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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
200/854

来客室で

 モルテが運転する車は遺体の引き取り先であるアシュミスト警察署へ向けて走っていた。

「店長、聞きたいことがあるんですがいいですか?」

「何だ?」

「今回引き取りが焼死体ですが、この場合の葬式ってどうなるんですか?」

 今まで幾つもの死体をモルテとファズマと共に引き取り、葬式の手筈も行ってきたが、始めての焼死体である。どうやって焼死体を処置して葬式を行うのか分からない。

「ふむ、焼死体はエンバーミングを施せないのでな。出来ることならすぐに火葬を行い埋葬をする」

「火葬をするんですか?」

「ディオスは知らんかも知れんが、エンバーミングを施せない遺体は腐敗を防ぐために火葬を行うのだ。その為の場所が教会敷地に置かれている」

 火葬を行うことに驚くディオス。

 だが、驚く点は火葬ではなくエンバーミングを施せないという点である。

「焼死体は二つに別けられる。皮膚が焼かれ筋肉が露出している状態か炭のように黒くなっているかのどちらかだ。どちらも人間の形を残している」

「全部燃えてしまうわけではないんですか?」

「人間の体の特徴でな、全て燃えないようになっているのだ」

 加えて全て燃えてしまったら困るとモルテは付け加えた。

 それを聞いてディオスは引き取りに行く焼死体の特徴は前者であると考える。

「だけど、少し意外というか……アシュミストでも火葬って行われているんですね」

「遺体の損傷が激しい場合や希望によってしか行わないからな。これについてはあまり知られていないのだから知らくて当然だ」


 火葬場があるものなのだと何故か納得してしまうが、ここで疑問が生まれた。

「あれ?損傷が激しいってことは、カリーナもそうでしたよね?」

 カリーナはディオスの亡くなった学友である。

 生霊(リッチ)である愚者(ハーレクイーン)に目をつけられ殺されたカリーナの死因は飛び降りたことによる全身打撲。それにより死体は悲惨なことになっていたのだが、葬式は火葬ではなく土葬であった。

「あれはまだエンバーミングを施せる段階だったのだ。だから土葬ですませられたのだ。早く埋葬をしなければならないという条件が付くがな」

「そうだったんですか」

 カリーナが土葬で埋葬出来たことの理由に納得したディオス。


 土葬を可能に出来た理由を付け加えるなら、カリーナの死因を確認したリーヴィオとトライアー葬儀店のオスローの努力があったと言える。

 リーヴィオは死因確認後に悲惨であった遺体を時間が許す限り処置を施し、オスローはそれを引き継ぐ形で細かい所まで行い、カリーナの家族に引き渡すまで続けたのである。

 それでも遺体の状態は悲惨であることに代わりがない為に葬式の参列者が見ることが出来ないように布を被せられていた。

 あくまで二人が行ったのは土葬を可能にすることだけであり、見せる為ではない。


 疑問について解消をすると、車は警察署の裏側の駐車場、建物に比較的近い場所に停められた。

「着いたぞ」

 モルテに促されディオスは車から降りた。

 その隣にはもう一台の見慣れた車が停められていた。

「ガイウスも呼ばれているのか」

 その車を見てモルテは同じ理由で訪れた先客を思うと表の入り口へと歩き出した。


 警察署内部に入るとすぐに受付へと向かった。警察嫌いのモルテである。そこに長く居たくないと思うのが当然であるとしか言えない。

 ならば来なければいいのではと思うかもしれないがそういかない理由も時にあるわけである。

「連絡を受けた葬儀屋フネーラの者だ」

「葬儀屋フネーラですね、お待ちしておりました。担当者をお呼びいたしますのでお待ちください」

 そう言って受け付けは後ろに控えている者に言伝てをして走らせた。


 モルテが少しだけ不満気な表情を浮かべる一方でディオスは内部を見回していた。

(前来た時よりはよくなったかな?)

 それは警察署で働く警官の様子である。

 ファズマと同行で何度か警察署へ訪れていたのだが、2ヶ月程前から警官が働きすぎの為かどこかやつれたような印象を感じていたのだ。今でもそれは雰囲気から変わっていないのだろうが、無理せず出来る範囲でということから前よりも少しだけ余裕を持っているように思われる。


 すると、モルテとディオスに担当者が現れた。

「葬儀屋フネーラの方で間違いありませんでしょうか?」

「そうだが」

 不機嫌な様子で担当者に睨み付けるモルテ。

 せっかく丁寧に聞いてくれたのにと思いながらもディオスも次の行動に移す準備に入る。

「どうぞこちらへ」

 そう言って担当者はモルテとディオスを焼死体が保管してある霊安室へ……と思われたが何故か案内されたのは来客室であった。

「アドルフ警部がお話があるとのことです」

 仕事で霊安室までの道と場所を覚えているから何故と尋ねる前に担当者が答えた。

「……そうか」

 担当者の言葉からそう言うことかとモルテは納得し、ディオスは意味が分からずそわそわしていた。

「失礼します」

 来客室の扉を担当者はノックして開けた。

「来たか」

「おぉ~う、先にぃいるぞぉ」

 来客室には既にアドルフとガイウスがいた。

 中に入ってディオスはすぐに疑問を感じた。

「あれ?アドルフさん痩せましたか?」

「そう言うのならそうなんだろうな」

 前見た時から随分と痩せた印象を感じて言われたディオスの言葉にアドルフはガックリと肩を落とした。

「すまんが少し長くなる。呼びに行くまで待っていてくれ」

「はい。失礼します」

 アドルフの言葉を聞いて担当者は扉を締めた。

 部屋の周りに誰もいないことの気配を確かめてモルテが口を開いた。

「さて、この様な場を準備したからには話があるのだろう?」

「ああ」

 全くその通りだとアドルフは頷いた。

「聞かせてもらおうではないか。焼死体の原因について」

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