優しいのは?
火炙りについての説明があります。
苦手な方や読みたくない方は注意をお願いします。
電話が鳴る音にモルテは渋々と立ち上がった。
「一体誰だ?」
文句を言いながらも電話が置かれている店内へと向かうモルテを見送ってディオスは先程の質問の続きをした。
「あの、焼くことが酷い殺し方ってどういうことですか?」
いまいち焼くことが酷いとは繋がらないディオスの言葉につららは真剣な表情を浮かべて逆に問うた。
「ディオス君は人を殺す方法で一番酷いのが何だと思う?」
「え?それは刃物で刺したり切ったりするのが……」
「それはね、一番優しいの」
「え!?」
常識で一番酷い殺し方と思っていた物が実は優しいと聞かされたディオスは信じられないと驚いた。
「これはモルテから聞いたのだけどね、刃物で斬られたり、処刑で首を瞬時に切断するのはね、痛みもなくすぐに終わる方法だから一番優しいって言われてるよ」
「しょ、処刑と殺害方法とは別じゃないんですか!?」
「そうかもしれないけど、それが次でも同じこと言える?」
真剣な表情なのに何故か生き生きと話始めたつららにディオスは引きっぱなしであり、ファズマは殺傷と焼きの違いがどれだけ違うのか話を聞く前に納得していたが、答え合わせの為に静かに聞き入った。
「人を生きたまま燃やすってどう思う?」
「それは熱いんじゃ……」
「そう。熱くてその痛みがずっと体に纏まりついて煙で息が出来ないね。人を生きたまま燃やすってことは、死ぬまで苦しませる殺し方なの」
「うわ……」
それは確かに殺傷よりも酷い殺し方であると納得せざるを得ない。
これでは処刑であろうが殺害方法であろうが生きている上で行われたのなら同じである。
もううんざりだというディオスの様子をファズマは横目でしっかりと見た。
ファズマはモルテから色々と聞かされた話や経験から考えてつららが話したことと合っていた。加えて葬儀屋の仕事や死神の弟子として色々な出来事や生霊を見ている為にディオスほどうんざりとしていない。
「もちろん、運がよかったら生き残れるかもしれないけどね、火傷の痛みに耐えないといけないから……」
「もういいです!十分酷いって分かりましたから!!」
まだ続けようとするつららにディオスはもう聞きたくないと言葉と身振りで止めた。
話を止められたつららは少しだけ不満そうであったがディオスの必死の様子から渋々諦めた。
補足ながら、人を燃やす処刑法である火炙りは宗教においてもっとも重罪人に施される処刑法である。
炎は聖なるものであり邪を払うとも言われている。そういった意味で火炙りは過去において魔女狩りでもっとも使われた処刑法であり、現代においても絵や話しで語り継がれているのだが、火炙りが最上位の処刑法とまでは知らされていない。
ディオスがげっそりしていると、モルテがリビングへと戻って来た。
「お帰りモルテ。それで誰からだったの?」
「アドルからだ。例の焼死体の身元が判明してらしく引き取りに来てくれとのことだ」
「もう分かったんね」
以外にも早く身元が判明したことに驚くつらら。だが、モルテの表情は喜びよりも複雑な様子である。
「いや、分かったのは一人だけだ。もう一人の遺体は恐らく身元不明のまま埋葬するしかないだろうから呼んだのだろう」
「そうなの?だけども一人分かってよかったよ」
恐らく身元不明の遺体を回されるだろうと思うモルテだが、つららは判明しただけいいと言う。
「それでどうしますか店長?」
引き取りの電話が来た以上は引き取りにいかなければならないとファズマが今後の方針をモルテに尋ねた。
「私とディオスで遺体を引き取りに行く」
「え!?」
「何だ、不満か?」
「い、いえ……」
モルテの言葉に驚いたディオスであるがすぐに口を閉ざした。
焼死体は今まで見てきた遺体と全く違うことをディオスは感じていた為に口を閉じてからも複雑な気持ちを抱いていた。
モルテとしてはディオスに今のうちに身元が判明しにくい遺体の状態に慣れさせる必要があると考えて同行させることとしたのだ。
「ファズマとつららは開店の準備と営業を頼む」
「はい」
「分かったよ」
ファズマとつららはモルテへの不満は一切なく方針を受け入れた。
「ふむ。では始めてくれ」
モルテの一声で全員が割り当てられたものへと動き出した。




