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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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朝帰り

 葬儀屋フネーラでは朝食の最中であった。

「あ、このスープおいしい!」

「うわー!すっごくおいしいよ!」

「な、言っただろ」

「よかったよ。お味噌汁にお肉っだからね。味見しておいしいって分かっても心配だったよ」

 ディオスとミクの反応に心配そうな表情を浮かべて伺っていたつららがホッと安心して息を吐いた。

 朝食に出された味噌汁にはつららの心配の元凶である豚肉が入っている。その他にはニンジン、キャベツ、ジャガイモ。いわゆる豚汁である。


 何故朝から豚汁かと言うと、アシュミスト風芳藍料理製作にはまっているファズマとつららが次に手を付けたのが味噌汁であっただけなのである。

 今までおかずに手を出してきたのであるが、残った米と味噌汁には手を付けない理由があった。

 米は芳藍とアシュミストでは水の味が違うからと早々に手をつけることを諦めている。残った味噌汁は具材を変えてトッピングを加えればいいからと後回しにされていたのである。

 そしてこの日、初めて味噌汁に手を出したのであるが、変わった食材を入れようと手にした食材が豚肉であり、いきなり使うことにしたのである。

 それをファズマから聞かされたらつららは大いに驚いた。それもそのはずで、味噌汁に魚を入れたことがあっても肉を入れたことがないからである。そもそも、芳藍では肉があまり流通していないこともあり肉料理の幅が狭い。

 味噌汁に合うのかどうか分からないと渋るつららにファズマはスープにソーセージやベーコンが入っているのだから合うと何かが違う気がする説得を行った。

 その際に調味料の味噌を届けに訪れた道具屋息子が、

「味噌って豚肉と合うんだよな」

 と言っていたことを伝えて無理矢理納得させた。

 その際に豚汁のことも話していたので見栄えもよくしようと作ったところ、豚肉の油と野菜の甘味に味噌の風味が違和感なく合わさる味噌汁が出来たのである。


 作っていた豚汁がおかわりしたとこともあり、朝食が終わるころには鍋からなくなってしまった。

「次は味噌漬けにしてみるか?」

「そうね……味噌タレは味噌にみりんね。それから……」

 すっかり豚肉と味噌の組合せにはまったファズマとつららが次はどんな料理にするかと話し合っていた。しばらく味噌料理が続きそうなのが目に浮かぶ。

「師匠帰って来ないね」

「何かあったのかな?」

 一方でディオスとミクはモルテが帰って来ないのはどうしてかと話していた。

「でも、新聞に事件の記事が載ってないってことは何もなかった……いや、防いだってことかな?」

「うん!師匠はすごいんだよ!」

 えっへんと胸を張ってモルテの凄さを自慢するミク。

 それにディオスは苦笑いをしながらも実際にそうだと思う。

 連日して起こっていた事件についての記事が載っていない。これはもしかしてら生霊リッチを倒したからではないのかと思う。


 すると、店の方からドアベルが鳴ったことにリビングにいた四人が会話を止めた。

「帰って来た!」

 一番に声を上げたのはミク。表情も相まって嬉しそうである。

「師匠、お帰り~!」

 そのまま店内へと走った(ダッシュ)

 その様子にリビングに残された三人が微笑ましいと思っていると、ミクに引きずられたモルテが現れた。

「お帰りねモルテ」

「ふむ。ファズマ、朝食はあるか?」

「全部食べてしまってありません」

「は?」

 予想外の一言にモルテがファズマの顔を凝視する。

 だが、その一言に驚いたのはモルテだけではない。

「ファズマ、それどういうこと?」

「店長の分も食っちまたってことだ」

「……え?」

 ディオスも尋ねてその理由に一瞬意味が分からず呆けてしまう。


 朝食を作った時にはモルテの分もちゃんと作っていたのである。

 それが、豚汁が美味しすぎてご飯が進み豚汁を食べ、またご飯を食べると全員が繰り返したことでモルテの分がなくなったのである。


「……何か簡単でいい。作れ」

「分かりました」

 朝食がないと知らされたモルテは自身の中で妥協をするとファズマに料理をつくれとキッチンへと向かわせた。

「それでモルテ、生霊は討伐したの?」

「いや、逃げられたようだが尻尾を持つ生霊であることは分かった」

 新聞を見てもしかしたらと思っていたのだが、まだ終っていないのだとモルテとつららの話を聞いていたディオスはがっかりした。

「尻尾、ね。どんな?」

「犬の様で犬ではないらしい」

「ふ~ん。複合された生霊か違う生き物ってことね。それで、あれは?」

「それはなかった」

「そう、よかったよ」

 モルテの意図を理解するつららに話はあっさりと終わった。

「そうすると、今日も行くのね」

「ああ」

 生霊を倒していない以上はまた倉庫街に行かなければならない。夜通しは辛いことなのだが、死神の力があるからモルテはそれを苦とは思わない。


「店長、今はこれで我慢してください」

 話に区切りが付くとファズマがキッチンからサンドイッチを乗せた皿をテーブルに置いた。

「ふむ」

 軽く焼かれたパンには二種類の具材が挟まれていた。量が少ないが妥協をして出されたのがこれであるから文句は言わない。

「ファズマ、今日は私が教会へ行く。昨日言ったことを頼むぞ」

「はい」

 もしかしたら今回の生霊討伐は手こずるかもしれない。そう思いながらモルテはサンドイッチに食いついた。

ちなみに、我が家の豚汁の具は豚肉、豆腐、ニンジン、里芋、ゴボウ、白菜、ネギと具沢山です。

作中でのキャベツは白菜の代わりに入れて美味しかったです。今回はアシュミスト風芳藍料理としましたが。

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