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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
202/854

戻って来て……

 警察署で霊安室に置かれていた焼死体をモルテとガイウスがそれぞれ保管するために店へと運び込んだ。

 葬式についてはこの後に店へと訪れる遺族に話すこととなっており、その際に焼死体であるから埋葬は土葬ではなく火葬であることを伝えることとなる。

 火葬と聞かされて驚く顔を思い浮かぶが、遺体の状態から土葬では不可能であることを伝えないといけないことであり、それを伝えるのはモルテの役割となっている。


 だから、一緒に焼死体を引き取りに行ったディオスはモルテが店内で埋葬について遺族に話している間はやることがなくなり、リビングのテーブルに倒れ込んでいた。

「どうしたのディオス君?帰って来るなり倒れ込んで。遺体そんなに辛かった?」

「辛かったって言えば辛いって言うか……」

 心配して尋ねるつららだが、ファズマが事情を察して呆れた様子を浮かべた。

「気にしなくていいから。これはいつものことだから」

「いつもの?」

「そう、死神嫌悪病」

「ちょっ、確かに死神嫌いだけど遺体も酷かったんだから!」

 ファズマの茶化しにディオスが慌てて起き上がった。


 ディオスの言葉はその通りである。

 霊安室に置かれていた焼死体には皮膚がなく、筋肉が露出している状態である。

 そんな形で人間の肉付きを見ると思っていなかったディオスは驚きと気持ち悪さから後退りしただけで悲鳴を上げたり吐いたりすることがなかった。

 それでも仕事だからと遺体を運び出す際に布越しであったが触れた時は今までの遺体とは違う何とも言えない感触に言葉が出なかった。


 あの時の感触は今でも思い出すと背筋に震えが走る。だからディオスは声に力を入れて慌てて言ったのだが、

「死神嫌悪病って何?」

「ディオスは死神が嫌いなんだ」

 先程聞かされた言葉の意味につららが驚きの表情を浮かべた。

「ディオス君、弟子じゃないの?」

「死神のことを知る一般人だな」

「そうなの?よくモルテ働くこと許してくれたね」

「ああ、それは色々とあったからだ。ディオスも店長が死神だって知った上で働いているんだからな」

「そうなのね」

 ファズマとつららが呑気に自分のことを話す様子にディオスはジト目で見ていた。

「話を聞いて!焼死体があんな風だったなんて思わなかったんだけど」

「見たの?」

「顔の確認って言われて見た……」

「大丈夫だった?」

「正直平気ではないです」

 つららの心配に素直に答えるディオスだが、精神が一番磨り減っている理由は死神達の密談である。それに加えて遺体の確認である。初めての焼死体の確認だけならこれ程に疲れることはなかっただろうと思うと憂鬱である。しかも、尋ねて来たのがモルテと同じ死神のつららである。そこまで素直に教えると気を悪くするから言わないでおく。

「しかし、事件で焼死体っては初めてだな」

「え?」

「そう言えば、遺体って外にあったでいいの?」

「そうだろうな。だが、事件ならバレねえように中か郊外でやるよな?」

「ええ。それに、事件で焼くのは火の気がある場所が多いね」

 またも呑気に焼死体があった場所がおかしいと話すファズマとつららにディオスが待ったをかけた。

「ちょと待った!ファズマ、事件でってどう言うこと?それと焼死体初めてじゃないの?」

「誰が初めてだって言った?火事で遺体が出ることなんてあるんだ。そん時に見てんだよ」

「ええぇ!?」

「何でそこで驚くんだよ!」

 火事と言う状況を考えていなかったディオスにファズマが呆れながら突っ込んだ。

「焼死体なんて火事の時くらいしか見ないものね」

 つららも多少呆れてはいたが、それでも現在の状況を考えるとこれは仕方のないことなのではと思う。


「そういや、まだ見てないが、遺体はどんな感じだった?」

「自分で見に行けばいいじゃないか」

 ファズマの質問に嫌な予感を感じたディオスは突き放す様に答えた。だが、同時に逃げられない気もしている。

「あのな、見に行くってなれば向こうに行かねえといけねんだ。しかも、店長が客相手に話してる時に行けるわけねえだろ。実際に見たディオスがここにいるんだから見に行く必要ねえだろ」

 やっぱり逃げられないと溜め息をついてディオスは姿勢を正した。

「外傷はなく燃やされただけだった」

 精神が磨り減る前に聞かされたリーヴィオの話を要約して言うと、今度はつららが険しい表情で尋ねた。

「もしかして、生霊(リッチ)仕業?」

 一番逃げたいけれども逃げ出せない話がとうとう来てしまったとディオスは内心で嫌気が差したが、一つ頷いた。

「はい」

 こう言う時には素直に素早くと答えたディオスだが、それにファズマとつららが難しい表情を浮かべたことに気がついた。

「あの?」

「ああ、ごめんね。ちょっと困ったなって思ってね」

「何にですか?」

「生霊がどんなものかなって」

「どんなって……?」

 そう言って、ディオスは死神達が生霊について話すおぼろげな記憶の一つを思い出した。

(確か、火を扱うのが多いって言ってたっけ?)

 焼死体の状況ではどの様な生霊か絞れないし決められないということを思い出した。

「もう少し何かあったらいいんだけどね」

 今はどうしようもないと諦めつららは考えるのを止めた。

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