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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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二重の幻影者の謎

「通して下さい!」

「急げ!」

「早く準備して来い!」

「押すなよおい!」

 真夜中のアシュミストは混乱に陥っていた。理由は倉庫街の大火災によるものである。


 火災が発生した倉庫街は中央住宅街、市場、宿泊街、新住宅街が隣接しており、倉庫街付近にいた住人や観光客と倉庫街で働いている者が慌てて避難をする。そういった中でも興味本意で現場を見に行こうと逆そうする者もおり進むことが困難となっている。

 そこに消火活動と現場整理の為に出動した警察と消防隊が倉庫街へ行こうと無理矢理人混みを通って行く為に人々は焦りで早く行こうとして押し倒したり転んだりして怪我を負うこととなり大人数が病院へ運ばれることとなった。

 いつ、どうして起きたか誰にも分からない火災は丸一日をかけて消化することとなり、アシュミスト経済を麻痺させることとなる。



 そんな混乱が起こっていることを知っている死神の弟子組は前以て落ち合う場所として決めていたエノテカーナに集まっていた。

 倉庫街からエノテカーナまでは距離があるのだが死神の弟子達にとってそれほど遠くなく歩いて行ける距離である(唯一死神の弟子ではないオスローは付いていくのに必死であった)。それに、どこかの通りでは人目に付きやすいことと逃げている人々の邪魔になる。それに、集まるならここ(エノテカーナ)と言うこともあり深く考えずに集まる場所と決めたのだ。

「大変なことになってるね」

「あれだけの火事は見たことないからね」

 窓から逃げて来る人々の様子を覗いて他人事の様にフランコとロレッタが言う。

「街に展開していた領域が消えたから生霊リッチは倒したんだと思うけど」

「この騒ぎはちょっとね……」

「ですが、どうなろうとこういったことになっていた筈です」

「何か、頭が痛いな……」

 釣られる様に窓から覗いたアリアーナとアンナは予想以上の騒ぎこの中では年長者であるオスローの言葉に顔を歪めた。

「それにしても、ファズマとディオス遅いね」

「ああ。生霊の近くで避難誘導していたって言っても巻き込まれたってことはないと思うな」

「何で?」

「ファズマはモルテさんの弟子でけっこう危険には敏感だよ。リーヴィオ先生達が戦っている近くに近づくとは思えないよ。それに、ディオスは弟子じゃないけどこういう危険なことにはちゃんと言うことを聞くと思うんだ」

「それじゃ、どうして戻って来ないのよ?」

「外を見るかぎり通りが混雑しているから遅くなっているんだと思う。ほら、車で来てたって言うし、車じゃなくてもディオスは俺達みたいにすぐにここに来ることが出来ないから」

「そうだといいけど」

 ディオスとファズマがまだエノテカーナに来ないことを心配するエミリアにフランコが遅くなっている予想を言う。


 その時、突然モルテ、ディオス、ファズマがエノテカーナ店内に現れた。

「うわっ!?」

 先程まで心配だと話していたエミリアが三人の突然の登場に驚いて声を上げた。

「モルテさん!」

「……とファズマとディオスどうしたの!?」

 三人の登場に驚いたのもつかの間。ディオスがモルテとファズマに支えられているのに加えて服装がファズマと共に汚れていることに何事かと戸惑う。

「その前にディオスを横にさせてくれ」

「はい」

 モルテの指示に医学生三人がすぐさま答えるとソファーにディオスを横にさせる。その間に三人はディオスに外傷はないがどこかが痛くて体を動かせないことを見抜いていた。

「……っ」

「ファズマ君、足どうしたの?とにかく座って!」

「ああ……」

 ディオスだけではなくファズマの様子に気がついたロレッタが椅子に座るようにと促す。

 ぐったりと横になるディオスと椅子に深々と座ったファズマにアンナが早口に尋ねた。

「何があったの?」

二重の幻影者(ドッペルゲンガー)に襲われた……」

二重の幻影者(ドッペルゲンガー)!?」

 予想外の存在に全員が驚いて声を上げた。

「まさか戦ったの!?」

「んなわけするか!ディオスがいたんだぞ!」

「いなかったらやってた?」

「いようがいなかろうがあの状況で戦う訳ねえだろ!」

「それを聞いて安心した……」

「おい、俺が特攻仕掛けそうな奴に聞こえるんだが?」

 アリアーナとアンナの誤解しているとしか思えない気持ちにファズマは睨んだ。

「お二方、そして皆様がファズマさんとディオスさんの姿を見て心配しているのです。邪険になさらないでください」

「分かっている」

 気持ちを曲げて解釈したファズマの態度が許せないオスローが諭した。


「ファズマ君、足挫いたらのね?腫れが酷い。無理に歩いたわね?」

「ああ」

「頭に怪我はないみたい」

「そうか。どうやらディオスは体を強く打ち付けたみたいだね」

 ディオスとファズマの怪我の状態を見ていた医学生組が結果を口にする。

「……すみません」

「何謝っているの!生きて帰って来ただけでよかったんだから!」

 二重の幻影者(ドッペルゲンガー)に襲われても生きていたことが何よりも大切なことだとエミリアが諭す。

「でも、どうして二重の幻影者(ドッペルゲンガー)なんていたのかな?あそこって火の気なかったよね?」

 遺体がなければ不死者(アンデッド)になることはない。しかし、あの場で遺体がありそうな場所は爆発が起こっていた場所だけ。ディオスとファズマが避難誘導していた場所からは離れているのに何故二人の前に現れたのかとアンナが疑問を口にする。

「それに二重の幻影者(ドッペルゲンガー)って魂も必要なはず。あそこには死んでしまった人が沢山いたと思うけど、リーヴィオ先生達が刈ったと思うんだ」

「多分刈っていると思うわ。そうしないと新しい生霊がその場で生まれるかもしれないから」

「それじゃあ二重の幻影者(ドッペルゲンガー)の肉体と魂は誰のって言うの?」

 二重の幻影者(ドッペルゲンガー)の謎に無理矢理答を出そうとする弟子組に唯一この場にいる死神であるモルテが呆れて止めに入った。

「やめておけ。情報もなく考えるだけでは何も出ない」

「そうですけど……」

 モルテの指摘に考え込んでいた全員が渋い表情を浮かべた。この辺り、本当に死神になろうとする死神の弟子なのだとモルテは思ってしまう。

「モルテさんは何か掴んでいますのでしょうか?」

「心当たりがな。詳しい調べはアドルに任せるつもりだ」

 オスローの疑問にモルテは素直に答えた。ここから先は事件性があるためにアドルフに任せるのである。

「心当たりって?」

「悪いが今はそれを口には出来ない。こちらが抱えている別問題である為に接点と目処が見えん限りは答えられん」

「そうですか」

 まだ教えられないとがっかりするがそれが接点あることだと期待する弟子組。


 すると、また突然とガイウス、レオナルド、リーヴィオ、つらら、クロスビーが店内に現れた。

「うわっ!?」

 そしてエミリアが再び驚いて声を上げた。

「全員いるみたいですね」

「あれ?レナードさんとアドルフさんとマオクラフは?」

「レナードとアドルフは二重の幻影者(ドッペルゲンガー)が現れた現場の保存の為にまだ残っている。マオクラフは手伝いだな」

 死神三人かいないことを尋ねたアンナにレオナルドが答えた。


「おぉ~いオスロー、足手まといぃにならなかったかぁ~?」

「体力面以外では問題ありませんでした」

「おぉいに足手まといぃと認めてないかぁ~?」

「しておりません」

 体を動かすことに不適切であるが本人がそういうのなら言いかとガイウスは納得した。


「アリアーナ、アンナ、無事でよかった」

「何言ってるの!無事って聞きたいのはこっちよ!」

「父さんの危険に比べたら私達はすっごく安全な場所にいたのよ」

「しかしな、避難するのも大変なことだ。火災の近くでしていたのなら尚更……」

「それでも、無事だったのは父さん達のおかげ。私達は父さんが無事ってことが大切なことなの!」

「……アリアーナ、アンナ」

 二人の娘に言われてはこれ以上言うのは間違いだろうとレオナルドは笑みを浮かべた。


「フランコ、エミリア、ロレッタ。よくやってくれた」

「はい」

「だが、これからが大変だ」

「分かっています」

「私達はもう一仕事ってことですね」

 リーヴィオの言葉に医学生組はこれからのことを予想する。


「ファズマ君、ディオス君、大丈夫なの?」

「俺は大丈夫だがディオスがな……」

「体が動かなくて……」

「それ大丈夫じゃない!」

 ディオスの口から状態を聞かされたつららが青い顔をした。

 それを見たモルテがリーヴィオとクロスビーに声をかけた。

「リーヴィオ、クロスビー、頼めるか」

「ああ」

「お任せください」

 モルテの言葉に二人はディオスとファズマの手当てに入った。

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