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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
7章 幻影浮世の狐火
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残念美人

 名乗り出して言われた変わった名前にディオスは少しだけ戸惑った。

「ヒムロさんですか?」

「あぁ、それ名字ね。名前がつららなの」

「え?」

 てっきり最初に名乗った方が名前だと思っていたディオスは違うと言われて驚いた。

「一応確認するけど、つららって呼び捨てで呼んでいいか?」

「いいよ。それで何かな?」

「こういう国での名乗り方は、つらら・氷室って言うんだ」

「そうなの?そう言えば前にモルテに言われたね」

「忘れるな」

 前に教えたはずなのにすっかり忘れていたつららにモルテは呆れてしまった。

「それじゃ改めて。つらら・氷室って言います」

「あ、はい。ツララさんで間違いにありませんか?」

「うん、よろしゅうなディオス君」

 今度こそ名前で呼んでもらい自己紹介が済んだ。


 和やかなつららをじっくりと見ていた道具屋息子が目を細めた。

「こ~言うのが大和撫子って言うんだろうな」

「大和?確かに大和って地名あるけど、あたしは芳藍(ほうらん)の桜花の出だね」

「あ~、出身聞いた訳じゃないんだけど……」

 言った言葉に対して返ってきた答えが違うことに道具屋息子は困った表情を浮かべた。

 だが、つららの言葉に驚いた者が一人、ディオスが慌てだした。

「ホ、ホウラン!?ホウランって確か東の果てにある……」

「そう、大陸の海向こうの国ね」

 それが何か?と言うようなつららの様子にディオスは驚きすぎて言葉が出なかった。


 芳藍は東の最果て、周りを海に囲まれた国であり、桜花は都である。

 海に囲まれていたこともあり大陸にある国とあまり交流がなかったことから独自の文化が生まれた。

 近年にして船の造船技術及び航海術が発展したことでようやく頻繁に交流出きるようになり名前が急速に広がった国である。


 仮に芳藍からシュミランのアシュミストへ訪れようとするなら海を渡り陸地の移動となる。しかも、シュミランは内陸であるから日数がとてつもなくかかってしまう。

 海の向こうから来たと思っていなかったディオスは何か言おうとして、直後につららが異渡り扉で訪れたのなら時間なんて関係ないのだと思い出して口を閉じた。

 そして、今更になってディオスはつららと言う人物の観察を始めた。

 長く綺麗な黒髪に同色かと思うような目。服装に至ってはディオス達が着るような包み込む服とは違いまるで掛けて着ている。それを腰の帯で止めており、袖が異様に長い。加えてつららの口調もどこか訛りがある。これが独自の文化を築いた芳藍の服装であり言葉使いなのだと考える。


「それにしても綺麗な着物だな」

「まあ、ありがとうね。これお気に入りなのよ」

「あ、着物はこっちと共通なんだ」

 何故か口説く様な言い方になっている道具屋息子にモルテが溜め息をついた。

「さて、そろそろ持ち場に戻れ。それと、下でダンボールがないと言っていた。すぐに持って行ってやれ」

「え!?もう少しだけ話を……」

「そうね、もう少しだけ……」

「さっさと行け!」

 道具屋息子に睨み付けたモルテ。その眼光の鋭さに怖いと感じた道具屋息子は渋々と下へと向かい、それを見届けてまた溜め息をついた。

「全く、この忙しい時に来るとはな」

「何かしてたの?」

「引っ越しだ」

「引っ越し?」

 モルテの言葉につららは首を少しだけ傾げてモルテの背後の先を目にした。

「もしかして夜逃げ?」

「お前ではあるまい」

「酷いね。ま、冗談だけどね。けど、大変な時に来た?」

「そうだ」

 ようやく葬儀屋フネーラの現状を理解したつららにモルテのため息は止まらない。


「全く、何故毎度ここへと来るのだ?」

「そりゃモルテがいるに決まってるよ。あたしとモルテの仲もあるしね」

「どの様な仲か知らん」

「モルテのいけず!同じ男いない者同士じゃない」

「前にも言ったではないか。子供三人産んだと」

「え!?」

 突然水を掛けられた様な声にモルテはその声を出したディオスを睨んだ。

「て、店長……子供って……」

「持ち場に戻れと言ったはずだが?」

 引っ越し作業に戻らずにずっと話を聞いてたディオスの様子は予想外と言うほどに驚いていた。

 モルテとしてはその様子よりもまだここにいて話を聞いていたことの方が問題であった。

 わざと引っ越し作業に戻れと言ったのに行っていない。この後の展開を考えるならすぐにでもこの場から離れた方がいいと思っている。

「モルテ嘘苦手なの知ってね!そんな嘘であたしが騙されると思ってるの!」

「事実だ。既に死んでいるがな」

「あ……」

 嘘を付くのが苦手なのモルテの口から後ろめたい過去を聞いてしまったディオスは聞いてしまったことに申し訳なく思ってしまう。


「絶対に信じない!そうでないとあたしの乙女心が傷付く!」

「そっち!?」

 だが、そんなモルテの言葉など信じないとつららが喚き出した。

「そっちって何よそっちって!ディオス君もいけず!」

「えぇぇ……」

「だって二十歳(はたち)よ!行き遅れなんだから!」

 ディオスに詰め寄るつららにモルテが始まったと溜め息をついた。

「これ以上婚期延びたら傷付くに決まってるね!それがそっちとか言われたらどう思うね!」

「うわわわ、す!すみません!落ち着いてください!」

「もう、この際付き合う?」

「え?」

 徐々に距離を詰め寄り言われた言葉にディオスの目が丸くなった。

「だから付き合おうって言ったね。ディオス君見た感じ年下みたいだけどいい子みたいやし」

「私の従業員を口説くな」

「モルテは黙っといてな!」

「するか。誰とも構わず付き合えと口説くから実らんではないのか」

「痛いとこ突かんで!傷付くね」

「ならば自重しろ!」

 これ以上の口説きは許さないとモルテはつららを睨みながらディオスを庇う。


「男いないんやから焦ってんね!何でモルテは焦らないの?男いないのに?」

「私は既に夫と三人の子供に恵まれたのだぞ。何故また男を作らねばならない!」

「嘘言わんといてな!全く変わっていないモルテなら一人二人いるんやなかね?」

「誰がお前と同じだ!」

「何でそこであたしと同じになんね!あたしはそんなだらしない女じゃないね!」

「構わず口説いているではないか」

「声かけなければ男なんか出来んね!」

「それがだらしないと言っているのではないか!」

 全く終わりそうにない会話が異渡り扉の前で繰り広げられることとなった。


 その近くにいて全く参加をしていないディオスはモルテが庇ってくれている為にその場から急いで逃げ出した。

 耳を立てながらモルテとつららのまだ続く会話にディオスは改めてつららの第一印象を哀れに思った。

(残念美人だ……)

 恋に恋するつららにディオスはその恋に巻き込まれないようにしようと決めたのであった。


芳藍は完全に当て字です。6章にホウランと書いて失敗したなと思ったのはここだけの話です。

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