奇跡の力
今更ながらの説明でスミマセン……
リーヴィオの診察は素早く手際がよかった。前もって医学生組の診察結果を聞き目処を立てていたこととディオスとファズマの様子を見てある程度予想をしたからか幾つか質問をしてすぐに終わった。
「ファズマは捻挫と軽度の打撲。ディオスは全身打撲だ」
告げられた結果にディオスは道理で身体中が痛いのだと理解した。
「ファズマは上手く受け身をしたんだろう。頭を庇う様にして防いだ。打撲が軽度なのは爆発の影響を最小限に受ける体制だったからだろう」
いくら死神の体が丈夫であっても死神の弟子とは丈夫さが異なる。
ファズマが爆発で受けた怪我は軽度であることは今までの経験と運がよかったと言える。
「ディオスだが倒れた時の体制が駄目だったんだろう。腰を強く打ち付けたことで体に痺れが出ている。頭からでないことはよかったが打ち身が治っても後遺症は残るだろう」
「え……?」
本人が思っている以上に重症であることをリーヴィオが言う。
「あの、後遺症って……」
「経過診察になるが、軽度なら細かい作業が出来ず、重度なら動くことが出来ないな」
「そんな……」
それはディオスにとって絶望的な結果であった。
細かい作業が出来ないことは痛手であるが、動けないとなると働くことが出来ず家族の負担となってしまう。
もし動けないほどの後遺症となったらどうしようと不安にかられるディオスにリーヴィオが真剣な表情で言った。
「だからクロスビーがいる」
「え?」
「ディオスには強めで頼む。ファズマにも痺れがないとは言うが同じもので頼む」
「分かりました」
そんなやり取りをしてクロスビーは横になっているディオスの近くの床に膝を付いた。
「そのままでお願いします」
「……はい」
何をされるのか分からないディオスはクロスビーの静かに言う言葉に従った。
「古からの誓約により我らが主よ、天眷者が力を振るうことを許されたもう」
クロスビーの口から紡がれた言葉を聞いたディオスはすぐにロード教の聖典の一句であることに気がついた。
「天眷・我が主が祝福せし者に我らもそなたを祝福しよう」
聞いたことのない単語がディオスの耳に響いたと思うと、すぐに体に違和感が生まれた。
「え?」
悪い意味での違和感ではなく良い方においての違和感である。
先ほどまで感じていた体の痛みが全くなくなっていたのだ。
「何で?」
痛みがなくなったディオスは起き上がると手を握っては開いてと痛みがないことを確かめる。
「ディオス君、体の痛みと痺れは?」
「ないです」
ロレッタに体の状態を聞かれたディオスは素直に答えた。
「天眷・我らの主がそなたを祝福している」
驚くディオスをよそにクロスビーはファズマにも天眷術をかけた。
すると、ファズマも痛みが引いたのか表情がよくなった。
「ありがとうございます」
「これが天眷者の役目です」
感謝の言葉に当然だとクロスビーは笑みを浮かべるとまた唱えた。
「我らが主よ、天眷者があなた様から分け与えられた力を振るい終えたことを伝えます」
そう言うとクロスビーは体に張っていた力をゆっくりの抜いたのであった。
「あの、痛みがなくなったんですがこれは一体?」
クロスビーがやったことに周りが驚いていない様子を見たディオスは自分だけがクロスビーが何をやったのか知らないのだと知り本人に疑問と共に尋ねた。
「天眷術です」
「天眷術?」
「ディオスさんは天眷者をご存知ありませんでしたね」
「天眷者?」
そう言えばディオスは死神の弟子でないから知らなくて当然だとクロスビーは説明を始めた。
「天眷者とは天族から加護を与えられ眷族となった者のことです」
「……はい?」
いつかのように突拍子もない非現実に変なリアクションをする。
「何だそれはと言う感じですね」
「いや、そう言う訳じゃ……いや、そうなんですけど、天族って何ですか?」
「天族とは天使様のことです」
「……はい?」
死神の存在を聞いた時のような驚きが再びディオスに打ち付ける。
「あの、天使って言いました?……」
「はい。ご想像通り白き羽を持つお方です」
「待ってください!天使って宗教が生み出した神の使いですよね?そんな存在が……」
「これがぁいっるんだよなぁ~」
天使がいると言う発言を肯定するガイウスにディオスは勢いよく振り向くと凝視した。
「天使がいるってどういうことですか!?」
「天眷者になぁ~る奴の前に天使が降りて来たのおぉ見たことがあるんだよな~」
「え!?」
天使を見たとはどういうことなのだと顔に書いているの見たクロスビーが説明を再開した。
「ガイウスさんが仰られた通り天使様は天眷者になる者の前に降りて来て加護を与えるのです」
「あの、そもそもどうして天眷者になるんですか?」
「「なれる」のではなく「なる」ですか。難しい問をすることで」
「え?いや、そんなことは……」
「冗談です。天眷者は死神と違い好きになれるものではありません。条件を満たさなければならないのです」
「条件?」
そうしてクロスビーは指を二本立てた。
「天眷者になれる条件は二つ。一つは聖典の意味を理解することです。私が最初に唱えた聖句と他の聖句に意味があることに気がつき理解することです。もう一つは天使様と誓約を交わすことです。聖句の意味を理解してもそれだけでは現実に現れることはありません。天使様と契約を交わして初めて力を持ち天眷術を操る天眷者となるのです」
「つまり、聖句の意味を理解しないと天使から加護を与えられない。そして加護を与えられた人が天眷者となる?」
「はい。私達ロード教ではこれに気づいたものが司祭となります」
覚えてほしいところを理解していることに安心するクロスビーにディオスが尋ねる。
「でも、それだったら信仰を集めるために惜しみなくやっている気がするんですが……」
「5代目教皇と天使様が大衆の前での使用を禁止としたのです。死神同様に知られてはいけないな力であり、力に頼ると本来人が持つ可能性を潰してしまうからと宗教間で伝わるのみとなったのです」
「そう言う理由で……」
もっと知られてもおかしくないと思っていただけに釈然としないがそう言うものと理解して次の質問をした。
「あの、天眷者のことは分かりましたが天眷術は一体……」
「天眷術は聖句を唱えた天眷者が唱えることで現実に現れる術のことです。ディオスさんの体が元に戻ったのは天眷術により痛みとその元を取り除いたからです」
「やっぱり」
クロスビーが唱えた聞き慣れない単語が天眷術であったのではと言うディオスの考えは当たっていた。
「でもそれって奇跡の力ですよね?」
「はい、奇跡の力ですね」
「え!?」
お伽噺などで聞かれる聖職者が怪我人を治したり干魃地帯に雨を降らせたりと神の如く力を操る奇跡の力を思い出して呟くとあっさりと認めたことにディオスは呆けてしまった。
「天眷術は死神のように生霊や不死者を弔えない代わりに力を減少させ存在を封印し、傷付いた者を助ける術です。そう言った中には困っていることを解消させるものもあるのてす。ですので天眷術は奇跡の力とも言われているのです」
とんでもないものであったと体が動くようになった時に気づくべきだったとディオスは言葉を失った。
(やっぱりクロスビーさんも普通じゃなかった!)
そして死神達と同じ思いを抱くのである。
「さて、天眷者の説明は終わったようですが、皆さんはこれからどうしますか?」
クロスビーが伝えるべき話を終えたと見たレオナルドは店内にいる全員に尋ねた。
「俺達は病院へ行く。今頃は怪我人が運ばれて追い付いていないだろうからな」
「分かりました」
リーヴィオ及び医学生組はこのまま病院へ向かうことを決めていたのかすぐに答えた。
「私も助祭達を連れて手伝いに行きましょう」
「助かる」
ならばとクロスビーの救援にリーヴィオが感謝を述べる。
「私達は待機だ。いつ警察と病院に呼ばれるか分からんからな」
「俺も同じだなぁ~」
「分かりました」
全員がこれからの予定を伝え合うとこの場は解散となった。




