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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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発音

 それからというもの、ただの好奇心の質問から一変して埋葬の話が続くこととなってしまった。

 モルテの口から他の葬法について出るのだが、何故かモルテが生き生きと話しており止めることが出来なくなった。加えて、つららが興味があると言うように質問や感想を口にしているから更に止めることが出来なくなってしまった。

 葬法について静かに聞くはめとなってしまったディオス、ファズマ、ミクの三人は屍蝋のイメージに気分を悪くしてしまった為に他の葬法を聞くのが辛くなっていた。

 どうしてこんなにも話が続くのかときっかけを思い出し、ファズマとミクがディオスに視線を向けて睨み付けた。

 向けられたディオスはこんなことになるなど思っていなかったと視線を二人に向け、モルテとつららが葬法で盛り上がる中で三人は視線合戦を繰り広げた。


 しばらくして、何とかしろというファズマとミクの幾度もの視線にディオスは完全に折れた。

 話を脱線させたとか切っ掛けの責任を取るとかそういうのではない。いつもモルテが話している最中に質問や意見をするのがディオスであり、今回もそれを無理矢理求められたのである。


 モルテとつららの話を逸らさせる機会を伺い、ディオスは無理矢理割って入った。

「すみません、もう一つツララさんに聞きたいことがあるんですが……」

「何かなディオス君?」

 恐る恐る言ってツララが聞き返してくれたことにディオスは勿論ファズマとミクも内心で意識を変えてくれたと喜んだ。モルテが少しだけ不満そうなのを見て見ぬふりをして。

「昨日から気になっていたんですが、ツララさんの話し方に訛りって言うんですか?独特の発音(アクセント)がある気がするんですが?」

 ディオスは葬法で聞きそびれたもう一つの質問、ツララの話し方について尋ねた。

 話し方について気にさわるのではとも悩んでいたが、やはり聞くたびに気になってしまった。しかも、葬法についてこれ以上は聞きたくないからとこの話を持ち出したのだ。

 ディオスの質問に呆けていたつららが突然短く笑い出した。

「いつ聞いて来るかなって思ってたけど今なのね」

「え?」

 どこか予想していたような言葉に今度はディオスが呆けた。

「この言葉は芳藍(ほうらん)の桜花を中心にして使われてる言葉よ。他の所ならもう少し違うよ」

「芳藍では一つの話し方ではないんですか?」

「うん。同じ言葉で話しているのに芳藍は場所によって話し方が違うの」

 不思議だけれどもそれほど不思議ではないものなのだと納得して言う。


 この世界の言葉は一つの言語しか存在していない。

 ただし、国や地方によっては発音の違いや訛りが存在するだけ。意味が全く違う言葉があるということはない。


 話し方が違うと言う驚きに先程まで少しだけ不機嫌を張り付けていたモルテが追い討ちをかけた。

「シュミランとて他の国へ行けば訛りや発音の違いがあると思う国があるのだぞ」

「そうなんですか?」

「そうね。あたしが聞いても発音が違うね」

 現在休止中の流でありいくつもの国を旅していたモルテの言葉につららが同意した。

「例えばそうね……葬儀屋。ここじゃ言い方が葬儀屋(そうぎや)だけど、桜花は葬儀屋(そおぎや)って言うね」

「違う……って、こっちの発音出来るんですか!?」

 発音の違いを教えたつららだが、むしろディオスはつららが両国の発音が出来ることに驚いた。

「頑張って覚えたの。ここに来た時はそれはもう訛りが酷いってファズマ君とミクちゃんから散々言われて、モルテにも教えられて必死にこっちの発音覚えたの」

 つららの苦労の告白にファズマとミクが首を縦に振って頷いた。

 それを見たディオスが内心で二人が訛りや発音の違いを知っていたのだと知って、知らなかった自分が惨めに感じた。

「だが、桜花での話し方までは変わっていないがな」

「それ抜きにしたら何が残るのよ?」

 モルテの皮肉につららが苦笑いをしながら自国の話し方がどれだけ大切にしているのか見せた。


 ディオスをチラリと見て、ものすごく意外だったのかミクが口を開いた。

「だけどビックリだね」

「何がだ?」

「ディオが話し方の違いを知らなかったこと」

「俺だって分からないことくらいあるよ」

 ミクの言葉に先程まで惨めに感じていたディオスが拗ねて言った。


 ミクから見てディオスの印象は死神のこと意外は何でも分かるお兄ーさんである。

 だから、他国での話し方が違うことを知らなかったのが意外に思っていたのだ。


「さて、そろそろ休憩は終わりだ。少しばかり話しすぎたようだがな」

 雰囲気的に話の区切りがいいだろうとモルテが休憩の終わりを言う。

(店長が一番話してたんじゃ……)

(店長が話しすぎたんだ)

 モルテの言葉にディオスとファズマが内心で休憩が長くなったのはモルテ出はないかと思うが口には出さずに堪える。

「師匠が一番話してたよね」

 が、そんな二人の気持ちなど全く無視してモルテに言ったミクにディオスとファズマは驚いて心臓が飛び出しそうになり、言われたモルテ本人は聞こえないと無視をし、その様子につららが微笑ましく見ていた。


 かくして、新店舗での初日は少しだけ遅いスタートとなった。

世界に言語が一つだけしかないのには意味があります。

また、文字は国によって複数あります。


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