対応変更
「何であんな所にいるんだ!?」
アドルフの思いがけない方向への叫びに近くにいたレオナルドが釣られる。
「何かありましたかアドルフ?」
アドルフが見ている方を死神の力を目に纏わせた目で見ると、顔をしかめた。
「これは……」
そこにいるディオスとファズマを認識出来たはいい。問題はもう一つの姿。もちろん二人がそこにいること事態も問題であるがそれよりも厄介な存在、不死者・二重の幻影者に危機感を抱く。
「リーヴィオ、ここを任せる!」
「任せるって!?おい!!」
突然のアドルフの離脱に驚くリーヴィオ。それにレナードとクロスビーも驚くもすぐに状況を確認して対峙している生霊へと向き直す。
「レオナルド、アドルフの代わりを頼む!」
「分かりました!」
レナードの指示にすぐさまレオナルドは対応をした。
アドルフへと意識を向けていた生霊は突然アドルフが離脱したことに追いかける体制に入っていた。そこに自分に意識を向けさせる為に瞬時に生霊の足に鎖鎌の鎖で捕まえて動きを制限する。
「お前の相手は私がしましょう!」
そして違う角度からレオナルドのではない違う刃が振るわれた。
◆
爆発の威力で思った以上に飛ばされたファズマは体の痛みを堪えて起き上がると頭を軽く振った。
「っ……何だって爆発が起こんだ……」
逃げ出す直前まで二重の幻影者が火球を作っていなかったのは認識している。そもそも、二重の幻影者が作り出す火球は放ってから次を放つまで時間がかかっていることを何度も襲われているために認識している。それが先程襲ってきた爆発は次の間まで時間が短かったのだ。
何故か。それは隠していたのではと予想する。
「ディオス、無事か?」
先に爆発のことを考えてしまったが、本来優先するべきは一緒に飛ばされたディオスが無事でいるかどうかの確認である。
ファズマは声をかけなから周りを見渡し、ディオスを見つけて吐き捨てた。
「気絶してやがる!」
ぐったりと倒れているディオスの様子に慌てて駆け寄ろうとして足に力が入らずに体が崩れる。
「っ!?……くそっ!」
足が痛んだ。その痛みが地面へと叩きつけられた際に挫いたものだと理解する。
それでもディオスの元へ行くと無理矢理立ち上がり足を動かして、側へと寄った。
「ディオス……」
ディオスに外傷がないことを確する。どうやら叩きつけられた際の打ち所が悪かったのだろうと考える。それでも起こさなければまずいと体を揺すって無理矢理起こそうとする。
だが、倉庫から鈍い足音が耳に聞こえて手を止めた。
二重の幻影者がこちらへ来ていることを悟り、その全く燃えていない姿に歯を噛み締める。
「くそっ!」
逃げる準備すら出来ていないしディオスを背負うことも置いて逃げることも出来ないファズマは作られつつある火球を見てここで終わりだと吐き捨てた。
そして、二重の幻影者は慈悲もなく火球を二人へと放った。
高速に飛ばされていると認識してまう火球にファズマは絶望を見て、その間にアドルフが突如として割って入り絶望ごと火球を切り裂いた。
「間に合った」
「アドルフ警部!?どうして?」
「ファズマとディオスがめんどくさい状況にいたからに決まっているだろう!」
もう避難がすんで待避していると思っていただけにまだ担当場所付近にいて、しかも二重の幻影者に襲われているなど、どうしたらこの様な状況になるのか問いただしたいところである。
「……っ」
その時、ディオスが小さな呻きとと共にゆっくりと目を開けた。
「ディオス!」
「……ファズマ?そうだ!ドッペ……つぁ……」
慌てて起き上がろうとしたディオスは体の痛みに起きる時に上げた時とは違う呻き声を上げた。
「体を強く打ち付けたみたいだな。ファズマ、ディオスを連れてここから逃げろ!」
「はいよ」
ここにいては足手まといになることを分かっているファズマはディオスの腕を抱えて支えるようにして立ち上がった。
「ごめん、ファズマ……」
「それは何に対してだ?二重の幻影者に襲われたことか?体が動かせねえことか?」
「両方……」
ディオスの謝罪に二重の幻影者のことは不可抗力であるし体が動かないのは普通の人間だから仕方のないことなのに謝るのはおかしいだろうと呆れ顔をする。
そもそも、普通は至近距離と言っても言い爆発の様子としてディオスが負っている状態が正しいのである。ファズマは死神の弟子であるために体が一般人よりも丈夫であり、過去に色々とあったために受身を身につけて痛みを最小限に抑えられている。
だから、ファズマの様子はこの場ではあり得ない方である。
ディオスを連れて行くファズマがあまりにも遅いことを心配したアドルフは二重の幻影者に向き直った。
「行かせる気はねえぜ。ここでお前達の繋がりを絶つからよ!」
不死者と言えど生霊と同じように力を振るうことが出来る二重の幻影者に注意を払い、アドルフは気を自分へと向けるために嫌がらせを始めた。
◆
モルテは分裂生霊の最後を刈った。
「マオ君、これで終わり?」
『ああ。生霊の気配はない。全部倒したよ』
『掃除完了ってなぁ~』
「そうか」
時間がかかったがそれでも一体残さすことなく討伐したことは喜ばしい。例え一体残っただけでもそれが力を蓄えてしまえばまた同じことの繰り返しになり死神としてよろしくはない。
「それじゃ向こうへ行く?」
つららの言葉にマオクラフは生霊を討伐したことの報告をレナードに入れた。
『父さん、こっちの生霊は倒した。今からそっちに行く』
『そうか!モルテはアドルフの手伝いを頼む』
「アドルのか?」
『ややこしい状況でな』
『ややこしいかぁ?』
一体何が起こってややこしくなったのか疑問符を浮かべるモルテ達。
『二重の幻影者が現れたんだ。アドルフがファズマとディオスを逃がすために対処している』
『二重の幻影者!?』
「待てレナード!ファズマとディオスがいるだと?どういうことだ!」
『恐らく引き寄せられたんだろうな。ディオスは弟子じゃねえからな』
ただでさえ二重の幻影者がいることに驚くのにそこにディオスとファズマがいると知らされたモルテはどうするか決めた。
「マオクラフ、ガイウス。私は先に行く」
『え?』
『おおぉぉい!ちょっと待てぇ!?』
マオクラフとガイウスの言葉を無視したモルテは姿を消した。
「あらら、モルテったら焦って行っちゃったよ……」
目の前て消えたモルテの様子を見ていたつららは困った様子を浮かべたが、モルテが行ってしまったことに慌てずにマオクラフに連絡を入れた。
「それじゃあたし達も行こうか?」
『へ?あ、ああ。そうだな!』
つららに促されて残った三人はレナード達の元へと向かうために動き始めた。
騒動の終結が目前と迫っていた。




