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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
227/854

対応開始

 避難を誘導する弟子組の出だしは好調であった。


「は~い、こっちです!」

「急いで退避してください!」


「ここから急いで逃げて!」

「ちょっと、何戻ろうとしてるの!?早く逃げてよ!」


「怪我をしている人がいたら手を貸して一緒に逃げてください!」

「逃げ道はこちらとなります」


 爆発により起きた大規模火災から逃げる一般人を二人一組になって倉庫街から逃がすように誘導していた。


 倉庫街はアシュミストの発展と共に非常にめんどくさい区画構成となっている。

 元々アシュミストの倉庫街は河に面するように6つの倉庫区画があった。だが、人口が増えるのと平行して倉庫区画も増えていき、河を越えた4つを含めて合計10の倉庫区画が存在する。

 今回は河に面している区画での火災であるが起こしているのが生霊リッチである為に念を入れて全区画から一般人を避難させなければならない。

 加えて、逆そうをする一般人やもしかしたら現れるかもしれない生霊とその攻撃を防ぐために最前線に立っている。

 倉庫街て働く一般人の中には善意で誘導をしている者もいるがそう言った者達には近くに隣接している中央・新住宅街と市場、南宿泊街への避難誘導をお願いしている。

 それでも人手不足であるために弟子組は走り回っては避難が遅れた者達を助けたり誘導したりと必死である。


「はぁ……はぁ……」

「オスローさん!?」

「流石に、キツいですね……」

「始めたばかりですよ!?」

 早々に運動音痴て体力がないオスローが根を上げたのは言うまでもない。


  ◆


 同じ頃、死神達とクロスビー司祭は現在分かっている生霊について共有していた。

 今回の生霊は怪火であり姿が狐であり、逃げ足が早く素早い。

「やはり狐だったか」

「気づいてたのモルテ!?」

「オーロラを見てもしやと思ったからな」

 オーロラが北の地で狐火と呼ばれることを知っているモルテは繋がり的に生霊の姿が狐であること、連鎖的にそれが誰の生霊なのかも検討をつけていたのだ。


 モルテとつららが話す近くでレオナルドがレナードに尋ねた。

「生霊は?」

「気配は確認出来たがな……」

「何か?」

「気配が2つある」

 思い詰めたレナードの言葉に全員が不意を突かれたように驚いた。

「それは、分身を作りこちらを撹乱しようと?」

「ありえるなぁ~」

「狐は幻作るの上手いって言うからね。炎これだけあったら簡単に作れるよ」

 生霊が取った行いを予想しているとレナードが叫んだ。

「マオクラフ!領域を強固にしろ!」

 瞬間、ドゥーエとトレ区の間で爆発が起こった。

「っ……」

 遠くで起こった爆発なのだがマオクラフが呻き声を上げて屋根を渡っていた足を止めた。

「マオ坊!?」

「大丈夫……」

 苦しそうな顔をするマオクラフに全員が大丈夫ではないと思う。

「かなり大きかったですね」

 死神に遅れを取らず着いてきているクロスビーは爆発が起こった方を見た。

 マオクラフが張っていた領域によりトレ区で火災は起きていないがドゥーエ区では起きている。

「だけど、さっきの爆発に比べたら小さいよ」

「そうですか?」

「あれは燃えやすいものが置かれていたからだ。それで爆発が大きかったんだ」

「そうなの」

 最初の爆発よりは規模が小さいと言うつららであったが、アドルフからそれによる仕組みを言われて納得する。

「まずっ!?」

 直後、マオクラフが何かに焦って叫ぶとまた同じ場所で爆発が起きた。

 だが、爆発の威力が先程よりも増しており、マオクラフが張っていた領域が砕けたのを察した。

「……ごめん、突破された」

「マジかよおいぃ……」

 マオクラフの言葉に分かってはいるがガイウスの口から声が漏れた。


 マオクラフは死神としてはまだ未熟であるがレナード仕込みにより普通の死神よりも領域の扱いだけは上である。

 その領域を砕いたとなるとかなりの力を持って壊したと言っていい。


 悲報を聞いたレナードであるがすぐに気配の確認に加えてマオクラフが張っていた領域の状態も見る。

「領域は一部だけのようだな」

「どうする?マオクラフの領域を破ったとなると普通の領域を展開しただけで止めるのは難しい」

 マオクラフの領域破損は死神達に戸惑いを与えていた。

 だが、それよりもとアドルフは頭を悩ませていた。

「それよりも、何故生霊は今になって領域を壊したんだ?」

「は?」

「今も領域を展開している理由があるのか?」

「生霊を見つける為にトレとクアットロには領域を展開していたんだ」

「たがらトレ区にクアットロ区に領域が展開されていたのですか」

 何故トレとクアットロと今もなお領域が展開されているのか理解するレオナルドとリーヴィオとクロスビー。

「壊したぁとなるとこっちが本体かねぇ~?」

「分からないが向こうを無視する訳にもいかない」

 力ずくで死神の領域を壊した方が本体と見るが、分身を手離しにする訳にはいかないと難しい顔をする。


「マオクラフ、領域を展開し直せるか?」

「出来るけどさっきみたいな爆発には耐えられないから」

「そうか」

 マオクラフと言葉を交わしたレナードは数秒間ほどじっくりと考えて指示を出した。

「モルテ、ガイウス、ツララはマオクラフと共にトレの生霊を頼む。残りは俺と共にドゥーエにいる分身の対処だ。クロスビーはこちらに」

「分かりました」

 レナードの割り振りに反対意見をする者はいなかった。


 モルテはトレ区に行く前にとまだ倉庫街へ来ていないファズマを呼んだ。

「ファズマ、聞こえるか?」

『店長。もう少しで着きます』

「そうか。着いたらドゥーエ区を頼む。生霊がいるが充分注意をしてくれ」

『分かりました』

 ファズマへ指示を出し終えたモルテはマオクラフ達と共にトレ区へと飛んだ。


  ◆


 モルテと連絡を取り終わったファズマは車のスピードを更に上げた。

「ファズマ!?」

「もう少しで着くんだ。我慢しろ!」

 後片付けが終わりファズマが運転する車が徐々にスピードが上がっていくのにディオスは意外にもすぐに元の様子に戻ると考え事を再開させた。

(店長は自分が原因だって言ってたけど……それってもしかして……)

 モルテが何故その様なことを言ったのか考えたディオスは一つの可能性を思い浮かんではすぐに思考を変えると様々なことを考えた。

 生霊が大掛かりな殺略に出なかったこと、今になって行ったこと。そして、何故倉庫街限定で人を殺していたのか。


「ファズマ、生霊が一定範囲から出られないってことある?」

「何だ急に?」

「いや、どうして住宅街に現れないのかと思って」

「死神嫌いなのに生霊のことは好きなんだな」

「好きじゃない!気になっただけだ!」

 ディオスの質問にファズマはからかうと真剣な表情を浮かべた。

「確かに生霊は不死者アンデッドと違って動ける範囲が限られている。生霊それぞれだがな」

「それは肉体と魂の繋がりの長さがあるから?」

「ああ」

 自分から質問をしたが生霊に移動制限があったことに驚いたディオスだが、同時に一つの仮説が浮かんだ。

「もしかして、カリーナのお父さんは倉庫街にいる?」

「は?」

「でもどこに?」

 モルテの会話を考えたディオスはそれが確実なものであるという前提で更に考える。

(今まで見つからなかったとなると埋めたか沈めるかのどっちか。だけど、沈めたら下流で見つかる。それなら埋めたことになるけど、どこに?)

「……まさか!?」

 考えて突然大声を出した時に車が急停止した。


 急停止により体が大きく揺れたディオスはどうしたのかと外を見て、燃えている光景を目にした。

「考えている途中で悪いが着いた。急いで降りてくれ!」

「あ、ああ!」

 ファズマに急かされたディオスは急いで車から降りた。

 頭に振り払えない程の答えを抱いたままディオスはファズマと共に避難誘導へ向かうこととなった。

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