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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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夜逃げの理由

 新しいキッチンで作られた夕飯は短時間で大量に作られ、引っ越しに参加した者全てが美味しくいただいた。

 新しいキッチンを使っての感想は、

「すぐにお湯が沸くし火加減も細かく出来る!」

「ファズマが興奮するくらいすごい……」

 である。

 そして、外が暗くなり当初から引っ越しの手伝いをしてくれた者が帰って行った。

 道具屋息子は旧店舗の異渡り扉から帰り、リチアはまだミクにべったりと付いているリアナを無理矢理引きずって仲間達の元へと帰って行った。

 ミクは引っ越しで疲れたとかですぐに新しい自室へと行き、就寝した。



 引っ越しの手伝いで唯一残ったつららはリビングでモルテと向かい合っていた。

「さて、今回も(・ ・ ・)どういった理由で夜逃げをしてきたのか聞こうではないか」

 先程までの穏やかに過ごしていた表情から一変、鋭い目付きでつららを睨み付けた。

「モルテ、顔怖いね。それと、毎度毎度夜逃げしてないよ」

「私の記憶が正しければこの時期には必ず夜逃げだ。それに、向こうで話した時も夜逃げのことについて否定しなかったであろう」

「何でそんなこと覚えてるの?」

「忘れていると期待しているつららとは違うのだ」

 モルテに言葉で叩きのめされたつららは何も言えなくなってうつ伏せになった。


 二人の会話を聞いて色々と驚いているディオスが小声でファズマに尋ねた。

「ファズマ、ツララさんが夜逃げしてきたってどう言うこと?」

 現れた時に何かが入った袋の様な物を持って来たのを思い出し、それが何故夜逃げと繋がるのか分からない。加えて夜逃げと言っているがつららが訪れたのは朝である。時間と言葉に矛盾があるのではと思っている。

 ディオスの質問にファズマは苦い顔をした。

「ああ……話し聞いてれば分かる」

 これは説明するよりも実際に聞いて感じた方が二度手間にならないとファズマはモルテとつららの話しを黙って聞くようにと促した。


 モルテから無言の威圧感につららは先程まで抱いていた惨めな気持ちを吹っ切って訪れた理由を述べた。

「……見たくないね」

「それだけでは分からん」

「男と女が一緒にいるのを見たくないね!」

(え!?)

 つららの告白に初めて事情の一片に触れたディオスは目を丸くした。

「だって、また恋の時期になってんね!そんな時期に店ん前に男と女の恋人が話しながら通って行くのどう思うね?見たくないに決まってるよ!」

「知らん」

「モルテのいけず!せやから男出来んね!」

「私は作るつもりなどない!」

「意地張ってどうすんね!」

「意地など張っていない。それよりもまたその様なくだらん理由で来るとは」

「くだらんとはなんねくだらんって!」

 突然話が平行線となった。

「どうせまた桜がと言うのだろう」

「そうね!桜咲いてる時に通りすぎる恋人。そして、桜が散って時期が終わったって告げられるとね、また出来なかったって悲しむね。そんな気持ちになんなら桜が咲いて散る時期にいたくないね!」

「それが終わるまでここにいるということか」

「そうよ!」

「自慢気に言うな!」

 ため息混じりに呟いたモルテの言葉につららが一つ頷いた。


 つららが夜逃げして来た理由が信じられないとディオスはファズマに顔を向けた。

「ファズマ、これって……」

「ディオスが思っている通りだ」

 ディオスが言いたいことを理解してファズマが肯定した。

「……こんな理由で?」

「まだあるがな」

「え!?」

 夜逃げした理由がこれだけではないとディオスはまた驚いた。


 モルテとつららの会話はさらに過熱を増していた。

「全く、恋や桜よりもその様な理由でお前はがここへ来るはずなかろう」

「そんなってなんよ!あたしはそれがある時期にいたくないね!」

「正直に言えばいいであろう。あの男に会いたくないと」

宗頼(ときより)は関係ないね!いつも会っているあいつを何であたしが……」

「私は男の名前を一言も言っていないが?」

「モルテの意地悪……」

「私は何もしていないが?」

 モルテにからかわれたとふたたびうつ伏せになって落ち込むつらら。ぶつぶつと何かを呟いているが、モルテは全く表情を変えていない。


「ファズマ、これどうゆうこと?」

 いきなり男の名前が出てきて先程までの会話との繋がりが見えなくなったディオスはファズマに呆れ顔をしながら尋ねた。

「俺も詳しいことは分からねえが、今の時期にその男と会いたくねえみてえなんだ」

「いつも会っているって言ってるけど?」

「知るかよ。この時期だけ会いたくねえってことしか知らねんだからよ」

「だから、ここに来る?」

「そうだ」

 何でこの時期だけ会いたくないのか分からないが、それを本人に聞いてしまえば色々な意味で逃げられないことを直感で理解してしまう。


 つららが何故この時期になると自分の元へ来るのか分かりきっているモルテはあえて突き放すように尋ねた。

「今年はこの時期に留まろうとは思わんかったのか?」

「思うわけないよ!何であたしが向こうにいないといけない?」

「店があるからだ」

 店とモルテの口から言われて黙って話を聞いていたディオスが椅子から滑り落ちそうになったのを気にする様子もなく、つららがまた吹っ切れた。

「店なら小春一人でも出来る」

「どうせ桜花の死神が交代で手伝っているだろう」

「小春も立派に成長したね。問題が起きん限りは大丈夫よ」

 自信満々に言い切ったつららにモルテが呆れてため息をついた。

「全く、お前と言う奴は変に凝ると言うか大胆と言うか……」

「どれも誉め言葉になってないよ」

「誉めていない」

 つららの行動には呆れてしまうが、これがつららなのだと諦める。

「どうせ帰れと言ったところで帰らんだろう。またしばらくここにいろ」

「ありがとうモルテ。分かってくれて助かるね」

 結局いつも通りつららを泊めさせることにしたモルテ。ここでしつこく迫られるようならあっさり受け入れた方がいいという考えである。

「部屋は二階の空き部屋を使え」

「いいの?」

「構わん」

「ありがとうね」

 泊めてくれることが嬉しいつららが満面笑みを浮かべてお礼を述べると、改めて驚いているディオスと呆れ顔のファズマに体を向けた。

「そういうわけだから、しばらくお世話になります」

 こうして、新しい店舗への引っ越しと共にしばらく同居人が増えたのであった。

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