞かされた時は自分も死にたいと思った。けれどもディオスはそれを止めて今でもよく分かっていない話をした。分からないのにあれを聞いてから何故か死んではいけない気がした。それはまるで姉であるカリーナがよく話していたこと、人の幸せを願うかのようにとにかく優しいというディオスの印象を。

 だからフーゴはディオスの優しさに従い素直にその意見に聞き入れた。


 それからは引っ越しの準備や学校行事を終えたことでフーゴはアシュミストでやること全てを終えたのである。



「手紙書きます!だから、絶対に読んでください!」

「分かったよ……」

 ものすごく強い視線で見るフーゴにディオスはたじたじとなっていた。

「それより、もうそろそろ行かないと出発間に合わないよ」

「……その方がいいかな」

「ダメだから」

 フーゴの冗談に突っ込むディオス。途端に二人は笑いだした。

 約一ヶ月を一緒に過ごした二人の仲はかなり深くなっていた。

「元気で」

「はい」

 母方家族に促されてフーゴはディオスに別れを告げて歩き出した。新たに足を下ろす地へ向けて。



「寂しいか?」

「……少しだけですが」

 モルテの質問にディオスは素直に答えた。

「ディオス君にすごくなついてたものね、フーゴ君」

「そんな、犬猫みたいな……」

「いや、あれはペットだな。ディオスの後ろ付いて歩いてたからな」

「うん」

「え~……」

 フーゴの印象を聞かされたディオスはそれはないだろうとどうしようもない悲鳴を上げた。

「さあ、店を開けるぞ」

「モルテ、早いよ!」

 お別れは済んだとばかりにモルテが開店を宣言。それに突っ込むつららにディオス、ファズマは苦笑いをして、ミクがモルテの後を追った。


(手紙?)

 ふと、ディオスはフーゴが葬儀屋フネーラに訪れるきっかけとなった手紙を思い出した。

 結局あの一文の意味が分からなかったのだが、突然もしかしてと思い当たった。


 いつかは覚えていない。けれども、同い年くらいの女の子が困っていたようだから声をかけたことがある。

 あの時はただの親切からである。けれども、その女の子がもしかしたら……


「何だディオス、笑ってるぞ?」

「え!?」

 物思いに浸っているとファズマが怪訝な顔をして覗き込んでいた。

「何も」

「いや、絶対に笑ってたぞ」

「そんなわけないじゃないか!」

 ファズマに捕まると面倒だからと急いでその場をディオスは離れた。

 手紙に書かれていた一文が本当に感謝だけしか込められていないのだと心にしまいこんで。

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