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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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大仕事の準備

 葬儀屋フネーラに戻ったのは日付がとっくに過ぎていて夜が明けようとしていた頃であった。

 モルテの指示でディオスとファズマは自室に入り就寝。そして、

「起きろー!!」

 起床時間が過ぎてしまったことでミクに叩き起こされたのである。


  * * *


 まだ眠いとリビングのテーブルに顔を伏せるディオスであるが眠いから寝かせてくださいと言う我が儘が言えない状況である。

 何故なら、早朝から電話がなりっぱなしであるからだ。

「また電話かよ……」

 電話がまた鳴り、リビングでファズマが毒づくとそのまま電話がある店内へと向かった。

 ファズマの足取りに同じ時間に戻って同じ時間に休みに入った筈なのにどうして眠たい表情を浮かべずに足取りが軽いのかと疑問に思い、眠いとまた顔を伏せる。

「眠そうねディオス君」

「大丈夫ですか?」

 ディオスの様子につららとフーゴが心配して尋ねるが反応のなさに心配が積み上がる。

(ディオス君には厳しかったなかな?)

 日付が変わってからも倉庫街で避難誘導をしたり二重の幻影者(ドッペルゲンガー)に襲われたりと死神の弟子ではないディオスには精神的にも体力的にも厳しかったかのだろうと様子を見てつららが思う。死神や死神の弟子なら最悪これで少し疲れた程度である。

「ディオスさん何かしてたんですか?」

「ふむ、昨晩に急用が入ってな。それで無理をさせたことで帰って来たのが明朝だったから眠いのだ」

「夜に……?気づかなかったです……」

 ディオスが眠たい様子がそう言うことかと納得するフーゴである。

 モルテはミクに目線を移し、笑顔を浮かべる表情からどうやら上手くやったのだと悟る。その内に隠している不満を見てみぬ振りをして。


「モルテ、やっぱりディオス君働かせるの?」

「ふむ、店が開く時間までは休ませるがそれ以外では不可能だ。朝からあれだけ連絡が来ているのだ。本当は今から動かなければ休むことなど出来んからな」

「そう言うけど、本当は朝ごはんが食べたいからなのよね?」

「朝は1日の源だ!抜かすなどあり得んだろう!」

 そう言って朝食のサンドイッチを食べるモルテ。

 そう、6人は朝食の最中であったのだ。

 メニューは大量のサンドイッチと卵のスープのみで葬儀屋フネーラにしてみたら簡素である。

 理由は倉庫街で起きた火災の仕事が大量に入って来ることを見据えてとにかく素早く出来て素早く食べられ満腹になるものと丸一日寝ていないモルテが作り上げ、見事に朝から仕事の電話が鳴り響くこととなった。

 ちなみに、葬儀屋フネーラの朝食が簡素と言うが、本来一般的な家庭ではパンとスープもしくは飲み物だけが多く、これにサラダやおかずがついたら豪華な朝食なのである。

 ゆえに、フーゴはサンドイッチの量以外は驚いておらず、ディオスの話から大量の朝食を期待半分恐怖半分でいたために忙しいからこれだけと言う本日の朝食に少しだけ拍子抜けだったりする。


 眠気がまだあるディオスを置いといて黙々とサンドイッチを食べているとようやくファズマがリビングへと戻って来た。

「やっと戻ってこれた……」

 リビングを出てから三回も電話が鳴っていた為に対応が長引いてしまったファズマは椅子に座りながらモルテに報告した。

「店長、2ヶ所の病院から引き取りの連絡がありました」

「そうか」

 一応フーゴがいるから言葉を濁して伝える。

「それとミク、フーゴ。お前ら今日は休みだ」

「え?」

「何が?」

「火事の影響で学校も学園も休みだ。学園からは連絡来たし、学校は連絡して聞いたから確かだ」

 火事の影響は徐々に広まっており、それゆえの処置とファズマは見ている。

「お休みなの?それじゃお店のお手伝いする!」

 学園が休みと聞かされたミクはやったと言わんばかりの喜び様である。

 逆にフーゴは戸惑っていた。母親であるマミューが見つかるまでの間だけ葬儀屋フネーラに無理矢理泊まり込むことを決められた為に急いで衣服と学校の道具を持ってきていたのだが、まさか初っぱなから休みとなると思っておらず、しかも大量の仕事が入って来るとなると自分がここにいては迷惑でないかと戸惑い小さくなっている。

「フーゴはミクと共に手伝いを頼めるか?」

「え?」

「どうせ公共機関も交通も停止している。家へ戻るとなると苦労し、一人では出来ることが限られるぞ。そう言う者を私は見捨てる気などないぞ」

「はい……」

 何となく邪魔になるから家へ帰ろうかと考えていた考えをモルテに見抜かれてフーゴはまた小さくなった。

「でも、手伝いって何を?」

「店番に掃除に茶請けなどそちらに回せんからな。それをミクと共に頼む」

「は、はあ……」

 要するに人手不足になるから手伝えと言うモルテの言葉にフーゴはミクを見た。

「よろしく……」

「うん!分からないことがあったら聞いてね!」

 すっかり仲良くなっている二人である。

「やることがないのならやることを見つけろ。ただ邪魔だからと離れるのではなく出来ることをやらなければそれこそ邪魔になるだけだ」

 最後にフーゴがやろうとしていたことを否定して自分から動くことを促した。


「モルテ、あたしは?」

「つららはレオナルドの所に行ってくれ。ガイウスの元にアリアーナが手助け(ヘルプ)として行くらしい。向こうの店番を頼む」

「分かったよ」

 アシュミストの葬儀屋が遺体の引き取りで往復するのが分かっている為の配置である。

「それと……」

 そうして、モルテはテーブルに顔を伏せて眠ってしまっているディオスを見て溜め息をついた。

「ファズマ、ディオスを部屋に連れて行け」

「はい」

 このまま寝ていてはいつかの体が痛いと言われては困ることと朝食の席で寝るなという思いからファズマに運ぶように指示を出す。

 ファズマに抱えられているのに全く気づかずに寝て運ばれて行くディオスの様子にフーゴは思った。

「葬儀屋さんって大変な仕事なんですね」

 誤解しているフーゴにつららが苦笑いを浮かべた。どうしてあれほどまで疲れているか教えるつもりはないからそう言うことにしておく。

「さて、食べたら二人は急いで店内の掃除を頼む」

「は~い!」

「頑張ります!」

 元気よく返事をするミクと迷惑にならないようにと緊張するフーゴの声がしばらく続く大仕事の幕開けとなった。

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