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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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埋葬事情

埋葬方法についての写生があります。

 引っ越し翌日から葬儀屋フネーラは営業再開を始めることとなったのを朝食の席で知らされた。

「早くありませんか?」

「いつ仕事が入ってくるか分からんからな。早いに越したことはない」

「相変わらずモルテは仕事大事ね」

「亡くなった者に失礼をしたくないだけだ」

 モルテなりの拘りにつららは苦笑いを浮かべた。



 朝食後の軽い休憩でディオスは向かいに座っているつららに尋ねた。

「そう言えば、ツララさんは何の仕事をしているんですか?」

 昨日は引っ越し中に起きた面白話しや最近の出来事何かを話していたためにつらら本人のことを全く知らなかったことを思い出した。

「あたしはモルテと同じ葬儀を営む仕事をしてるよ」

「葬儀をですか?」

「そう。こっちとは少し違うんだけどね」

 同じ葬儀業と聞いて驚くディオスにつららは芳藍(ほうらん)の葬儀事情を話した。

「芳藍ではね、葬儀は火葬で行われるの」

「火葬って……土葬じゃなくてですか?」

「そう」

 初めに葬法の仕方で驚くディオス。


 葬法の多くは文字のごとく土に遺体を埋める土葬が一般的で好まれており、埋葬と言ったらこれと言われている。

 当然アシュミストに店を構えている葬儀屋フネーラ及び他の2軒もこの葬法を取っている。

 逆に火葬はあまり知られておらず、遺体を火で燃やすと言うことが避けられている。

 例外として火葬をしなければならない理由がある場合は行われるが、それが一般的に行われているというのが驚かれる方である。


 火葬と聞いて驚いているディオスにつららがその理由を言った。

「芳藍ってね、島国だから土地が狭いの。そんなところにそのまま遺体を埋めるとね、すぐに住める場所がなくなってしまうの」

「島……ですか」

「そうね。もしも家建てようとして基礎作るのに穴掘った場所から人の骨が出てきたらどう思う?それも一人二人じゃなくて十、二十とか?」

「それは嫌ですね」

「でしょ?だから燃やして、一ヵ所にまとめるの」

 芳藍ならではの事情に驚きっぱなしである。

「それともう一つ」

「まだあるんですか?」

「そう。むしろこっちの方が大切かな」

 先程まで穏やかな表情から一辺、真剣な表情になってつららは言った。


「病気を防ぐ為よ」

「病気ですか?」

「そう。この辺りはモルテが詳しいんじゃないかな?」

「そこで私に振るのか?」

 隣に座るモルテに話を振ったつららは困った表情を浮かべた。

「だって、火葬をする意味知ってる人ってこっちじゃあんまりいないもの。あたしだって少し知っているだけよ」

 火葬をする意味を少し知っているだけでは説明出来ないとしてその説明をモルテに頼むつらら。

 モルテもそれを知ってか、仕方がないと肩を落とした。

「土葬はエンバーミングをしなければ感染病の原因となるのだ」

「感染病ですか……」

 感染病と聞いてディオスの表情が僅かに青ざめた。


 感染病は何物よりも恐ろしいものである。

 歴史においてもそれは明らかであり、過去に感染病と思われる病気で数百、数千万という人間がそれで亡くなっている。

 感染病で亡くなると更なる感染を防ぐために感染している遺体を火葬されるしかない。

 感染病か発生する理由としては汚水や工場から排出されるスモッグの大気汚染という不衛生が上げられる。

 医療設備が整い医療が施されるようになった現在でも感染病は恐ろしく、未知となったらそれ以上に恐ろしいことなのである。


「土葬により発生する感染病の原因は遺体の腐敗だ」

「腐敗、ですか?」

 腐敗と聞いてそういえばと思い出すディオス。

 遺体は日数が経過すると腐敗が始まることを。

「腐敗の原因は体に残っている血液と内臓だ。それをエンバーミング、血液を抜き遺体が腐敗しない様に処置をするのだ」

「芳藍はその技術がなかなか進まなかったから火葬の方法が取られたの」

 衛生的問題もあった芳藍の埋葬事情。そして、土葬の問題点にディオスは必死に覚えようとした。

「だが、それは腐敗が進む地での話だ。エンバーミングを施し腐敗が進みにくい場所に埋葬をするとミイラになる」

「ミイラ?」

「ミイラを知らんのか」

 初めて聞くというディオスの表情にモルテは意外だと思った。


「店長、ミイラって何ですか?」

「ミイラってどんなの?」

 今まで話を静かに聞いていたファズマとミクもミイラの存在を知らずモルテに尋ねた。

「ミイラは腐敗せずに原型を保ったもののことだ」

「そんなものがあるんですか?」

「あるから名前が付いている」

 先程まで腐敗したら病気の原因と話をしていたが、突然腐敗しない遺体があると聞かされて興味が沸く。

「ミイラは体に残っている水分が乾燥してしまったもので主に砂漠の国でなりやすい」

「砂漠って確か砂がいっぱいの国?」

「そうだ」

 砂漠と聞いてミクの目が輝いている気がする。

「そしてもう一つ。水が多い場所に遺体を埋葬をすると屍蝋(しろう)となる」

「屍蝋?」

「屍蝋は分解された人間の脂肪と水が合わさり石鹸のようになった遺体のことだ」

「石……鹸?」

 人の体が石鹸になるなど思っていなかったディオス、ファズマ、ミクの三人が顔を歪めた。


「人の体って本当に不思議な物ね」

 つららはむしろ不思議な物だとそれほど驚いていなかった。

「だが、ミイラと屍蝋は死後の保存の為に編み出された物だ。埋葬をして終いにする今の目的とは全く違うのだ」

 現代と比べて昔は死が非情に重く見られていたことを知るモルテは意味が違うと言い切ったのだった。

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