葬儀屋の朝食風景
日が昇り新たな一日が始まるのは変わらない事である。
大都市アシュミストの大通りから少し裏通りを行った所に一件のこじんまりとした建物が存在している。
「葬儀屋フネーラ」と看板が掛けられている葬儀屋。
店兼家の食卓の席で右目の眼帯を赤髪の前髪で隠した葬儀屋店長モルテ・アストロ・ケセドが新聞を読んでいた。
新聞にはこのような記事が載せられていた。
昨夜未明、倉庫街において男性の死体を巡回中の警官が発見。近くにいた男性に事情を聴こうとしたところ抵抗して逃走を試みるも警官が発砲。その後、死亡が確認された。―――――
「新聞、何て書いてますか?」
キッチンからモルテに向けて尋ねる声が聞こえた。
「昨夜見に行った場所について書かれていた。一応名前が載っているから忠告は聞いたようだ」
「聞いたと言うより脅しですよね?」
「最後通告だ」
「うわぁ~」
朝食をお盆に乗せてキッチンから出て来たのは銀髪の住込み青年従業員ファズマ・ジーアがモルテの言葉に絶句しながら出来たばかりの朝食をテーブルに並べた。
「魚か?」
「はい。鰯のフライサンドとワゾー鳥のソテーです」
「ふむ」
「それから、野菜とパスタのサラダです」
「ほう」
朝食のメニューについての説明にモルテは頷いて納得した。朝からかなり量が多く脂っこいが気にしていない。
「おはよぉししょぉ~ふぁず~」
食卓にまだ眠そうな声が響いた。
「おはようミク」
ファズマが声をかけた相手はショートカットの金髪少女ミク・エルジムがパジャマ姿で眠い目を擦りながら入って来た。
「ミク、起きるのが遅い」
「ししょぉが遅くまでつれて歩いたからぁ~」
「大目に見たが遅い」
「でも朝ごはんにまにあったぁ」
「ファズマの準備が遅かったからだ」
「ししょぉが手のこんだ料理たのむからぁ~」
「朝食は1日の源だからな。しっかり食べなければならない」
「俺としては野菜を使った料理をもっと出したいんだけど……」
そんな事を言いながらもファズマとミクも食卓の席に着いた。
モルテが朝に手の込んだ肉や魚を頼むのは仕事がらどうしても殺生物を控えたくなる時があったからである。現在は殆どないが昔の経験から食べられる時に食べる、気分がいい朝なら食べられるという考えで朝食は多く食べるようにしている。
モルテは胸に手を当てた。
「今日の粮をくださるもの達に感謝を」
モルテの言葉にファズマとミクも同じように胸に手を当てて祈りを捧げた。
朝食の始まりは祈りから始まる。全ての生き物は何らかの命を得て生きている。生きる粮をくれる命に対して感謝し、それを忘れないように祈りを捧げる。
「では食べよう」
祈りが終わるとモルテの言葉を合図に朝食が始まった。
「むぅ~……」
ミクが鰯のフライサンドに噛みつきながら唸った。
「朝からおおい~」
「フライサンドだけは食べきれ。残したら鰯に失礼だ」
「店長、それ拷問……」
寝起きでなかなか食欲が湧かないミクの愚痴に食べきれと言うモルテに突っ込むファズマ。
朝食を準備したファズマであるがこれでも朝に弱いミク用に量を減らしてはいる。これでも量が多く残すようであるなら考えなければならない。そして、改めてミクが朝でも食べられるメニューを考えようと決意した。
「コーヒーは?」
「朝食食べた後で入れます」
そして、コーヒーをねだるモルテの言葉をかわしてファズマは食事を続けた。
これが、「葬儀屋フネーラ」の朝食風景である。