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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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予想外

 手紙の謎が一段落したことでようやく気持ちが楽になった。

「手紙の文はゆっくり考えるよ」

 とはディオスの言葉。

 今考えたところで何も思い出せないし分からない。急いで思い出す必要もないからと思考を放棄した。

 その近くではモルテとマオクラフにこってりとしばられているつららが助けを求める目をしているが、あれに首を突っ込んで巻き込まれたくないし、突っ込む気もないから完全無視である。

 全く余計なことではあるがマオクラフがモルテと組んで怒っているのは新鮮であると思ってしまう。

 それでも命知らずなのか状況を理解してないのか、もしくは興味からかミクが首を突っ込んでつららに話を続けさせてとほしいと説得と言うよりも願望を訴えているが、届くことはないだろう。


 取り出した便せんを封筒にしまうとディオスはフーゴに言った。

「本当に俺が持っていていいの?」

「ディオスさんの名前が書いてあるからディオスさんが持っててください」

「分かったよ」

 フーゴにそう言われては返すことも出来ないとディオスは手紙を受け取った。

「ところで、何かあった?」

「え?」

「いや、何となくなんだけど何かあったのかなと思って?」

 店に来てからというもの、気づくとどこか思い詰めたような表情であるフーゴにディオスが心配して尋ねた。

「何かあったのなら言ってくれないかな?言うだけでも気持ちが楽になると思うし、溜め込んでいると辛いだけだから」

 その言葉にフーゴは何も返さず、思い詰めたまま何かを考えて、困ったなと顔を向けた。

「ディオスさんはやっぱり優しいです」

「え?」

 突然何をと驚くディオスにフーゴは意を決して話した。

「実は、母さんが帰って来ないんです」

「俺昨日会ったけど」

「え!?」

「え?」

 話してまさかの言葉に驚くフーゴ。

 それは意味が分からずも釣られてディオスも驚きの声を出して呆けていると、フーゴが問い詰めた。

「ど、どこでですか!」

「待ってよフーゴ君!」

「待てません!どこで会ったんですか!」

「落ち着いて!」

 フーゴの事情を知らないディオスの背後から誰かが肩に手を乗せて後へと引き寄せ、代わりに引き寄せた者が前へと出た。

「声を荒げて私の従業員に問い詰めるとは穏やかではないな」

 ディオスとフーゴの間にモルテが怖い表紙を浮かべて割って入った。

 その怖さはフーゴが言葉を詰まらせて後ろへと数歩下がってしまうほどである。

 どうしてつららを怒鳴り付けていたモルテが割って入って来たのかと視線をずらすと、つららが店内の隅で小さく座り込んでいて懸命に励ますミクとそれを監視するマオクラフがおり、どうやら終わってのことだったのだと理解する。


 フーゴが何も言わないと見るとモルテは腕を組んでディオスに尋ねた。

「それで、どうしてこのようになった?」

「はい、カリーナとフーゴ君のお母さんが帰って来ないと」

「ふむ、いつからだ?」

「な、7日前から、です」

「え!?」

 ようやく落ち着いたのかモルテから尋ねられ答えたフーゴの言葉にようやく意味を理解したディオスが再び驚いた声を出した。

「なるほど……ディオスは昨日会ったのだな?」

「は、はい」

 確認のためにとモルテの言葉に動揺しているディオスはぎこちなく頷く。

 それを聴いてモルテはフーゴを見てじっくりと数秒考えた。

「フーゴ、今日は泊まっていくといい」

「え!?」

 モルテの突然出された提案にフーゴは驚いて声を出した。

 フーゴだけではない。ディオスとミク、マオクラフも、落ち込んでいるつららは気がついていないが何故と驚いている。

「よく見るとここ最近は食事をろくに取ってはいないだろう?おまけに休めてもいない」

「い、いえ、そんなことは……」

「体つきと顔、それに声も健全な者とは違う。怠さがあり力が入っていないだろう?」

「はい……」

 モルテの覇気に素直に認めたフーゴ。

 モルテの言葉に驚いて呆けていたディオスは最初に感じたフーゴのおかしさは母親が帰って来ないことに加えて体の調子もあったのかと理解する。

「ディオス、彼とミクをつれてリビングに行け。ファズマが作り置きしていた菓子が置いてあったはずだ。温かい食事ではないがそれを食べさせてやれ」

「は、はい」

 モルテの指示にディオスは慌ててミクに声をかけて、フーゴの手を引いて奥へと向かった。


 店内に死神だけになると一部始終を聞いていたマオクラフが馬の被り物を脱いで栗色の髪に整った顔を露にした。

「どういうつもりなんだモルテ?忙しい時に一般人を泊めるって?」

「ふむ、その話をする前に……いい加減に立ち直らんか馬鹿者!!」

「いたっ!?」

 話に加われとモルテの鉄拳がつららの頭に直撃した。

「……痛いね……モルテ、痛すぎよ!」

「いつまでも泣いているからだ」

「モルテが冷たすぎるよ!」

「愚痴もわめきも聞いている暇がないのだ。あるなら後で言え」

 訴えなど聞いていられるかとつららの気持ちを完全無視するモルテ。

 そのモルテの様子に数年の付き合いであるつららは不満を浮かべるがすぐに何事かがあったのだとすぐに引かせ、真顔となった。

「それで、どうしたの?」

「フーゴの母、マミューが行方不明のようだが、恐らく死んでいるだろう」

「理由は?」

「理由はない。ただの予想としか言えんが報告次第だろう」

 怪訝な表情を浮かべるつらら。

 ちょうどその時、店の扉が開いて慌てた様子でファズマが入って来た。

「店長、大変です!」

「どうした?リダン家の母親が7日前から行方不明となりバルダッサーレ商会に行ってないと」

「どうしてそれを!?」

 言うことをモルテに先回りされたファズマは驚いて目を丸くした。

「ああ……何となく見えてきた……」

 モルテの考え。それに理解し始めたマオクラフとつららは苦い表情を浮かべた。

 すると、店内に置かれている電話が鳴り、モルテが躊躇なく受話器を取った。

「私だ」

「連絡が誰かも言ってないのにいきなりその様に言うか?」

「勘だ」

 電話はこれまたタイミングよくアドルフからであった。

「勘って……まあいい。朝に頼まれていたことだが大変なことが分かった」

「マミューが7日前から行方不明でありバルダッサーレ商会に出入りもしていない。加えて今まで焼死の犠牲となった警官以外は倉庫街で働く者達であったのだろう?」

「おい、何故分かった!?」

「勘だ」

 電話越しで驚くアドルフをよそにモルテはややこしいことになったと顔をしかめた。

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