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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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価値観の違い

話が重いかもしれません

「勝手か……」

 マミューの死を聞かされたショックで落ち着いていないフーゴともう寝る時間だからとミクを寝かすために部屋へと連れて行きそのまま休むことにしたディオス達がいなくなったリビングでファズマがポツリと呟いた。

「どうしたのファズマ君?」

「何でディオスはフーゴに自殺が勝手と言ったんだろうと思ってな」

 ファズマにはディオスの考えていることが理解出来ないでいた。


 ファズマにとって死を選ぶのは最後の選択しでしかない。

 縄張り争いを仲裁するために命を差し出すとことはある。この場合の命の差し出しは本当に死ぬことではなく存在を渡すと言うこと。命を軽視しても雑に扱うことをしてはならないと言うのがスラム街の暗黙である。だから、

「自殺、つうか死ぬってのは最後の手段だ。それを手段の一つにしか見ていないってのがな……」

「それを行える勝手(理由)が分からないか」

 ファズマの疑問を理解したモルテが真剣な表情を浮かべて腕組みをした。

「自殺をする者にとって最後の手段に見てしまうのだろう。それが最も簡単な抜け道である故に」

 死ぬことは覚悟があれば簡単に出来てしまうだけにファズマの表情が歪む。

「モルテ、やっぱりそれって辛いから?」

「そうかもしれんな。だが、それで死を選ぶのとは別問題だ」

「別問題?辛いのに?」

「私が言うのは心情や理由ではなく目的だ」

「目的?……疑心暗鬼」

「疑心暗鬼とは少し違う。そうだな……己の世界に入っている、好奇心とでも言うか?」

「好奇心に?」

「ああ。だが、好奇心もまた違うな」

「もう、どっち!」

 モルテにしては珍しいあやふやな解答にどっちが正しいのだと急かすつらら。そんなつららにモルテが静かに指差した。

「それだ」

「え?」

 突然問う体制をとったモルテにつららは目を丸くした。


 つららの思考が追い付いていないままモルテは問うた。

「つららは疑心暗鬼か好奇心かどちらかを選んで欲しいと思っているだろう?」

「そりゃそうね」

「では、どちらが死を選ぶ目的に近いと思う?」

「選んで欲しいって思ってるあたしがモルテに聞かれるって……」

「どうなのだ?」

 心に思っていることを逆に尋ねられたつららは不満な表情を浮かべたが、既に決まっていると答えた。

「あたしはさっきも言ったけど疑心暗鬼よ」

「そうか。ファズマはどうだ?」

「俺?」

「疑心暗鬼か好奇心か。ないなら別のものでもいい」

「モルテ、それなしぃ!?」

 まさかのファズマに第三の選択しを選ばせると言う言葉に二選しか与えられなかったつららがモルテに文句を言う。

 ファズマは選択しが自分でも作れるということに少し考えてから言った。

「命の駆け引き……」

「え?」

 何ともおっかない答えにつららの間の抜けた声が響いた。

「自分の首の皮が繋がるか切れるかの駆け引きだな」

「それ理由じゃないよね?」

「ファズマが言うのは命の損失を問わない人質のことだ」

「人質って……」

 ただでさえおっかないのに口を開けば物騒なことなのにどうしてはっきりと言えるのか分からない。


「人質には二つの理由がある。己が助かることと相手に威圧をかけ従わせることだ」

「でもモルテ、人質には過激なのもいるよ?」

 モルテの言葉にそれだけではないないだろうと尋ねる。

 いつの世も自分の意見や主張を通そうと人質を取り立てこもって交渉に引きずり出そうとする輩がいる。そう言った中には少なからず人質を殺める者もいる。

 そう言った者達はと言う質問にモルテは首を横に振った。

「殺す目的としているのなら人質という行為に当てはまらない。そもそも本来ある目的を大きく踏み外している。人質とは本来己が助かる為に威圧をかける手段だ。殺しに踏み出す前提における人質というものはない」

「殺しはどんな理由があっても殺し。モルテはよく言うよね」

 殺しに基準がないと言うのがモルテの価値観であるとつららは少しだけその思想を恐く思った。


「さて、話が大分ズレたな」

「モルテ、思ったんだけど今までで言ったのって目的ってよりも理由に近いよね?」

「気づいたか」

「……モルテ?」

 まさか試していたのかとつららが恨めしそうに睨むがモルテは涼しい顔をしている。

「つららが言った通りだ。目的は何かをなす為の手段でしかない。死を選ぶののは目的ではなく理由である。そして、命を落とす順位も違う」

 ここでまさかの順位と聞かされたファズマとつららは意表を突く形となり驚いた。特にファズマは驚きを越えて動揺していると言っていい。

「……モルテ、その理由を聞いてもいい?」

 殺しに基準がないモルテが死に順位と言うことにつららが怪訝な表情をして尋ねる。

「死を抱く概念が違うのだよ。身近にあるかないかで重要性が違う。その重要性の意味する物により死は重くもなれば軽くもなり千差万別となる。故に死による境界があやふやとなり確立させたがる」

「だから順位がある、ね」

 道徳的、哲学的とでも言うか、あまりにも重たい話につららは深く深呼吸をした。

「誰もが持つ死の概念全てを否定しているわけではない。元は命に色はなく重さも同じ。そこに様々な要因が生まれることで命は変わるものだからな」

「店長、それフォローになってません」

 モルテの言葉が恐らく自分に向けられたものなのだと思ったファズマは微妙に抱いているものとは違うことに呟いた。


「それで、ディオス君が言ってた勝手は?」

 話がすっかりそれてしまったが初めはディオスが言った勝手についての話をつららが修正した。

「誰も救われないことだ。自分は命を絶ち、残されたものは辛いだけ。誰にとってもいいことがない」

「……ディオス君らしいわね」

 ディオスの優しさが感じられる勝手(理由)の解釈につららは呟いた。


「それにしても、少し変わったかと思ったが全然変わってなかったな」

「え?」

 突然ディオスの意味分からないことを言い出したファズマにつららが呆けた声を上げた。

「ディオスだったら勝手とか言わないと思ったんだ。今までなら勝手なこと言うなととか意味あることにしようとしていたはずだからな」

「そうなの?」

「そうだな」

 ディオスをそのように認識しているファズマの言葉に付き合いがが浅いつららは首を傾げ、付き合いが長いモルテは頷いた。

「だが、ディオスの本質である優しさは変わっていない。私はむしろ勝手を口に言えるほど許せる優しさを持ったのだと思うのだが?」

「勝手に意味全部突っ込んでいるくらいですからね」

「違いない」

 今回の一連はまだ終わっていないがディオスに少なくない価値観の違いを与えたことだろうとモルテは今までの話から推測するのであった。



 翌朝、フーゴが寝付けないからと寝るまで待っていたディオスが椅子に座ったまま寝落ちをしてしまい体を痛めて嘆く様子に全員が呆れるのであった。

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