葬儀屋の自己紹介
大都市アシュミストは自然と近代建築が融合した観光都市である。
北と西には山が、東と南は畑が広がっている。街は山から流れる河の下流に存在し、流れてくる河を東側の天然水堀として作られた。
街の発展には水が大きく関わっている。街全体に水が行き渡る様に河から流れる水を人工水路や水路橋を作り流している。はるか昔に作られた水設備は現在も現役にその役目を負っている。
主な産業は観光。周りの自然と水路橋、そして、現在は古城となった100年ほど前までアシュミストを統治していたボルディギア・マギカド=コンテが住んでいたコンテ城が観光名所となっており、この地を訪れる観光客は多い。必然的に土産物を販売する商業街と観光客が泊まる為に必用な宿場町が増え、この地に憧れ移住する者達が現れたことにより、長く水堀として役割をしていた河の向こうに新たな住居区が出来上がった。
かくして、アシュミストの住居区は時代と共に変化し、呼び方も変わっていった。貴族街は富裕街、住居区を旧住宅街、市場に近い居住区を中央住宅街、河の向こうに出来た住居区を新住宅街と区別して呼んでいる。
この日、旧住宅街の裏通りに店を構える「葬儀屋フネーラ」では新たな従業員ディオスの自己紹介から始まってた。
自己紹介から始まったのは至ってシンプル。朝食の席でミクが、
「じこしょうかいやろー」
と言ったのが切っ掛け。
そして、モルテが二つ返事したことで葬儀屋フネーラに住んでいる者達の自己紹介が店内で行われる事となった。何故店内かと言うと、葬儀屋の従業員だからである。
一番始めに自己紹介を始めたのはディオス。新しく入った新人だからだ。
「ディオス・エンツォ=レオーネです。まだ知らないことが多いですがよろしくお願いします」
「短い」
ディオスの自己紹介にモルテがケチを付けた。
「ふむ。いきなり自己紹介をしろと言うのは間違ってたな。とりあえず名前以外に年齢。それから得意な事。これを踏まえてもう一度だ」
まさかもう一度自己紹介をするはめになるとは思わなかったディオス。
少し考えて改めて自己紹介を始めた。
「ディオス・エンツォ=レオーネです。歳は15。得意な事は……多分計算、書物整理……です。まだ知らないことが多いですがよろしくお願いします」
ディオスの自己紹介に三人は静かに聞いていた。ディオスとしてみれば得意な事が思い浮かばずとりあえず役立ちそうな事を言ったまでである。
「なるほど。ファズマ」
「はい。ファズマ・ジーア。歳は17。得意な事は色々ありますがあえて上げるなら料理。店の料理担当をしています」
ファズマの料理の腕は来たばかりのディオスでも知っている。とにかく美味しく、沢山の種類を作る。
今朝の朝食に牛肉のステーキとグアルーギョを使ったトマトベースのスープにサラダが出てきた時は量が多い以前に朝食では食べないようなものが出てきたのに驚いていたが。
「それではミク」
「は~い!ミク・エルジムです!としは10才。得意なことはお店のお手伝い。よろしくおねがいします」
ミクの自己紹介にディオスは妹のユリシアと同じ歳かと思っていた。
「最後は私だ」
そして、葬儀屋フネーラの店長であるモルテが口を開いた。
「私が……」
その時、店の扉がドアベルを鳴らして開いた。
「おはようございます!郵便配達のマオクラフです!」
「貴様は何を言っている!!」
絶対に狙っていただろうと言うタイミングとセリフに唐突に何かを背負って現れた鳥の被り物を被ったマオクラフにモルテが頭上真後ろから回し蹴りを加えた。
実は、意外にもかなり楽しみにしていただけにタイミングを奪われたモルテの怒りは相当であった。
結果、もろにモルテの回し蹴りを食らったマオクラフは背負っていた何かと共に床に頭を突っ込んだ。
「ええぇぇぇぇぇぇ!!」
予想外の行動、そして、恐ろしいまでの殺気と現状にディオスは悲鳴を上げた。
「そして、一体何を持ってきた!!」
モルテはマオクラフが背負って今は一緒に頭を突っ込んでいる人間について尋ねた。
ちなみに、モルテの設定は……
歳は不明(外見は20代前半)
得意なことは遺体に関する事ならなんでも得意(遺体解剖やエンバーミング等)
はっきり言って今のディオスには外見20代前半以外知らなくてよかったと思います。




