白狐
生霊の姿は一言で言うと白である。白すぎる姿にレナードが眉を寄せた。
「ここまで白いのは聞いたことがないな」
「そうなのか?」
「ああ。普通は赤とかなんだがここまで白いのはないはずだ。それに、纏っていた炎の色から姿は青いだろうと思っていたが……」
「話に聞く生霊よりも力があるってことに泣けるんだが……」
「恐らく、体内に蓄えているのでしょう。体の構成は最減少で維持をしているかと」
「白で最減少って随分傲慢だな!」
「それだけ力があると言うことだろう」
目前の生霊が持つ力が目にして分かることにリーヴィオが不満をこぼす。
しかし、リーヴィオが不満をこぼすのが分からないわけではない。
火を操る生霊は体を形作っている火の色で力具合が分かる。
殆どの火を操る生霊は炎の色を代名詞する赤色であり、力の振るい方も自身を炎で纏っての突進や周辺を燃やしたり火を吹いたりが殆どである。
だが、目の前の生霊は白い体に青白い炎を操る。こんな生霊など話に聞いたことがない。加えて炎の扱いも威力も話し以上である。
天眷者クロスビーがいなければレナード以外の領域では防げない程に高威力である。
加えて体が白いのは力を温存するだけではなく燃える火が周りに放出するほどに温度が低くなりそれによって色が変わっていると同じことと考えられる。それで力が減少するのかと聞かれると否定的なところである。
もしかしたらこの存在の出現は初めてであり、そうであるなら知られている対応以上のことをしなければならない。
今まで無傷でいられたものと思ってしまうが、それもここまでであろう。
生霊が姿を現したと言うことは最大火力での攻撃が予想出来る。
「気を引き締めろ!」
レナードが叫ぶと全員が警戒レベルを上げた。
今まで討伐してきた生霊以上、もしくは堕ちた死神と同等の力を持つかもしれない生霊に周りに空気がピリピリと張りつめる。
そんな死神達を見た生霊は一本しかなかった尻尾を太さと長さをそのままに九本に増やすと、尻尾の先で青白い火球を作り飛ばし始めた。
死神達とクロスビーは見ていた時から攻撃が来ることを察し、飛ばされた時にはいつでも避けられる体制に入っていた為に火球を避けることが出来た。
それでも、攻撃よりも尻尾が増えた方が信じられないと驚いてリーヴィオが叫んだ。
「おい、あれありか!?」
「普通の怪火とは違うんだ。あれくらい出来て当たり前なんだろうあいつは!」
「追撃来ます!」
レオナルドの言葉にアドルフとリーヴィオは先程よりも早く飛ばされる火球を避けると生霊へと走り出した。
「天眷・魚に水を与えよ!」
補助とクロスビーが二人の鎌に天眷術をかける。
それによりアドルフとリーヴィオが振るう鎌は普通に火球を切るよりもバッサバッサと綺麗に切り裂いていく。
「火の扱いが上手いな」
次々と飛ばしてくる火球を見てレナードが呟いてしまう。
飛んで来る火球の数と速さも増えてきておりアドルフとリーヴィオが切るよりも避ける方が多くなった。それにより火球がレナード、レオナルド、クロスビーへと飛ぶことになっている。
それに気づいて防ぐ為に戻る、という選択肢はアドルフとリーヴィオにはない。
それが正しいと言うようにレナードとレオナルドとクロスビーが全て避けてしまう。
火球を避けている間もレオナルドは目でアドルフとリーヴィオを捉えていた。
正確には生霊の動きに注意していつでも手助け出来るようにと見ていたレオナルドが突然叫んだ。
「レナード!二人を下がらせてください!」
レオナルドの叫びに何かと尋ねることなくレナードはすぐさま領域をアドルフとリーヴィオの前に展開した。
そして、展開された領域に二人が突っ込むと、もう少しで生霊に攻撃と言う距離からレナード達の元へと引き戻されてしまった。
「……は?」
「何で……?」
突然生霊との距離を引き離されたことに驚くアドルフとリーヴィオ。
その直後、生霊が爆発を起こした。起きた場所を見て、もしあのまま突っ込んでいたらただではすまなかったと思う。仮に領域を展開したとしてもそれで無事であったかと言われると微妙なところである。
「助かったのか……?」
「みたいだな。レナード助かった」
「礼ならレオナルドにだ。それよりもよく気がついたな」
生霊の攻撃があることに気づいたのは何故かとレナードはレオナルドに問う。
「頭です。私も尻尾ばかりに注意をしていたので気づくのが遅れて申し訳ありませんが、頭に力を集中させ、それをアドルフとリーヴィオがいた場所に爆発を起こしたのです」
「遅れたと言うが気づいてくれたから助かったんだ。礼を言う」
結果的に助かったのだから遅くはない。それに、警戒をしていたはずなのにそれに気づかなかった自分達の注意不足に恥じる思いである。
「それにしても厄介だ」
リーヴィオの呟きに全員が爆発が起こった場所に視線を集中させた。
爆発は起きていないが代わりに炎が渦を巻くように生霊を取り囲んでいる。渦を巻いているからか熱風が吹き付けており、領域を展開していなければ肌に焼ける痛みが刺さる温度である。
「クロスビーのお陰で力が振るいにくくなっているとはいえ、それでもこれは……」
「効果がないわけじゃないんだが気持ちがな……」
ついつい渦巻き続ける炎の色と威力の応用にぼやきがこぼれてしまうアドルフとリーヴィオ。それはここにいる全員が困ったと思っている。
火球や爆発の色と威力を見て感じてしまう今だから分かってしまう。炎を纏っていた時よりも強すぎる力に。
抑えていたのだろうが、それでもここまでで力を振るっているのはクロスビーの天眷術による影響も大きい。
後がないと言うよりも手加減をする理由がなくなったと言っていいだろう。まさしく手加減無用である。
生霊は九本の尻尾全てに青白い炎を纏わせると、同じ狐の姿を纏わせて襲わせにかかった。
「逃げろ!」
アドルフが叫ぶと全員がその場から逃げ出した。
だが、生霊が作り出したそれこそ文字通りの狐火は意思を持つように数匹ずつ別れて追いかけだした。
クロスビーは追ってくる狐火に天眷術を放った。
「天眷・我らを害するものを消失させよ!」
これにより追っていた二体の狐火を天眷術により打ち消された。
レナードは向かい来る狐火を領域に潜らせるともう一体の狐火へとぶつけた。
しかし、二体の狐火は消滅することなく合体して巨大な狐火へとなった。
それに慌てる様子もなくレナードは巨大狐火の周りに領域を展開して包み込んだ。
「消え失せろ!」
そのまま領域の応用を使い、領域を縮小させて力業で狐火を消滅させた。
アドルフとリーヴィオは苦戦していた。
逃げた方向が同じであった為に二人で四体の狐火を対処することとなったのだが数の多さに防戦をしていた。
「くっそ!」
器用にも死角から襲ってくる狐火に苛立ちが込み上げる。
その時、狐火の死角から二本の鎌が深々と突き刺さった。
「邪魔です!」
何処からと鎌に結ばれている鎖を追うとレオナルドが空中に出現させた鎖鎌の鎖で別の狐火を締め付けていた。
そのまま鎖は狐火を締め付け、鎌の刃を刺された狐火にも深々と突き刺さり貫通させると三体同時に消滅させた。
「よし!」
数が減ったことにアドルフとリーヴィオは素早く鎌を振るい残りの狐火を消滅させた。
これで反撃に移れると生霊に意識を戻すと、その背後にそびえる存在に意識が持っていかれた。
「おい……」
「あれはないだろ……」
巨大な狐火。化け狐である。
「あれはまずい!」
誰が叫んだか認識しないまま化け狐は全員に襲いかかった。
散らばっているのに何も躊躇なく襲いかかるのは化け狐が巨大すぎて攻撃範囲内だからである。
だから、化け狐は牙を尖らせて五人に覆い被さるようにかじりついた。それにより悲鳴も何も聞こえない程の爆発が起こり、そこが火の海となってしまう。
力の振るい方に躊躇がない。問答無用である。




