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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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酒場にて

 広場に近い宿泊街から程近い場所に一件の酒場バーが明かりを付けて営業をしていた。

「エノテカーナ」と小さな看板がかけられた店。時刻は既に深夜を回っているのだが酒場にしては珍しく店内に客はいない。そうした中で店の扉が呼び鈴を鳴らしながら開いた。

「いらっしゃい」

 来店してきた常連に酒場のマスターが声をかける。

 常連がカウンターの席に座ったのを見計らいマスターは尋ねた。

「ご注文は?」

「コーヒー・ラム・フロート」

「かしこまりました」

 その常連、モルテの注文にマスターは頭を下げると準備に取りかかった。コーヒー好きのモルテが要求してメニューに加えたカクテルを。

 再び呼び鈴が鳴り扉が開いた。

「いらっしゃい」

 マスターか新たな来客に声をかけた。

 新たな来客、常連はマスターに会釈をするとモルテの隣に座った。

「ご注文は?」

「シャンディ・ガフ」

「かしこまりました」

 常連、アドルフの注文にマスターはお湯を沸かしている合間をぬって作り始めた。

 アドルフはかけていた眼鏡を取るとモルテに話しかけた。

「あの坊主を雇ったんだな」

「ああ」

「意外と思っている。お前は誰も雇わないと言っていたのに」

「そのつもりだったがおもしろくてつい雇ってしまった」

「おもしろいって……」

 新たな従業員ディオスを雇った理由を聞いてアドルフは呆れた。

「だが、脆い」

「脆い?」

 次いで出たモルテの予想外の言葉にアドルフは聞き返した。

「優しすぎるのだよ。肝が据わっており我慢もできる。それはいい。だが、それら全部をひっくるめてあの優しさは己の覚悟を鈍らせる」

「なるほどな」

 モルテの言葉にアドルフは納得をした。数回しか顔を合わせた事はないがアドルフの目から見てもディオスはどこか危うさを感じていた。

 その時、二人のカウンターに注文したカクテルが置かれた。

「コーヒー・ラム・フロートとシャンディ・ガフです」

 マスターの言葉に二人はカクテルが入っている器を持った。モルテはカクテルに使用されているコーヒーの匂いを嗅ぎ、アドルフは器を自分に近い所へと引き寄せた。

 そして、モルテは持ってきていた袋をマスターに渡した。

「どうせ食いきれんからな」

 そう言ってマスターは袋、牛肉が入っている袋を受け取った。

「これは、明日のメインはビーフシチューだな」

 そう言って店の奥へと姿を消した。

 それに思い出したようにアドルフが声を上げた。

「そうだ、あの牛の肉、忘れているわけじゃないだろうな?」

「忘れてはいない。車に積んである。」

 疑う様子で問いかけるアドルフにモルテは呆れたように言った。

「忘れていたら怒鳴っていたぞ。あの騒動が広まらないように情報規制と後始末に苦労をしたんだ。相応の報酬がなくては困る」

「安心しろ。数日は牛肉尽くしでいられるだけの量を持ってきている。そもそも、四人で食べきれる量ではない」

 そう言って話を終えるモルテ。


 牛騒動は呆気ない幕切れであった。

 興奮した牛が裏通りを抜けようとしたその時、どこからともなく落ちてきた炎を纏った何かが牛の頭に当たり脳震盪を起こさせた。おぼつかない足取りとなった正にその時、一台の車が牛と衝突。吹き飛ばされた牛は直後に二台の車に跳ねられてその命を終えた。

 仕事中だったが一度自宅に帰宅途中で偶然その場に居合わせたアドルフは牛が走って来た道に視線を向けると遠くにいたミクがこちらに向かって走って来ているのを見て直感でモルテが関わっていること、同時にこれはまずいとあの手この手で周囲を誤魔化す為に行動を起こした。その途中で牛を追いかけて疲れはててしまったミクから事情を聞く事となり、知人数名を呼び出し共に牛を葬儀屋フネーラまで運び込んで店内に放り投げ説教をした。そして、騒動を治める代わりに牛肉を一部もらうと手を打ち情報規制と後始末を行った。

 後始末に至っては車の所有者にはそこまで手が回らなかった為に車の修理は自費でやってくれと思ったり、牛肉の要求に至ってはアドルフが自分には2倍と言って知人から突っ込まれたのはここだけのはなしである。

 なお、ディオスはスレ違いによりこのやり取りは知らない。


 モルテはカクテルを一口飲むと本題を口に出した。

「真相はどうなっている?」

「恐らく、お前が考えている通りだ」

 モルテの言葉にアドルフはレオーネ家を没落させた一味と協力者の背後関係の説明を始めた。


 レオーネ家を没落に追い込んだのはライバル関係にあったガッロ家が関わっていた。

 今から二年半前に財閥の当主でディオスの父であるグランディオが新たな事業に手を伸ばしたのをよく思っていなかったガッロ家は邪魔をするために表面上は賛同の意を見せてグランディオに接近。もちろんライバル関係であるグランディオもガッロ家が近づいてきたことには警戒を示したようだが確実な手腕でサポートをするガッロ家に気をよくしたらしい。その裏でガッロ家は前々から協力関係にあり表面は金貸しを営む密売組織と淡々とレオーネ家を落とす準備をとりかかっていた。

 そして、準備が整いグランディオに巨額の資金提供の話を聞かせ釣ることに成功。倍の利子が付く事と事を気にせず契約に成功させると密売組織の人員を使い内外から事件を起こしグランディオが考えていた予定を大幅に狂わせ破滅へと向かわせた。

 密売組織は利子とガッロからもらった謝礼金で密売の手を広げた。その中には人身売買もあったのだがこれらの行動は裏の世界で非常に目立つものであった。もちろん、その余波が表の世界にも出ていたのだが警察のメオックスと呼ばれる警部に賄賂を渡していた為に情報を規制されたり踏みにじられたりして世間では持ち上がらず、警察に届くこともなかった。


 一通り説明を終えたアドルフは溜め息をついた。

「まったく、警察の恥だ。メオックスは前々からよくない噂が上がっていたがあそこまで腐っていたとは思わなかった」

「それと、せっかく回復してきている警察の信用がまた下がるところだった。だろう?」

 アドルフの愚直にモルテは意地悪な笑みを浮かべるとカクテルを飲んだ。

「今回は最小限に抑えられた。この件に関わっていた奴らはガッロやメオックスも入れて逮捕した。今頃は留置所で騒ぎ立てている頃だ。モルテがこの件を持ってこなければメオックスのせいで警察は再び信用を失墜させていた。感謝しているくらいだ」

 アドルフはモルテに感謝を述べるとカクテルを数口飲んだ。

「話を変えるが、あの坊主を雇うと言うことは弟子にすると捉えていいのか?」

「弟子になるかどうかはあいつが決める事だ。私は従業員として雇っただけた」

 モルテの言葉にアドルフは頭を抱えた。

「冗談だな。そんな気全くないくせに。死神」

 アドルフの言葉にモルテは不敵な笑みを浮かべた。

やっと死神という単語を書けた……ここまで引っ張ってスミマセン

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