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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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天眷術

 クロスビーの口から紡がれた言葉は詩であり、聖典の一句であった。

いにしえからの誓約により我らが主よ、天眷てんけん者が力を振るうことを許されたもう」

 その瞬間、青白い生霊は溜め込んでいた力を自身を中心として解き放つと青い炎が周りへと広がっていった。


 周りが何もかも燃えていく様子はまさに壮観。生霊リッチは何故早くにこの様な爽快感に浸ろうと思わなかったのか不思議に思ってしまう程である。

 意識をまだ燃え続ける炎に向けて死神がいた場所を見る。

 死神は放たれた炎に飲まれた。飲まれる瞬間まで防ぐ様子がなかった。

 力を解放したことに気づかなかった?

 そう思うと呆気ない結末であるが、それなら何故殺ったと思う感覚がないのか不思議に思う。


「何勝手に終わらせている!」

 そんな生霊の思いを読んでか怒りを込めて叫ぶリーヴィオが青白い炎の中から飛び出すと鎌を振り下ろした。

 生霊は声に驚きと戸惑いながら直ぐに避けた。

「行ったぞ!」

「追い込みお願いします!」

「おう!」

 追撃をかけるようにアドルフも生霊に向かい鎌を振るうも避けられたり炎を段幕として張り防がれる。

 その度にアドルフとリーヴィオは領域を張り防いでいるが致命傷を上げられてはいないが、二人に慌てる様子はなかった。

 何故なら、生霊の攻撃威力が落ちているからだ。


 生霊は思う。

 力が思うように震えない。それに、何故殺ったと思っていた死神が生きているのか、と。


「今です!」

 レオナルドがアドルフとリーヴィオに合図を送った。

 その声に生霊が気づくと周りには死神の力が纏われた細い刃が長く幾つも浮かぶ空間が出来ていた。いや、いつの間にか空間に追い込まれたと理解する。

 だが、慌てることはない。体の周りには炎の衣を纏っている。体が傷つくことはないし、いきなり殺されるようなこともない。

「纏う炎を剥がさせてもらいます!」

 元から衣を剥がすのが目的であるとレオナルドが高らかに宣言するとアドルフが鎌の刃を月鎌ハルパーの様な深い湾曲に変えると生霊へと振るった。

 初めから死神達は理解をしていたのだ。纏っている炎を払わなければ傷を付けることが出来ないことを。

 だが、そんなことさせないと生霊はアドルフに向けて炎を飛ばす。人間を一瞬で焼く炎を。

「天眷・我らを害するものを消失(アキュラ)させよ!」

 クロスビーが叫ぶと炎が消された様子がなく、まるで最初からなかったようにその場から消えた。


 クロスビーが再び唱えたのは聖典の一句である。

 その聖典がクロスビーの声により意味ある姿へと現実に現れているのは天眷者と呼ばれる存在であり、現れた術を天眷術と言う。


 天眷術により生霊は何が起きたのかすぐに分かった。

 あの男は死神と別の意味で危険である。

 そして、男の持つ力のお陰で先程の広範囲の攻撃を防ぎ、殺ったと思う感覚がなかったのだと危機感を抱く。


 それなら先に始末すると炎をクロスビーの目前で爆発を起こして殺すと力を振るう。

「殺れると思っているのか?」

 馬鹿なこと考えているなとレナードがクロスビーの周りに領域を張り起こるはずであった爆発の大半を別の場所で起こしたことでクロスビーは無傷ですんだ。


 攻撃の殆どが無意味であったと悟った生霊は何も抵抗出来ないまま振るわれていたアドルフの鎌の湾曲に収まってしまった。

 生霊は慌てて逃げ出そうとするが深く収まってしまったことと振るわれる勢いから体を出すことが出来ない。何よりも、体が鎌に密接するようで身動きが出来ない。

「行けぇぇぇぇ!!」

 アドルフはそのままレオナルドが張った糸の空間へと生霊を放り投げた。

「天眷・魚に水を与えよ(アクアリアス)!」

 追加とクロスビーが刃に火の生霊が苦手な水の力を附加する。

 それにより生霊は水の力が附加された幾つもの刃により上空へと飛ばされる間に炎の衣が削られていき、体の一部が見えるようになっていた。

「リーヴィオ!打ち落とせ!」

「おう!」

 まだ炎の衣が残り空中で停滞している生霊の炎を払うとレナードがリーヴィオに指示を出した。

 リーヴィオはそれを聞き入れると前もって空中で待機していた場所で鎌を振るった。

 しかし、鎌を振られる前に何とか体制を立て直した生霊はすんでのところで避けるとリーヴィオに向けて青白い炎を口から吐き出した。

「リーヴィオ!」

 まさかの反撃にリーヴィオの姿が炎に飲まれたのを見てアドルフが焦って叫んだ。

 レオナルドはすぐさま刃の形を変えると生霊に向けて放った。

 水の力が附加されている刃が近づくのを感じた生霊は吹いていた炎を止めるとすぐに刃から逃げ出した。

 そして、炎が吹かれた場所には何とか領域の展開と強度が間に合い助かったリーヴィオがいた。

 リーヴィオは領域を展開したままレナード達がいる場所へ自由落下で着地した。

「リーヴィオ、無事か?」

「ああ。司祭が初めにやっていた天眷術がなかったら危なかった」

 お陰で命拾いしたと感謝するクロスビー。


 クロスビーが初めに唱えたと言う天眷術とは生霊が青い炎を周りに広げるのと同時に唱えた聖典の一句、「我らに救いをもたらす者に(ドゥルフィティリア)祝福を」というもの。この天眷術は一定範囲内にいる生霊が持つ力を削減させる効果を持っており、これにより生霊は思うように力を振るえなくなり、死神は領域で守りやすくなったのだ。


 リーヴィオが無事であったのを目にした生霊は反転すると迫って来ている刃全てに爆発を与えて打ち落として追撃を阻止した。

 そして、死神を見下ろしながら纏っていた青白い炎を纏うことをやめると己の姿を露にさせて着地した。

「どうやら向こうはそうとう殺る気のようだな」

 全員の目の前には纏っていた炎を力へと変えて先程よりも強い力を感じさせる生霊が凛々しい狐の姿で立っていた。

天眷者の説明をここでしてしまうと「何これ?」となってしまうので詳しい説明はもう少し先になります。

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