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死神の葬儀屋  作者: 水尺 燐
1章 新従業員採用
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葬儀屋の歓迎

 葬儀屋フネーラの近くまで来たディオスは深呼吸をした。

 雇うと言われたが、もしも気が変わって雇わないと言われたらどうしようか、雇われたら雇われたで常識はずれな出来事についていけるのかと色々と不安になっていた。

 近づく度に足を止めては深呼吸。手に持つ紹介状を握りしめている。葬儀屋フネーラは既に目と鼻の先であった。

「……よし!」

 ディオスは小さく、けれども決意を込めて呟き顔を上げた。どの様に転んでも受け入れる事を決めた。

 葬儀屋フネーラまであと少しという所で突然、葬儀屋フネーラの入口の扉が開いた。正確には扉をはじき飛ばしてそこから勢いよく飛び出してきた真っ黒な塊。

「牛ぃぃぃぃぃぃ!?」

 牛は興奮しているのか甲高い悲鳴を一つ上げるとディオスが歩いてきた反対方向の道へと走り去ってしまった。その方向では通行人が驚いて細い裏路地や建物の中へと避難していた。

 牛が走って来なかった方向では突然の事に言葉を失っていた。もちろんディオスも。

「待て牛ー!」

 そんな思いを打ち破るように葬儀屋フネーラから愛らしい声、ミクが叫びながら店内から飛び出し、興奮して走る牛を追い始めた。ミクが興奮した牛に追いつける気はしないが。

「あ、いらっしゃい」

 驚いているディオスに聞き覚えのある声、ファズマが葬儀屋フネーラから出てきて声をかけた。

「な、な、な、何で店から牛が!?それよりもナイフ!ナイフを持ち歩かないでください!怖いです!!」

 ディオスはまだ扉をはじき飛ばして出てきた牛に驚きが冷めておらずファズマに追求したが、ファズマがナイフを持ったまま外へ出て近寄って来たのを見て注意を促した。

「ああ、すみません。立ち話もなんですから中で説明します」

「はぁ……」

 ナイフについて謝罪をして店内へと進めるファズマにディオスはやっぱり常識はずれと思いながらもまだ周りで驚いている数名を残して葬儀屋フネーラへと入った。

 店内に入ると拡散としていた。恐らく、興奮した牛が原因ではと考えた。

 ファズマは店内の様子を気にせずにナイフをカウンターに置いた。

「あの牛は店長が食べたいからと買ってきた牛です」

「はあ!?」

 予想外の言葉にディオスの声が上がった。食べたいから生きた牛を買うのはどうかと思う。それよりも、どこから生きた牛を買ったのか気になる。

 それに、牛と聞くと昔は老いた牛を食べるとされ肉は固いと捉えられている。農村や地方では農作業として使われており高価と聞かされている。一方で若く食べる為に育てられた牛は肉が柔らかく固い肉とは異なり美味しく倍の値が付くために裕福そうでしか食べられない。今では市場に高値で僅かだが牛の肉が出回っているのだが、それでも昔の常識がまだ根付いており買おうとする者は少ない。

 どちらにしても不味いと高価を考えればそう易々と一頭を買うとは考えられない。

「ああ、その気持ち分かります。今朝起きたら仕事場に牛がいて店長から『牛肉をたべたいから捌け』と言われましたから」

「食べたいからって一頭買いませんよね?」

「普通はそうです」

「そもそも、ここでは捌こうと考えないと思いますが……」

「昨夜に豚一頭を捌いたばかりですが?」

 豚を捌いたと聞いてディオスは驚愕の表情を浮かべた。そして、やっぱり常識はずれと思った。

 時間帯というものもあり昨夜は市場全ての店が閉店してしまい目当てであったイルロカ豚のロースが買えなかったったのだ。朝食のメニューを変更しなければならなくなり思いっきりへこむファズマにどうしても肉を食べたいモルテがあっという間に市場ではない違う場所で一頭を生きたまま買ってきて、それを深夜に捌いて朝食のメニューにした事でファズマが考えていた当初のめは変更にならずにすんだ。

 だが、まさか早朝に牛がいてそれを捌くことになろうとはファズマでも思っていなかった。

「何を話しているファズマ?」

 その時、店内の奥からモルテが現れた。

「牛はどうした?」

「逃げました。ミクが追いかけていますが、多分追い付けないとおもいます」

「まったく、捌かれる覚悟がない牛だ」

「いや、捌かれるために死にたい生き物はいないと思いますが?」

「だから逃げるのか?」

「逃げるだろ!生き物全てが命を大事にすると思うから!それに、店長が鎌を出して脅したのもあります」

「協力を迫っただけだ」

「協力じゃなくて脅しだ……です」

「それに、私は生きているものを鎌で斬ることはしない。斬るのは堕ちた者だけだ」

 牛の生存意欲について話すモルテとファズマにディオスは内容が現実から離れている様に思えて言葉を失っていた。

「それで紹介状は?」

 そんなディオスにモルテが目線を向けた。

「す、すみません」

 モルテの言葉にディオスは慌てて紹介状をモルテに渡した。

「それじゃファズマ、こいつの面接を任せる」

「無理です」

「はぁ?」

 採用面接を任せようとしたファズマの言葉にモルテは声を上げた。

「さっきも言いましたがミクじゃ牛には追いつけないので俺も牛を探しに行くので無理です」

「それは後でもいいだろう」

「いや、牛が街中を走っていたら迷惑になりますから。」

 牛の緊急性を唱えるファズマ。それに、ミクだけでは牛の対処が無理というのも正直な心情である。

「そもそも、面接は店長がやるものですから店長がやってください!」

「私も出来ん。今から予定が入っている葬儀に立ち会わなければならない」

「それこそ少し遅れても……」

「それでも葬儀屋で働く者か!」

「……すみません」

 モルテの理由に口を出したが地雷を踏んで謝罪をするファズマ。要するに二人とも予定が入ってしまいディオスの面接が出来ないということだ。

「それじゃ、彼には悪いですが待ってもらいますか?」

 ファズマはディオスに申し訳なさそうな表情を向けて言った。

 ディオスとしては雇ってもらえるならそのくらいはいいかと考えていた。

 だが、モルテがそれに意を唱えた。

「面倒だ。採用。決定だ」

「えっ!?」

 店長モルテの一言であっさりとディオスの採用を決定してしまった。

 はっきり言って面接は元より紹介状をもらいにいく意味があったのかと問い詰めたくなる速攻採用である。

「それではさっそく仕事をしてもらう」

「いきなりですか!?」

 そして、間髪を容れず仕事を言い渡される。

「何を言っている?お前は既に葬儀屋フネーラの従業員だ」

 モルテの鋭い視線にディオスは言葉が詰まった。

「最初の仕事はミクと共に牛を追いかけ捕まえてこい」

「葬儀屋関係ない!」

 最初の仕事が葬儀屋と全く関係ないことにディオスは今まで堪えてきた葬儀屋でない仕事に盛大に突っ込んだ。

 そして突っ込んだことに気づいて顔を青ざめた。つい言ってしまったと。

 これは怒られると思ったディオスだがモルテは気にもせず懐のポケットから一通の手紙を出した。

「それと、これをお前の家族に渡すように。中身はお前の採用書と招待状だ」

「招待状?」

 何故招待状が入っているのか分からず尋ねる視線をモルテに向ける。

「そうだな。お前の口からも言ってもらうとするか」

 そう言ってモルテは真顔で、ファズマは少し笑みを浮かべた。

「今夜、お前の歓迎会を行う」

 その言葉にディオスはどうして招待状が入っているのか理解した。


  * * *


 その夜。葬儀屋フネーラではディオスの家族を含めてディオスの歓迎会が行われていた。

 テーブルには主に豚と牛の肉を使ったご馳走が並べられていた。牛がどの様に最後を迎えたかはこの際、語ってしまうと料理が不味くなるから言わないでいる。

 それとは別に歓迎会は会話に弾んでいた。

 モルテはシンシアから何度も絶えることない感謝を聞かされ、ミクはユリシアと笑いながら話し、ディオスはファズマにいじられ、歓迎会は夜遅くまで続いた。

ちなみに牛は数台の車に衝突されて絶命しました(笑)

ですが、不思議なことにあまり騒ぎにはなっていません。これは情報規制やらなんやらを誰かが行った事で騒ぎが抑えられただけです。

きっとその誰かさんは今ごろぼやいているはずです(笑)

詳細は次回

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