表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
207/854

限界

 聖ヴィターニリア教会では午前の火葬と埋葬まで終えたファズマは後は店に戻るだけというのに、何故か司祭のクロスビーに話があるからと来客室に通されると、そこにはトライアー葬儀店が引き受けた筈の仕事を行いに来たアンナがいた。

 アンナの向かいの椅子に座りながらファズマはいる理由を尋ねた。

「どうしてアンナがここにいるんだ?」

手伝い(ヘルプ)に決まってるじゃん。オスローさん運転出来ないからそれで」

「ああ、そういやそうだったな」

 トライアー葬儀店の社長であるガイウスが警察署へ行っているのならオスローが教会まで車を運転することは出来ない。そもそも不可能である。

 それでガイウスがチャフスキー葬儀商に手伝いを寄越して欲しいと頼んだのだと理解するファズマ。

「しかし、いつも思うがいい加減に運転出来る奴を雇えってんだ。日雇いでもなんでもよ。こっちのこともあるんだからよ」

「本当だね」

 トライアー葬儀店の人員不足に嘆く二人。

「それに、火葬なんて久しぶりだよ。ガイウスさんからの手伝いがないとないから」

「そういや、富裕街は火事とかねえのか?」

「記憶している限りはないかな?」

「ねえのか、意外だな」

「そう?そっちは?」

「あるな。店に住んでしばらくして火事で死んでいるし、大虐殺の時に何人か火葬でやったらな」

「へ~、そうなんだ」

 互いの話しに意外と思う。住む所が違えば事情も違うと言うが、火葬事情もここまで違うとは思っていなかった。

「でも、火事がないのが一番いいよ」

「だな」

 それでも火事が起きないことがいいと結論を付けた。


 補足ながら、火事で一番恐ろしいのは焼死よりも煙による酸欠を起こす窒息死である。

 火が燃える時の煙には有毒ガスが含まれており、それを吸うことで酸欠を起こして意識を失ってしまう。そして、気づかないまま火に焼かれて亡くなってしまうのである。


 そんな話をしていると、ファズマが疑問を感じた。

「そういや、まだみてえだが早く来たんじゃねえか?」

「時間通りだよ。ただ、お客さんがまだ来てないとかで待ったかけてるの」

「はぁ?あり得ねえな」

「遺族の人みたいだから仕方ないよ」

「遺族でも遅れるってことねえだろ?何で遅れることになってんだ!」

「知らないよ!案外遺産相続とか後継者問題とかその辺じゃないの?」

「任されてんだろうこの葬儀!把握しておけよ!それに、地味に現実的なんだが、火葬するのって歳いってんのか?」

「えっと、確か50くらいだったかな?結構いってるね」

 けろっとどこか笑っている様子のアンナに先程の話と相まって呆れたファズマが溜め息をついた。

「それと火葬の準備かな?そっちはすぐにでも終わるみたいだけど丁度いいかなって?」

「あのな……」

 そういえば火葬場の準備が終わっていなかったことに気がつく。それでも掃除だけだからアンナが言ったようにそれほど時間もかからないだろうと思う。

 そうすると、両方の事情が合わさったのなら仕方ないことかもという気持ちになり、それ以上は追及はしないでおくことにした。

(店長に言ったら怒られるな)

 心の中で絶対にこれについてモルテに言わないと固く決めた。


 そんなファズマの決意など知らずにアンナが難しい顔をした。

「ねえ、もしかしたら増えるかもしれないんだよね?」

「なるだろうな。火葬も時間がかかるしこっちの準備ってのもあるからな」

「やっぱりか~……」

 今回起きている生霊の仕業は葬儀を行う者に大きな打撃を与えている。

 葬儀業では棺も準備しているのだが、その棺の入手が非常に苦労をしている。製作をしている所から書いとるか自分で作るか。どちらも時間がかかるためにすぐにとはいかない。

 しかも、犠牲者が複数である為に火葬の時間が被らないように調整を行っている。

 火葬を行う教会側も火を起こす為の燃料、木薪や木炭が使われているのだが、元々火葬など行うことはそれほど無いために数が少ない。こちらも至急の補充が要求されるだろうが、清掃と費用と連日人力が使われているのである。

 葬式を依頼する側はそれら全てを負担していると言っていい。土葬よりも幾らか高く一般的でない火葬は戸惑わせてしまうものである。

 全員が今回の事件に振り回されていると言っていい。

「……ところで、ファズマは現れた生霊(リッチ)どう思う?」

「どうって、おかしいってくらいだな」

「そっか。やっぱりそうなんだ」

 思っていた通りの答えにアンナはうんざりと溜め息をついた。


 ファズマはそれを呆れた様に見ていると扉が開いた。

「お待たせして申し訳ございません」

 クロスビーは来客室に入ると扉を閉めて二人の近くの椅子にゆっくりと座った。

「お待たせして申し訳ございません。それとアンナさん、もう少しで準備が整いますのでお待ちを」

「はい」

「それで、話って何ですか?」

 ファズマの言葉にクロスビーは抱えている問題を口にした。

「今回の焼死事件、お二人は今後も増えるとお思いですか?」

「増えると思うな」

 クロスビーの言葉に先程言ったことと同じことを言う。

「実は、このままでは火葬の処理が追いつかないのです」

「それは、燃料の問題ですか?」

「時間ですね。知っての通り火葬は時間がかかります。もし増えるようであれば一日で全てを行うことは出来ません」

 教会側の問題にファズマとアンナが難しい顔を浮かべた。

「事情は分かりましたけど、こちらの保管にも限りがありますよ」

「それはこちらでも預かりましょう」

「それは俺達だけで決める訳にはいかないので店長に話してからでいいですか?」

「私も父さん……店主に聞いてからでないと……」

「構いません。こちらの事情も理解をしてくれればそれで」

 クロスビーの申し出に話をそれぞれの責任者に通すと約束したファズマとアンナ。

 生霊が起こした事件は確実に葬儀側を切羽詰まらせようとしていた。

今年の更新は今日で終わりです。

また来年、1月1日に。……連続投稿できるかな?

よいお年を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ